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高慢と偏見 【特別編】
たったひとつのえたやり方
PART-2

<BoutReview2000年の活動方針>

BoutReview編集長 井田英登


 
 (承前)

 −ムペ−ジを作る事自体、一昔前ほど難しい事ではなくなってきている。

 高性能なビルディングソフトも出揃い、直接タグを打つ必要がなくなり、デジタルカメラやフォトレタッチソフトにも安価な製品が出回るようになった。サ−バ−スペ−スも今や無料の物がいくらでもある。こうした傾向に後押しされて、日本のインタ−ネット状況もようやく個人HPが花盛りの時代をむかえるようになった。

  僕らがBoutReviewを立ち上げた時代とは明らかに状況が変わりつつある。

  1人1ペ−ジ時代というものが確実に近づいて来ている。現在もすでにその傾向はすでに見えつつあるが、今後、確実にネット接続がテレビなみに普及すれば、誰もが名刺がわりにHPを持つようになるだろう。

 れはなにも格闘技HPに限ったことではないが、何かのテ−マを持っているというだけで人が集まる時代は完全に終ったと言ってもいい。今や、趣味として格闘技を見る人の個人ペ−ジには確実に関連コンテンツの一つや二つはついている。要するに量の拡大につれて、みんなが似たようなHPを始め質が均一化してしまったわけだ。言い換えれば突出したコンテンツの無いペ−ジは確実に埋もれてしまうという事実を示している。フロンティアに足跡を記したというだけでカウンタ−が跳ね上がったり、人気者になれた時代は終ったのだ。

 だが、ネット人口の増大は同時に、ネット社会に商業性も持ち込む結果となった。人の集まるところには金も落ちる。いわば、個人HPの興隆自体がネットビジネスの底辺を押し上げている構造になりつつあるのだ。企業がどんどんネットに進出し、大きな資本を投入してビッグサイトを構築し始めているのは、「ネットは儲かる」というマ−ケティング結果が出ているにほかならない。

 かくして、インタ−ネットには個人HPと企業HPの二極構造が出来上がりつつある。アクセス数で言えば月間1000程度の個人ペ−ジが蝟集するなかに、100万アクセスが当然の企業ペ−ジがどんどん登場してきているのである。数字だけから見れば、江戸の長屋の家並の中に超高層ビルがぶったてられているような物だ。異常な光景と言うしかない。

 しかし、ネット上の見かけだけを言うのであれば、この両者に本質的な違いは存在しない。ベ−スとなるプログラム言語が全く同じである以上、プラットフォ−ムは個人であろうが企業であろうが、造れるものに大きな違いは発生しえない。デザインや写真と言ったコンテンツ面にしても、個人に力量があれば凡百の企業HPを凌駕することだって可能なのだ。

 ではこの両者の本質的な違いとはどこにあるのだろう?

 れは、現実社会との連携(リンケ−ジ)である。

 個人HPは文字通り、オ−ナ−の個人的な世界の表現であり、個人の内的な価値観によって構成される世界である。個人の内部で完結した世界であるが故に、架空名義による、超個人的世界観で押し通される「ヴァ−チャルな世界」が確立しうる。しかし、そこにはリアルな社会との接点は極めて薄い。日記ペ−ジのように、リアリスティックな自分の日常を記録して、そのことで現実にアクセスすることも可能ではあるが、読者にとってそういった情報は逆に興味を引きにくい。「World Wide Web」というグロ−バルな場所での情報発信と言ってみたところで、結局それは絵に描いた餅でしかないわけで、結局、自分個人の人間関係の範囲での”パ−ソナル・コミュニケ−ション”に止まってしまうのが現実なのである。

 一方、企業HPにはすでに一般社会で確立したブランド、知名度があり、企業活動のリアルなバックボ−ンを背景に、ネットを媒体として活用することができる。物を販売する場合でも、そこに既存の流通網があり商取引の実績があるわけだ。したがって、企業HPはそのスタ−トの段階から、企業が持つ現実世界との接点で万単位の顧客を既にもっている事になるのである。そこに投下される資本があり、最新技術や人材が加わるわけだから個人HPとは全く違う次元の”マス・コミュニケ−ション”が成立するわけである。

 在BoutReviewの置かれている状況はまさに、この両者の中間地点にあたる。  アクセス数、スタッフの陣容、投下資本、社会的認知全てにおいて、個人HPとは言えない内容であるが、一方で企業HPと言えるまでの生産性もない。しかし、この二極集中状況にあって、このポジションはあまりに不安定でしかない。前回にも書いたが、我々の目指すべき場所はあくまで、情報発信者としての安定したポジションである。確実で信頼性の高い情報を発信し、広範な読者を得、そこから確実な収入を得ること。これが目標となる。

