'98・11・3 堺市初芝体育館・柔道場
ナニワフリーファイト4
修斗クラスC アマチュア交流戦
 

第26試合/ウェルター級 3分2ラウンド
× 沖津智哉(総合格闘技 夢想戦術/夢想戦術初段、日本拳法初段/
      1勝、98西日本ウェルター級優勝)
 [判定 46-43]
植野信介(ライルーツコナン/シュートレスリング3級/
      98西日本ライト級3位)

 に行われた西日本選手権で、ほとんどの試合をパンチと関節技の双方による一本勝ちで勝ち抜き、ウェルター級を制した沖津。その実績から、大会の選手宣誓を行い、前回の NFF3の第 1試合目のエントリーから、メインとなる最終試合に抜擢された。異色プロ・シューター、レッド・スレイヤー・ガイ主宰の夢想戦術所属の総合格闘家だ。

 する植野はその西日本大会ではライト級にエントリーし、3位の成績を修め、その他にアマチュア・リングスやSAWでも好成績を残している。どんな体制からでも関節を狙いに行けるキャッチ・アズ・キャッチ・キャン・スタイルの流れを継承する、ライルーツ・コナン所属のシュート・レスラーだ。

合はスタンドでのにらみ合いから始まる。ここから沖津(写真右)は得意の打撃戦にもちこみたいが、その展開にはならない。セコンドが大声を張り上げてアドバイスするように、植野は沖津のパンチを十分に警戒している。真っ直ぐと伸びてきて、時にはワン・パンチで相手をKOする沖津のストレート、そして連撃は関西の総合格闘技シーンでは既に有名なのだ。とりわけ、西日本の決勝で優勝候補筆頭の宮崎祐二を一発で沈めた大逆転の右ストレートはいまでも鮮烈なイメージを残している。沖津はこのトーナメント以外には、クラスCを一戦しかこなしていない。たった一度のトーナメントが沖津を強豪の仲間入りをさせ、代名詞まで与えた。


 のパンチを出さない、いや、出せない沖津。カウンター狙いで相手のパンチを誘うかの様にガードを低くし、じりじりと近寄ろうとするが、植野はこれにはのらず、ロー・キックを交えながらパンチの届かない距離を保つ。そして、パンチが襲ってこない内にタックルを仕掛ける。沖津はバランスよくこれを受け止めテイクダウンされる事はないが、完全にきって離してしまうことは出来ない。両者差し合いからがぶったり、脚を取ったりと必死にテイ クダウンを狙うが、なかなか倒れない。特に得意の打撃での勝負を目論む沖津はこれを嫌う。そして離れ際にパンチを入れようとするが、これを計算済みの植野は全てすかす。組み合ったまま潰れるようにして倒れ込み、グラウンドに流れこんで、それが続きそうなになる場面もあったが、沖津はそれを断ち切る。 何度か似たような展開が続いた後、植野がすっと沖津のバックに周り込む。

 そして、跳んだ。背後からの飛びつき腕十字だった。


「ポジションより、極めです。僕は "シュート・レスラー" ですから」

 そう語る植野は先の西日本でライト級にエントリーし、そのポリシーで3位に輝いている。しかし同大会において、所属のライルーツ・コナンの看板選手、"なにわのプリンス" 池本誠知がミドル級の1回戦でまさかの判定を喫する等、そのスタイルはポジショニングを重視し、総合格闘技シーンの最先端を歩む(アマ)修斗の闘いには、あまりそりが合っていない。だが彼は、失敗すれば不利なポジションを強いられ、ビッグ・ポイント献上の危険性のある派手な関節技を、"極めて" 勝つために仕掛けていく。そして、思いもよらないこの攻めは、とうとう西の王者をグラウンドに貼り付ける事に成功する。

 してそのまま焦らず、慎重になりすぎず背後から腕を伸ばしに掛かる。何とかそれを逃れようともがく沖津だが、仰向けになった処で腕が伸びる。「キャッチ」。1Pを示す親指を起こした握り拳を上げ、静かに呟く審判。怒号を響かせる両陣営のセコンド、そして沸き返るオーディエンス。

