高阪に「時代遅れ」と評されたハン。

　リングスの先達に大した脅威を感じず、自分を倒せるのは桜庭やエンセンくらいと嘯く金原。

　この試合も、また、一種のイデオロギー闘争である。コマンド・サンボ、という、リングスが世に出した技術と、今や世界標準となりつつあるバーリを下敷きにした総合格闘技の技術との争い。

　軍配はどちらに上がるのか。

　ハンがいきなりの踵落とし。金原もおかえしに踵落としとけれんたっぷりに試合が始まる。タックルに来た金原の腕を絞りあげる、手首をとって小手返し二回とさえわたるハン・マジック。だが、金原も、危うげなく逃げ、逆にテイクダウンに成功。上を制するが、あっというまにハンが体勢をひっくり返し、まずは腕十字でエスケープを取る。

　だが、ここからは互角の切り返し合戦。きびきびとポジショニングから入る金原の関節と、スタンドでは斜めからねじり倒し、グラウンドでは下から、あるいはバックを取られても腕や足を取るハンの変則的な関節が交錯する。しかし、バック・マウントを何度もとることに成功した金原がついに胴絞めスリーパーでエスケープを取り返す。

　さらに、ショートレンジからの打撃のラッシュでダウンを取り、かさにかかる金原。ハンのスタミナが切れそうに見える。

　だが、ここから、膝に手をつき、ばてばてになったと見えてからがハンの真骨頂である。組んだ状態からボディ・パンチのラッシュに入る金原を、足を絡めて倒し、すかさずマウントに。そこからバックに一回まわって、足で首を押さえながら腕をとり、腕十字でエスケープさせる。

　最後は、蹴り足を取った瞬間に、金原の残る軸足の膝のあたりを押すように倒し、そのままアキレス腱固め

　12連勝でオーラを纏いつつあった金原。だが、ハンのいつもの戦法に破れてしまった。タックルでシュアにテイクダウンし、ポジションを取ろうとしていっても、その瞬間に思いもかけない角度から腕をとり、足を掴む。

　だから、結局は、健闘はしたけれども、勝ちは逃したというありし日のリングス・ジャパンの若手対ヴォルク・ハンという図式に、金原も、はまっていた。

　普通の選手として。

　敗戦後の金原はさばさばとしていた。

　ポジショニングで優位に立ち、勝ちを手中に収めつつあったが、ワン・ミスで逆転負けを喫した。金原の解釈はわかりやすいものだった。

　それが本当かどうか。

　ポジションをとってさえいればコマンド・サンボは押さえられるのか。それとも、手首、足首を掴む機会さえあれば、ポジションなど関係ないのか。

　どちらが「真実」かは、再戦の際に明らかにされることになるだろう。

（山名尚志）

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取材：山名尚志　岩田貴宏　　カメラ：井田英登
HTML編集：井原芳徳