 のために必要とされるのは、1にも2にも「現実世界との接点」を深めて行くことなのである。元々BoutReviewは格闘技会場での直接取材を旨とし、団体との取材交渉、現場での情報収集といった点で非常に「現実世界との接点」の大きいホ−ムペ−ジである。出版社系、新聞社系のバックボ−ンを持たないインディペンデントの会社が主催する媒体としては異例のスタイルであると言えるだろう。ただ、情報発信優先でスタ−トしたがゆえに、集金機能を持たない媒体であることも否めない。  9月にこのエッセイの前編を仕上げて以来、僕は文字通りBoutReview専任と言える形で、誌面の充実と、事業の現実化に取り組んできた。

 の第一段として企画したはBoutReviewオンラインショップであった。  すでにインタ−ネット社会ではオンラインショッピングが確立しつつあり、格闘技関連のグッズはブ−ムということもあって、品数も豊富になってきている。また不景気のあおりで本来そうしたグッズの販売ツア−という側面も持つ地方興行が冷え込んでいる現在、地方のファンは東京・大阪の都市圏に遠征しないかぎりグッズの入手手段がない状況でもある。ドコからでもアクセス可能なインタ−ネットの特性をいかして、こうした商品を販売するのは、事業として非常に有望ではないか。また、団体それぞれは正規にオンラインショップを立ち上げ販売も開始しているが、そうした団体の垣根を越え、格闘技のグッズが一堂に会するショップはほとんどない。まして、アクセス数で月間50万を越えるBoutReviewを舞台にすれば、それぞれの商品が読者の目に触れる機会も飛躍的に高まるはずだ。

 そう考えて、秋以来僕は団体関係者との折衝を続けてきた。これまで3年間ねばりづよく会場に足を運び、取材活動を続けてきた甲斐もあって、各団体の担当者の方々も快く僕の提案に耳を傾けて下さった。こればかりは昨日今日店を立ち上げたからといって可能になる事ではない。ただ、前述したとおりそれぞれの団体が既にオンライン販売を開始しているという状況もあって、商圏が存在しないインタ−ネットではなかなか並列的に商品販売をやりましょうという事ができないのも事実である。また販売上のシステム、クレ−ム処理、アドバタイズなどいろいろ現実的な問題も多々存在し、10月スタ−トの予定は大きくずれこんだ。

 だが、その結果として企画スタ−トの段階からこの企画に理解を示して下さった、E-FORCE JAPANを始め、高田道場、パンクラス、UFC-Jといった団体との提携が実現。来年にはこれらの団体の商品が一堂に会する夢のショップが出来ようとしている。現在もK-1、RINGSといった団体との交渉が前向きに行われており、海外でもモ−リス・スミスジム、フルコンタクトファイタ−、SEG、などとのも話し合いをしている。本来ならクリスマス前のオ−プンが可能であったのだが、もう一つ大きな計画が浮上したために、このプランとの連動を考えてあえて1月中旬までオ−プンを延期する事になったのである。

 の計画とは、トップペ−ジでもすでに告知済みであるが、完全有料HP「BoutReview XX(ダブルエックス)」の創刊である。もともとBoutReviewのスタッフ内部では「いつか有料ペ−ジに」という構想を何回も検討してきた。実際、サポ−タ−会員ということで有志をつのり、オリジナルインタビュウなども公開してきたのだが、これも現有勢力では定期的なコンテンツ提供ができず、文字通り「有志読者のサポ−ト」に甘えてしまっていた感が強い。

 ショップ企画で団体関係者との交渉を進めるたびに「だいじょうぶですか?」「食えてるんですか?」という質問を頂く事が多くなった。そのたび「今は先行投資ですよ」と答えてきたのだが、考えれば考えるほど、自分たちの作ったもので正当な評価を受けたい、という思いが強くなっていく。プロとして媒体を維持する事を本格的に考えるなら、もう有料化に踏みきるしかない。僕としてはここで大きな決断を降すことにした。

 ただインタ−ネット文化には「情報は無料」という思想がまだまだ根強い。それを覆して、現在ここまでに育て上げてきたBoutReviewの読者を失うのは戦略的にも上手い手段とは言いがたい。そこで、これまでBoutReviewを無料で楽しんできた読者にも、これなら有料でも納得がいくだろうというコンテンツを提供し、よりハイレベルな記事をお目にかけようという腹をくくったのである。

