夏の恒例行事となりつつある「NEO BLOOD TOURNAMENT」も、今年ですでに５回目となる。もともと若手選手の登竜門として企画されたこの大会だが、毎回思わぬ伏兵が現れて本命を脅かす事でも有名である。第一回大会では大本命であった柳沢がデビュー半年、参加選手中最軽量の伊藤に破れるという波乱があり、翌年は大本命の近藤が制したもののライオンズデンの新人ピート・ウィリアムスが決勝にまで駒をすすめて注目された。また昨年は、初参戦のエヴァン・タナーがぶっちぎりの強さで優勝。ランカーに駆けのぼる基盤を築いたのは記憶に新しい。

　そうした歴代のシンデレラボーイ達の中でもひときわ目だったのが、１９９７年、第３回大会に参加した美濃輪育久であろう。当時、誠ジム所属のアマチュアであった美濃輪は身体も一回り小さく、どことなく場違いな印象を与えたものだが、金宗王をやぶって一回戦を突破。二回戦でも当時パンクラスではまだ見られなかったガードからの攻めを駆使し、本命の一画であった長谷川と激闘を繰り広げた。判定でやぶれたものの「オマエがネオ・ブラッドだ〜！！」と客席から声が掛かるほどの健闘で三位入賞、その後パンクラスからのスカウトを受けプロに転身した。

　こうした実積を踏まえ、今年のトーナメントでは再び誠ジムのアマチュア選手に対し再び一つ席が用意されることになった。誠ジムはパンクラスの提携ジムで、アマチュアながら年に数回所属選手を中心に大会を開催するだけの規模を誇る。いわばパンクラスのマイナーリーグ的位置づけになるわけで、第二、第三の美濃輪を目指す数名のプロ予備軍を擁している。しかし、彼らに与えられた椅子はただ一つ。その出場権を賭けた予選が「NEO BLOOD PRE TOURNAMENT」と銘打たれて、今回の梅田大会の第１試合に組み込まれる形で開催された。美濃輪の例を見ても明かなようにこれといったアマチュア大会の下部構造を持たないパンクラスにとって、今後のプロ選手としての登用も視野に置いたライセンスマッチの性格が濃い。このチャンスをジャンピングボードに飛びだすホープは存在するのか？　今年のNEO BLOOD本戦を占う材料となるだけに、注目すべき試合であるといえるだろう。

　青コーナーから宮崎、赤コーナーから片瀬の順でリングへ現れる。リングへ上がった両者は上着を脱ぐ。明らかに体が締まってない。激しい摂生で身体を作り上げているパンクラスのプロ選手を見慣れた目には、その落差の大きさが気にかかかる。序盤の打撃戦も、力感が感じられない散漫な掌底の応酬から始まる。宮崎の方にやや分があり、それを嫌うように片瀬がタックルへ。簡単にそれをがぶってバックを取った宮崎がチョークを仕掛けるも、片瀬はターン。そのままマウントになった状態から宮崎は十字を狙うが、すかされ下に。しかし、すぐさまリバーサルに成功し、自ら立ち上がりスタンドを要求する。一連の攻防で、両者の実力差ははっきりと見えた。この後も、片瀬のタックルを潰し宮崎が主導権を握る展開が二度繰り返され、二度目に宮崎はギロチン・チョークからバックを取ってマウント。片瀬がターンしようとすると、今度はきっちりとバック・マウントからチョーク・スリーパーで締め上げ、あっさりと試合を決めた。

　勝負は短時間で決した。しかし、この試合をプロへのトライアウトと捕らえるならば、あまりにも内容が薄い感は否めない。なれないスポットライトの下での闘いという事もあっただろうが、この日のリングにはかつて美濃輪が見せた“ネオ・ブラッド”としての活きのよさ、プロへの野望といったものは感じられなかった。 実質的には前座試合の位置づけとはいえ、これはプロの興行で行なわれた試合である。アマュア総合の水準が飛躍的に上昇している現在、彼等が置かれている恵まれたポジションに見あう内容の試合を求めるのは酷ではあるまい。

　後楽園への道はまだまだ遠い。

（眞砂嘉明＋井田英登）

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