98･8･18 下北沢修斗劇場 第１弾" Shooter's Dream" 下北沢・北沢タウンホール

メインイベント ミドル級２回戦

○ シューティングジム横浜 1R 3'56" 三角締め × 夢想戦術 中尾受太郎 レッドスレイヤー・ガイ (ex.田中幸一）

魅惑のキャラクター対決！？　Text by 井田英登

修斗と言えば何かとストイックな印象が先行しがちである。プロ興行として不可欠な”華”の部分を追及していくにしても、競技としてのシリアスさを傷つけない配慮があってか、なかなか踏み込めない領域と言うのが存在したのではないだろうか？　（朝日昇という”特異点”が存在したのは事実ではあるが、それも”奇人”というキャッチフレーズが免罪符になっていた部分は否めない。） 　しかし、佐藤ルミナの突出によって、ビジュアル面でのカッコよさというものは、観客に受け入れられる事が判明した。ルミナは結果を残しているだけに、誰も文句は言えない。爾来、シューターのビジュアル化が進んだ。茶髪・金髪は当たり前、スパッツ、ガウンにもかなり工夫する選手が見られるようになった。 　そしてその傾向はついに行き着く所まで行き着いてしまった。 　レッドスレイヤー・ガイの登場である。その前身にあたる（？）、田中幸一は元々シューターの中でも異色な雰囲気をもった選手であった。純日本人的マスクにボディを持ちながら、長髪を金に染め、試合中はそれを後ろに括って戦うのである。シューターというより、新宿の中古レコード屋の店員と言うほうがしっくり来るようなタイプで、いつもニヤニヤ楽しいことを想像しているような表情でいる。とても強いとは見えない外見ではないか。そのくせ、圧倒的不利が言われていた藤原正人戦をドローに持ち込むような意外性も持ちあわせている。地元大阪の言葉で言うなら「お前、強いんか弱いんかはっきりせえや（笑）」と言いたくなるような、奇妙な存在である。 　この男がついには、アニメのキャラから取ったというキテレツなリングネームに改名し、髪まで真っ赤に染めたいでたちで、" Shooter's Dream "のメインを務めようとというのだから、世も末・・・いやいや（笑）面白い事になってきたものである。 　一方、対する中尾はミドル級１位の実力派であり、６月の王座決定戦ではマッハ桜井に敗れたとはいえ、その評価は高い。ただ、この人もすっきりしたルックスにもかかわらず、なかなかのおとぼけキャラクターで、飄々とした動きと言動はマニアの注目を浴びている。改名という大技を使う挑戦者に対して、内心かなり競争心を燃やしているのではないかという予想は付いたが、ここまでの切り返しを準備していたとは思わなかった。 　いつもどおりＴシャツ一枚羽織った姿で飄々と入場してきた受太郎は、トップロープを飛び越すと、ひとさし指を立てた右手を客席に差しだして、腰を軽く落とすとくるりとリング中央で一回転してみせる。こうしたちょっとした動きが、妙に芝居がかっていて、味がある。今日も渋さで勝負かな？・・・と思いきや、シャツを脱ぎ捨てたその下は何と蛍光イエローのショートタイツ！！！！そして、そのヒップには御丁寧に勘亭流のフォントで「じゅたろう」と染め抜かれているではないか。カタカナ野郎に対抗するには、純和風の平仮名で勝負だ、とでも思ったのだろうか。ジュタロぉー、お前ってやつは、何て・・・負けず嫌いなんだ（笑） 　目のくらむような光景の連続に、北森リングアナも目まいがしたのか、「ミドル級５位、なかおー・・・あ、失礼致しました、ミドル級１位中尾受太郎」などというオオボケを演じてしまう。思わずゴングを待たずに、北森アナに殴り掛かる受太郎。場内は大爆笑である。 　かくて記念すべき第１回ガッツマン・プロモーションのメインイベントは、歴史に残るような（笑）キャラクター対決となった、のであった。 　ゴングが鳴っても、両者の”持ち味”の激突は止まらない。静かに相手を見据える”静”受太郎に対して、ガイはとにかくパンチを振り回して行く。見きった受太郎は一転、スピードの乗ったタックルで、ガイをコーナーに追い詰めサバ折りでテイクダウン。あっという間にマウントしてしまう。さてどう料理すべえか、と思案するように、あくまで”静”の構えを貫く受太郎。密着してくるガイを、まるで赤子を前抱きにする母のように慎重にリング中央に運んでいく。さすがにヤバイと感じたガイがブリッジで崩しに掛かってきても、まるでその表情は動かない。 　ガイがさかんに下からのシザースで首を刈りに来るのだが、そのタイミングを図ってパンチをいれるだけで、受太郎は大きく動かない。緩急というか、何か考え事でもしているかのように、じわじわ押さえ込んでいる受太郎。ふと、見るとガイの右手を取ってアームロックに持っていこうとしている。逆らうガイの動きを利用して、一気に腕十字へ。一瞬極まったかと思ったが、ここがガイのしぶとさで、仕掛けられた後の粘りと地力が凄い。藤原も結局この泥沼にはまって逃げ切られた。受太郎の引きを腰のねばりで耐えると、上半身を押し込んで腕のロックを外してしまう。 　しかし、受太郎はその間に胴に回した足のフックをするする上に上げて、一安心と思い込んだガイの首を締め上げる。三角締めの仕掛けが読めなかったガイはたまらずタップアウト。 　さすがに曲者受太郎。格下のガイを相手に３分の試合時間は長かったかどうかは議論が分かれる所であろうが、貫禄を見せ付けた順当な勝利と言えるだろう。むしろ、今日見せた余裕が、再びチャンピオン桜井と合い見まえた時、受太郎の武器となるかどうかが楽しみである。