98・11・29
パンクラス
Neo Blood Challenge
大阪・梅田ステラホール

 

第5試合 10分1本勝負
(3分間の延長戦有り/1ロストポイント制)
横浜
稲垣克臣
 
10分判定2-0
(29-28,30-29,30-30)
東京
渡部謙吾
 
×
 

 部謙吾、関西初見参。関西のファンにとって、今大会最大のテーマはこれだったのではないか。実際誰よりも大きな存在感を振りまき、多くの声援を集めていたのはこの男だった。そして、この日は初めての対日本人戦。しかも、若手のみの布陣による興行、“Neo Blood Challenge”。デビュー戦以来、バス・ルッテン、ジェイソン・ゴドシーと、キャリア・実力を兼ね備えた強豪外人選手と対戦し、短い時間で敗れてきた謙吾が、初めて相応の相手と対峙し、その実力を測定される、非常に興味深い機会となった。しかし、対する稲垣はパンクラス旗揚げに立ち会った男。既に若手ではなく、中堅だ。ポッと出の新人に負ける気はさらさらない。そして、これだけ注目を集める男に対するジェラシーもあるだろう。コイツにだけは、絶対に負けるわけにはいかない。そう思って、リングに上がったはずだ。


 合開始、撃ち合いからすぐに謙吾がボディーへのものすごいラッシュを見せ、稲垣をロープ際まで押し込み、観客を沸かす。両者そのまま差し合いになり、コーナーに詰まるが、膠着を嫌って離れる。再び中央からの打撃戦で試合が動き出すが、今度は稲垣が強烈な右フック掌打で謙吾をぐらつかせる。あわや、1ロストポイントで試合終了の場面。決して過剰なエキサイトはしない冷静な男、稲垣の意地を垣間見る。しかし謙吾、持ち直すと再び圧力を掛ける。お返しとばかりに大振りの右掌底をヒットさせ、稲垣はバランスを崩し中腰に。そしてそのままコーナーに押し込んでガンガン掌底を入れていく。既にこの時点で12月のNKホール大会で NHBマッチへの挑戦が決まっていた謙吾、相手より少しでも上の状態になれば、迷わず打撃をふるっていく。この場面も、NHBの大会でよく見られる金網やコーナーに相手を釘付けにしての攻撃と、同じ類のものだ。しかし、冷静な稲垣は何とか体制を整え、再び差しに戻し、細かく膝を入れていく。


 ころが強靱な肉体で、まったく動じることのない謙吾、とうとうさば折りからテイクダウンを奪う。インサイド・ガードとなるが、構わず単発の重そうな掌打を落としていく。そのうち1発で、稲垣の動きが一瞬止まったのを見た瞬間、ラッシュが始まった。謙吾初勝利を促すかのように、沸き返る会場。しかし、頭を抱えて打ち込まれる一方に見える稲垣も、冷静にガードを崩さずに有効打を与えず、なんとかこれを凌ぎきる。やはりこの、拳頭ではなく掌底を落とす攻撃、インサイド・ガードからでは試合を終わらせるだけの決定力はない。


「あそこで、極めに行こうという気は今日ははっきり言ってなかったですね。12月はノールールの試合が組まれているんでその辺を意識して戦ってた部分もあるんですけど」 と語った謙吾だったが、あの状態からの掌底はパンクラス・ルール下では、強烈なアクセントとは成り得ても、そのさき脚を越えて、マウントやハイ・ゲームから打撃を入れていくか、きっちりと極めに行かない限り試合は終わらない。掌打を凌がれると、何もする手だてがない謙吾、試合は膠着状態に入りブレイク。


 び猛然と大振りの掌底を繰り出す謙吾だが、「手を出してから組み付いてっちゃうのが結構悪い癖」と語るとおり、組んでからの有効な攻撃手段が無いのに、押し込んですぐに組み付いてしまう。一方の稲垣は、組み付かれても膝を中心とした細かい打撃でスタミナの消耗を狙う。元一流大学ラグビー選手と言うことで、さすがに足腰が強く、稲垣の脚を取ってのテイクダウン狙いを潰してきた謙吾だったが、ついにここでマット上に転がされてしまう。すかさず上から腕を狙いに行く稲垣だったが、なんとここで謙吾がリバーサル。

 「自分が下になって上に乗られたら、今の自分の技術じゃ下から決める技術が全然無い」と語る謙吾だが、NHBを想定して、こういったポジショニングの技術の稽古は、我々が想像するよりこなしているようである。そして、再び打撃のみを繰り出していく謙吾。しかし、ここはパンクラスのリング。その先無く、またもや膠着によるブレイク。


 合も終盤にさしかかり、疲れの見え始めた両者。圧力のある謙吾が稲垣を詰めていくと言う展開は変わらないが、今度は稲垣が謙吾を浴びせ倒す。先程の攻めで謙吾が予想外に上半身の防御がしっかりしていて、それなりのポジショニング技術も備えてると感じたのか、「はじめから狙ってた」、とにかく極めの強い方が1本を取れる脚をとり、足首固めへ。しかし、全く極めに行くことは考えていない謙吾は、これに付き合わず、脚の取り合いとはならない。そのままなんとか逃げようとするものの、稲垣は相手の動きに合わせて巧みに足首を捻る。完璧に極まった、様に見えた。苦悶の表情を浮かべる謙吾。エプロン際で、稲垣としてはアウト・サイドのブレーク狙いが気になるポジションだったが、「そういう気はぜんぜん無かった」謙吾は、「ギブアップ?」とレフェリーに問いただされながらも、「ノールールならああいう場合で上から殴って何とかなる」と、ガンガン打撃を入れていく。だが、稲垣もそんなことでは極めを緩めない。しかし、ここで試合終了のゴング。


 果は、最後まで冷静に慌てることなく、最後にも極めを見せてポイントをきっちりと押さえていった稲垣が、経験の差を見せつけて2−0の判定で勝利。一方の謙吾は、5年もキャリアの違う稲垣相手に善戦したものの、初の対日本人選手戦にも敗れ、デビュー戦以来3連敗となった。



全試合結果↑

 

文章:眞砂嘉明 カメラ:井田英登 HTML:井原芳徳