「手応えありました。極まったと思いました」(植野)。

 しかし、「まあ、何とか大丈夫でした」 という沖津はこれを凌ぐ。実際、試合後の沖津は腕を特にケアする様子も見られなかった。試合の翌日には夢想戦術の稽古にも参加している。だが、極めのスペシャリストたるシュート・レスラーは、そのまま三角締めに移り次の罠を仕掛けていく。捕らえた獲物は逃がさない。だが、粘る沖津。鳴り止まぬ歓声の中、1R終了の合図。勝負は2Rに持ち越される。



 切り直しとなった2Rだが、1Rと同じようなスタンドでの展開になる。しかし今度は1Rに比べ自分から仕掛け、パンチを振るっていく沖津。ところがやはり、1Rの劣勢から焦ったのか、いかんせん大降り気味だ。打撃での勝負ははなから考えていない植野は冷静にローなどで自分の距離を保ち、突っ込んで来られればシュートする。今回も再び何度かその攻防が続いた後、がぶった沖津がやや有利な体制で、共に沈んでいく両者。地上50cmのつばぜり合いになるが、絶対に下にならない植野がだんだん押し込んでいく。苦しくなった沖津は、自分が相手をコントロールできるうちに、引き込むようにしてクロス・ガード。下から腕十字を狙う。しかし植野は焦らずにこれを逃れる。そして相手の腰の浮いてる間に、起ち上がろうとする沖津。そのままその沖津に組み付いていった植野は、すっと背中から落ちていき、脚を絡ませ踵を狙って行く。だが、これをチャンスとばかりに圧し掛かっていく沖津。絡まれた脚を振りほどき、ついにマウントを奪取。ビッグポイントを奪う。

 の勝負強さも、パンチと同じくこの男の武器である。完全に自分の攻めをすかされ、チャンスらしいチャンスの無かったこの試合で、きっちりとポイントを取り、逆転の腕十字を狙っていく。しかしそうはさせじと、植野は下から脚を絡ませ、沖津のバランスを崩しに掛かる。そして、TKシザースのような形でマウントを脱出。当然そのまま脚を狙っていくシュート・レスラー。踵を捕らえ、一気に形勢を逆転させる。しかし、「関節が柔らかい」(植野) 沖津はここでも焦る様子もなく巧みに攻めを凌ぎ、脚を巡る攻防に応じる。日頃から「1本以外は勝ちじゃない」と語る沖津にも、もう一度ポイントになるポジションを取って、判定で勝利を拾おうといったつまらない考えはない。勝つためには、極めるか倒すかだ。熱い歓声が会場を包む中、互いに譲らぬ両者はそのままの体勢で、試合終了を迎える。勝負は判定へ。



 果は組技ポイントの6-4が決め手となり、46-43で植野の勝利。2Rにおけるマウントでのポイント・ロストで自分が負けたと思い、試合が終わった瞬間、ものすごい悔しさを表した植野だったが、ポジショニングとは一番遠い場所にあるムーブメント、飛びつき腕十字で沖津を組み伏せた時、バックを取ったまま関節を取るために焦らず体勢を整えている間に、バックマウントのポイントを奪取していたのだった。「ぜんぜん知らなかった」植野とセコンド陣は本年度・西日本王者からの勝利に歓喜に沸き返る。強豪揃いのウェルター級にまた一人、強い男が加わった。


試合後のコメント

沖津

「打撃で勝負したかったんですが、パンチを全部すかされました。やっぱりまだまだやらなきゃいけない事が沢山ありますね。まあ、やっと一敗できました。(プレッシャーがあったか?) いや、そんなことは言いません。もっとプレッシャー掛かってる人、いくらでもいますから。僕なんか、まだまだです。これからもっと強くなって、もっと面白い試合やりますよ。」

植野

「パンチを一番警戒してました。とにかく、貰わないようにローで距離とって、自分からタックルしかけて。(ポジション取りもそこそこに、関節を取りに行っていたが) はい、僕はシュート・レスラーですから。ポジションより、極めです。勝ったけど、不満はあります。ポイント判定ですから。一本取れませんでしたからね。やっぱ、極めて勝ちたいです。」



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レポート・眞砂嘉明  写真・井原芳徳