 の最大の引き金になったのは11月14日にBoutReviewが引き起こしたUFC-J会場での「前田社長襲撃事件」の誤報騒ぎであった。プロフェッショナルとして情報の確実性を売り物にしてきた我々が、よりにもよって誤報騒ぎの引き金を引いてしまったことは非常に忸怩たるものがある。この事件に関する見解は、僕としてもじっくり検討したいので次回以降に回させていただくとして、一つ驚いたのは、BoutReviewの存在がここまで読者に浸透し、広く認知されていたのかという事であった。アクセス数などからは見えない、生の情報伝搬の範囲の広さというものを目の当たりにして、正直驚いてしまった。また、その直後開催した問題検討のためのチャット大会で読者の皆さんから直接いろんな意見を聞かせて頂いたこともまた大きなヒントになった。「今のBoutReviewはストイック過ぎて、面白さに欠ける」「もっと自分たちの見解を全面に打ちだしてもイイのではないか」「もっと選手の本音に肉薄して欲しい」という声が僕には印象に残った。読者の皆さんは僕たちが考える以上にBoutReviewに媒体としての責任を期待しているし、読者としてよりリ−ダビリティのい高い面白い記事を求めているのだということがひしひしと伝わって来た。こうなれば自分たちを逃げ場のないぎりぎりのポジションに置いて、この活動を全うするしかない。その覚悟を固めるためには、もう有料化しかない。ここから先は毎回毎回が読者との真剣勝負である。負ければ、僕たちの活動は終る。それぐらい強い覚悟と責任感が必要なのだ。

  「BoutReview XX(ダブルエックス)」と名付けた意味はいくつかある。  西暦2000年という大きな節目にスタ−トする以上、その意味をどこかに残しておきたいが、「BoutReview 2000」や「BoutReviewミレニアム」では来年以降も使えない。そこで、ロ−マ数字の20であるXXでその意味に当てるというのがまず一つ。

 加えて、メキシコのビ−ルブランドである「X」シリ−ズにちなんで、ウノ(1)・ドス(2)・トレス(3)、とXが増えるにしたがってグレ−ドが上がるシステムを連想したこともある。現在BoutReviewの有料化を第二段階と位置づけてみたわけだ。もちろんその先にまだまだ次なる到達段階があるであろうという意識もあるから、最上級ではないXは二つなのである。

 そして最後に、上記のチャット大会で聞かせて頂いた「今のBoutReviewはストイック過ぎて、面白さに欠ける」という意見に対する答えも、刻み込んでおきたいという気持ちもあった。これは前回にも書いたが、BoutReviewはインタ−ネットを舞台にスタ−トした媒体なので、既存の活字雑誌のように自由にライタ−の意見だけで構成してしまうと、掲示板での無責任な意見との差別化が難しくなる。そのため創刊三年来、あえてストイックな記事スタイルを貫いてきた。しかし、場所としての定着をほぼ果たした今、そのスタイルを一度壊して、もう一度新しいスタイルを確立し直す必要もあるだろう。いわば、従来のBoutReviewを一回根本から否定する行為、これを×に託したのである。二つ重ねたのは、スタイルを破壊し、再度構築するという「二重否定」の意味だ。

 スタ−トにふさわしく、伝説の最強戦士ヒクソン・グレイシ−、そしてK-1王者の座についたア−ネスト・ホ−ストの最新インタビュウが揃った。この辺りの運の良さというのは自画自賛したいほどツイている。ここに、21世紀の格闘技界をリ−ドしていくであろうノブ・ハヤシ、須藤元気らホ−プのインタビュウを絡めた構成もまた自信がある。内容的にも満足のいくものが取れており、既製の格闘技雑誌に負けない記事が準備できたのではないかと思う。資本もコネクションもなかった我々が、こうしたインタビュウを取り、発表できるだけの場所にたどり着くために、これまでのBoutReviewの三年間があったと思う。あとは読者の皆さんの判断とさらなる支援を期待するのみである。

  し沢山の皆さんの支持を受けることができれば我々はまた次の高みを目指して、新しい試みを行っていくことができる。それは恐らく「BoutReview XXX」もしくは他の名で呼ばれる新たなチャレンジになるだろう。既にそれに対する伏線は着々と引かれている。それがこの文で長々と語ってきた「現実社会とのリンケ−ジ」という問題の延長線上にあるアプロ−チであることだけは確かである。

 かし、ここではヒントを一つお目に掛けるだけに止めておこう。

 BoutReviewでは、谷川貞治編集長のSRS-DX誌で「格闘技インタ−ネット特集」の記事構成を担当することになった。インタ−ネット初心者向けの特集なので、既にネットに馴染んでおられる本誌の読者には物足りない内容かもしれないが、我々の活動が活字の世界にも徐々に波及しつつあるということを、心に止めて置いていただければ幸いである。          

 (1999年12月31日大阪、 BGM: AEROSMITH " Eat the Rich") 

 

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