もはや笑い話に近い体格差である。だが、それでも、戦前の予想として金原有利と考えるのは決して無茶な話ではなかった。過去の３戦を見る限り、モラエスは、スタンドでの突進力・破壊力にはすさまじいものがあるものの、グラウンドでの柔術家としての動きだけとれば、さほどのものには見えなかったからだ。

　
　しかし、現実は違った。

　モラエスは、シュアなグラウンドの動きを見せたのだ。

　打ち合うと見せかけ、片足タックルにいく金原。それを切って、すばやくバックに回るモラエス。腕をとって立ち上がる金原。追いかけて足をとって倒すモラエス。金原、ガード・ポジション。

　この最初の展開だけを見ても、モラエスの的確な動きは顕著だった。金原にとっては極めてまずい状況である。非常識な体格差を、圧倒的なテクニックの差でひっくり返す。そこにしか金原の勝機はなかったわけだから。

　ガードをパスしようとするモラエスの動きを殆ど許さない。どうにか片足だけモラエスがパスに成功しても、数発パンチを入れる間に、またガードにもどしてしまう。それどころか、ガードの体勢から体を回転させ、わざとバックを取らせて何度も立ち上がってしまうのだ。

　モラエスが後ろから胴に回した腕を取り、極めにいこうとする金原。

　
　しかし、ここで体格差が邪魔をする。モラエスの太く長すぎる腕はそう簡単に極められない。仕方なくスタンドに戻るのだが、これだけのリーチの差があっては、打ち合いは自殺行為。かといってタックルにいっても懐が深すぎて切られてしまう。

　結局、金原がトップポジションをとれたのは、残り時間が１分程度になってから。到底落ちついて極めにいく暇はなかった。

　
　試合後の金原の顔面は腫れ上がっていた。

　ハーフガードからの４、５発のパンチ。それだけで破壊されてしまったのだ。

　
　顔面パンチＯＫのルールで、これだけの体格差のあるマッチ・メイクはありなのか。これも、また、今後考えていくべき課題である。

（山名尚志）

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取材：山名尚志　薮本直美　カメラ：井田英登　薮本直美
HTML編集：井原芳徳