長らく実戦の場から離れていたエンセン。最後の試合は、前回のVTJの フランク・シャムロック戦、そう、あのKOで惨敗を喫した試合だ。相手のシャムロックは、その試合を踏み台にしてUFCでジャンプ・アップ。今や 押しも押されぬUFCミドル級チャンピオンとして活躍している。
スターダムにのし上がったシャムロックとは対照的に、エンセンは、この 11カ月というもの、活躍どころか、試合をする機会にすら恵まれなかった。ビザ取得に関わるトラブルでマッチメイクが流れてしまったのだ。本人のせ いではないとは言え、勝者と敗者のその後には、残酷なまでの差がついてしまっている。
だが、それも今日までの話である。
再び巡り来たバーリ・トゥード・ジャパン・オープン。同じベイNK、同 じメイン・イベント。
大和魂、復活の時は来た。

相手となるのはランディ・クートゥアー。
カーウソン・グレイシーの秘蔵っ子であり、一時はグレーシーの名を継ぐ 予定だったビクトー・ベウフォードをグラウンド・パンチの嵐に沈めた男。そして、UFCヘビー級の現役チャンピオンでもある。
神話や伝説はいざしらず、現実の世界の話で考えれば、UFCというのは バーリ・トゥードの実力を図るもっとも客観的な物差しの一つだ。その物差しから見て、現時点で、バーリ・トゥードの世界でヘビー級最強を主張でき る資格がある選手が二人いる。一人は、UFCのヘビー級トーナメントでぶっちぎりの強さを発揮し、その後、KRSに転身したマーク・ケァー。もう 一人が、この、ランディ・クートゥアーである。
つまり、この試合は、修斗のバーリ・トゥード世界最強へのチャレンジで もあるのだ。
最初に登場したのはクートゥアー。余裕しゃくしゃくの表情で長い花道を たどり、リング・イン。客席に挨拶した後は、セコンドのrAwの面々と談笑を始める。まるっきりリラックスしている。
一方のエンセン。
バナナボート、そして、ウィ・ウィル・ロック・ユー。
つんざくようなBGMの中で、片足立ちのエンセンが、せりから静かにあ がってくる。
突如吹き出すオレンジ色の炎。
赤々と照らされたエンセンは頭をつるつるに丸めている。その表情は鬼気 迫る。一年前とは見違えるようにパンプアップした体を曝しながらリングへと向かうエンセン。ギリギリまで高まったテンションがオーラのように体を覆っている。
試合は激突で始まった。
両者、パンチを振り回しながら、がつーんとロック。
クートゥアーがレス リング力でエンセンを押しつぶす。
しかし、次の瞬間には、エンセンが下から腕十字にとっている。
それを持ち上げてたたきつけ、強引にパワーで外すクートゥアー。猪木・アリ状態に。
だが、大人しく転がっているエンセンではない。近づいてくるクートゥア ーに対して、跳ね上がるように蹴りを出す。すさまじいジャンプ。殆ど延髄蹴りかというくらいに寝た姿勢から体が飛び上がる。
クートゥアの隙を見て立ち上がるエンセン。 再びスタンドに戻るが、またしてもつっこみあい、クートゥアーが押しつ ぶす。だが、ガードに取ったエンセンは、今度はクートゥアーの腕を放さない。
クートゥアーの太い腕を、それよりはるかにぶっとい丸太のような二本の 足で挟み込み、ねじり倒すエンセン。
腕十字が完璧に決まる。
UFCチャンピオンからの完全な勝利。
バーリトゥード世界最強への確かな歩み。
「オレが負ける言った人、クタバレ!!」
試合直後、エンセンは、マイクを要求し、この11カ月の鬱憤を晴らす かのように叫んだ。祝福の白い風船が会場いっぱいに散っていく。
エンセン井上は、ついに、ブレイクした。
修斗という競技と共に。
興奮さめやらぬ閉会式で、勝利を祝した本誌の記者に対して、エンセンは、次に闘いたい相 手としてマーク・ケアーの名を挙げた。
チャンピオン戦が組まれる前にUFCから転身してしまったため、マーク・ケアーには称号はない。しかし、その戦いっぷりは、ランディ・クートゥアを上回る。 この大会つい2週間前、マーク・ケアーは東京ドームでウゴを場外逃亡に追い込んだばかり。
エンセンの道は、さらに険しさを増していく。
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