リングスの1998年が終わった。

　98年は田村のエース継承で始まった年だった。97年のトーナメントで前田を破り優勝を果たした田村は、98年３月、ベイＮＫの舞台で、エースとして、観客に迎えられた。この大会は、また、キングダム崩壊の後を受けて金原と山本健一がリングス・デビューを飾った興行でもあった。

　リング上に色濃く立ちこめるＵＷＦのにおい。

　インター時代の後輩を従えた田村は、リングスの風景をＵ色に染めていくかに思われた。

　しかし、好事魔多し。

　まさかのヴァレンタイン・オーフレイムへの完敗。そしてタリエル戦での玉砕。それまで圧倒的な勝負強さを見せ続け、エースとしてのカリスマを得たかに思われた田村の蹉跌である。新たな元気印として期待された山健も、負けが負けを呼び、ついにリー・ハスデル戦で、ねじの切れた人形のように倒れ伏してしまう。

　代わって活躍を続けたのが、金原であり、高阪だった。

　だが、それは田村の色とは明らかに違った風景である。ＵＦＣを主戦場に選んだ高阪。リングスで快進撃を続けつつも、エンセンや桜庭と常に行動を共にし、ＵＷＦというより、バーリ・トゥードの匂いをふんぷんと漂わせている金原。

　「ハンは時代遅れ」。こう言い切る高阪の言葉には、時代の変遷、バーリ・トゥードが、喧嘩世界一決定戦のような色物としてではなく、幅広いアマチュア層に支えられた日常的なスポーツとして浸透してきた今を感じざるを得ない。とりわけ、それが、ノールールの試合を毛嫌いし、ガード・ポジションを好きではないと宣言した田村の不調と重なっているのであれば。

　ヒクソン・グレーシーが高田との再戦を選び、リングス版のバーリ・トゥードが封印された中、ＵＷＦかＮＨＢかという路線対立は目に見えるものにはなりにくかった。田村、高阪、金原をはじめとするリングス・ジャパンの面々が、無口ではないにせよ、決して「吠える」タイプではなかったことも大きい。

　だが、スポークスマンのいないまま、イデオロギー闘争は確かに進んで来つつある。それも、ＮＨＢ優勢の形で。それは、リング上での選手の動きが、ポジショニングを始めとしたＮＨＢ用語で解釈しやすいものにどんどんと変化しつつあるところに正直に現れている。

　その中で行われたのが団体戦だった。

　あくまでも静かに、つまりは声高なイデオロギーのアピールのないままに、ぽんと置かれた団体対抗戦。だが、始まってしまえば、その位置づけは明快だった。

　チーム編成という戦略をも含めたゲームとしての格闘競技の面白さ。何のあおりもなくスタートしたが故に、団体戦は、残念ながら、話題にも、集客にも繋がらなかった。しかし、会場で目撃した観客にとっては、そのゲーム性の持つ魅力は、自明のものとして受けとめられた。そして、プロ格闘技におけるゲーム性こそ、ロスト・ポイントという仕掛けによって、ＵＷＦが「発明」したものなのである。

　だから、まだ決着はついていない。

　ゲームとしてのＵＷＦか、一触即発のＮＨＢか。

　99年のリングスは、前田日明引退大会によって幕を開ける。そのアンダーカードの目玉は、金原弘光vsヒカルド・モラエス、坂田亘vsジアン・アルバレスの二戦である。これは、おそらく、リングス版バーリのルールで行われることになるだろう。 　いきなりのバーリ・トゥード解禁。

　その脇で、田村は、自らの失速の原因となったヴァレンタイン・オーフレイムとの再戦に挑む。

　世紀末、リングスの行く末はどうなるのだろうか。

↑全試合結果に戻る

取材：山名尚志　岩田貴宏　　カメラ：井田英登
HTML編集：井原芳徳