そして迎え撃つ渋谷も、先日の横浜文化体育館大会でパンクラチオン・マッチを経験。基本的なファイトスタイルに変化は無かったものの、いつもより果敢な攻撃を見せ、いつもとは違う姿を見せた。相変わらず、安定した実力には定評がある、今居る場所がゴールではない。ここでわざわざ人の踏み台になる気は、さらさら無いだろう。

　いつもと変わらぬ様子、しかし、幾分緊張した様な面持ちで先にリング上に現れた美濃輪。２試合目に登場した窪田と同じく、レガースを付けていない。レスリングを得意とする渋谷に、蹴りを捨てて勝負に挑む心構えを見せる。対する渋谷は随分と気合いの入った顔でマットに立ち、美濃輪を見据える。 THE WARS では、その肉体に報道席からもため息が漏れた美濃輪の肉体だったが、パンクラスの"THE BODY" 渋谷に対峙すると、やはり見劣りしてしまう。

　だが、最初に仕掛けたのは、ノーレガースで気持ちを主張する美濃輪。いきなりタックルを仕掛けて渋谷をロープ際まで押し込むと、外掛けで倒して上になる。脚を抜いてマウントを取るが、体を入れ替えられる。下からの攻めを続けるも展開無く、ブレイク。今度は渋谷からシュートを仕掛けて行くも、粘る美濃輪。がぶられてマットに這わされるような形になるが、渋谷から立ってスタンドに戻す。もう一度、組み合いから内掛けで上になり、なんと掌底を振り下ろしていく。そしてグラウンドの展開には移らず、そのまま離れてブレイクを導く。

　この日の渋谷は、いつもに比べて、立っても寝ても打撃を見せていく。普通のスタンディング・ストライクはもちろん、タックルに来たり、低い体勢にある相手を迎撃するためにも、膝や蹴りを出していく。打撃を捨てて試合に臨んだ、美濃輪とは対照的だ。一方の美濃輪は、いつも通り初めからラッシュを仕掛けるように攻め手を緩めないが、５分を迎える辺りから急激にスタミナを失う。実はこれもいつも通りで、ここから一気に動きが鈍っていく。それでも積極果敢な攻めを止めることはないのだが、受ける渋谷は全く変わらぬペースで、余裕を持って試合を進めていく。よくよく見てみると、極めに行く場面は渋谷の方が多く、下になってもコントロールを怠っていない。上になれば、完全に息の切れている美濃輪に、時たま掌底を打ち込んでいくことも忘れない。本戦終了間際も、ハイキックを放った渋谷を、美濃輪がテイクダウンして上になったところで、試合終了のゴングが鳴る。だが、３者ドローで、ルールにより３分間の延長戦へ。

　美濃輪のタックル、渋谷のハイで始まった延長戦、これも渋谷ががぶり、離れてスタンドへ。もう一度似たような展開になるも、美濃輪の果敢なトライは途切れず、がぶらずに合わせに来た膝を捕らえてグラウンドへ引きずり込むことへ成功。下からの三角締めに来られるも、抜けて立ち、脚を狙いに行く。渋谷も取り合いに応じ、両者その体勢のまま延長戦終了のゴングを聞く。延長でも両者互いに譲らず、結果は再び 0-0 のドロー。美濃輪、善戦するもののランカーの壁を越えることはならず。

　序盤は押しながら、それが最後まで続かなかった美濃輪。体力アップを図ることは勿論大切だが、その体力を何処で遣うかという、ペース配分を覚えることがこれからの課題になるだろう。もう少し、ポイントを見据えて勝負処を決めていかなくては、ほんの一歩先にあるはずのランカーへの道は見えてこない。また、この日はいつもと少し違った闘い方を見せ、その上でランカーの壁を見せつけた渋谷の方も、今いる場所より上を目指す為に、美濃輪にはきっちりと勝っておきたかった。だが、パンクラチオンマッチから帰還した二人が見せた、パンクラスルールのこの試合、スウィングしたパンクラスらしい、いい試合ではあった。両者の、パンクラスにおける次の展開を期待したい。

（眞砂嘉明）