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Report

UFC 33 "Victory in Vegas"
2001年9月28日(金)
米国・ネバダ州ラスベガス マンダレイベイ・イベントセンター

ライト・ヘビー級 / チャック・リデル対ムリーロ・ブスタマンチ

「ラスベガス・ルール」

、アメリカの総合格闘技ファンの間で一番注目を浴びているのは、トム・エリクソンとマーク・ケァ−に完勝した「テキサスの暴れ馬」ヒース・ヒ−リングと、UFC 31 でケビン・ランデルマンをパンチ一発で葬り、PRIDEでガイ・メッツァ−を病院送りにしたこのチャック・リデルだ。タックルを切って、殴る、蹴る。グランドではとにかく絞める。シンプルかつ豪快な戦い方。単純だがスケールが大きくインパクトの強い勝ち方をしてきた選手がアメリカのファンに受けるのは納得がいく。高度なテクニックを感じさせる関節技よりも、誰でも明確にわかるスピードとパワー。白黒がハッキリと判る戦い。これこそがアメリカン・スタイルなのだ。この国のスポーツ・ファンは総合格闘技を論じる際に、必ずと言ってもいいほど比較対象としてマイク・タイソンを引き合いに出す。寝技も蹴りもタックルもできないタイソンだが、あれだけの身体能力があるのだからそれなりに練習すればタックルは切れるだろうし、パンチが一発でも当たれば間違いなくKOだ、というのがアメリカのファンの言い分だ。そんな闘いを実践してくれているのがヒ−リングとこのリデルなのかもしれない。

今夜の対戦相手、ムリーロ・ブスタマンチは超一流のブラジリアン柔術の選手だ。高度なグラップリング技術を持った選手と戦う場合、打撃系選手にとってタックルを切り打撃を当てるという技術が一番重要なポイントとなる。「奴をグラウンドに持ち込むのは不可能に近い」と同僚のティト・オーティズもコメントしているように、今、UFCで闘っている打撃系選手の中で、この技術に一番長けているのがリデルだと言われている。手足が長いので懐が深いし、何と言っても大学で本格的にアマレスをやっていただけあって、タックルへの反応が素晴らしい。

ラウンドはそんなリデルの独壇場だった。タックルを完璧に防ぎ、パワフルなパンチで圧倒し、強烈な右ストレートでブスタマンチを2度もマットに落としてみせた。しかも、一発目のパンチはブスタマンチの脳みそを揺さぶらんほどの強烈なものだった。これこそがアルティメットの醍醐味。総合格闘技を一般の人にも認知して欲しい、そう思っているファンにとっては嬉しい展開だ。超一流のグラップリング技術と荒っぽいストリート・ファイターをも彷佛させる一撃必殺の打撃。我々ファンが、総合格闘技という未知のスポーツも友人・知人に紹介する時に自信満々でみせられるのはこんな試合だ。

しかし、第2ラウンド後半あたりからリデルの動きが鈍くなる。極端に手数が少なくなり、大きく肩で息をする場面が多くなってきた。スタミナが切れている、誰の目にもそう映ったはずだ。第3ラウンドでは、スタンディングの攻防でもブスタマンチに押され逆に何発かパンチを貰ってしまう。リデルがもし一発いいのを出せれば勝てるのに。メッツァ−を倒したあの斜め横からくるフックのような右ストレートが当たれば。だが、ブスタマンチの打撃の前にどうしても手が出ないほどになっている。リデルは最後の力を振り絞ってラスト30秒からあたりからラッシュにでた。ブスタマンチは巧みなディフェンスと打撃で対抗し有効打を許さない。ここで試合の終わりを告げるブザーが鳴った。

1ラウンドのリデルのパンチはブスタマンチにかなりのダメージを与えた。しかし、あとは互角、いや、最終ラウンドはどう見てもブスタマンチの方が優勢だった。総合格闘技のコアなファンの一部は「延長までやらせて真の勝者を決めるべきだ。スタミナも総合格闘技では大切な要素の一つ。5分3ラウンドでは短すぎる。延長戦に入れば、ブスタマンチが寝技に持ち込み関節技へ持っていくチャンスもあるハズだ」、そんな気持ちだったようだが、アメリカのごぐ普通のスポーツ・ファンの視点はラスベガスのジャッジと同じくボクシングに傾き気味なので、1ラウンドをパンチで独占したリデルが優勢に見えただろう。

そんな予想どおり、ジャッジは3-0でリデルの勝利を告げた。観客は満足しているようだった。ブスタマンチには可哀想だが、興行的にもアメリカでのプロモーションという観点からみても、リデルのほうが多くのファンを獲得できる可能性は高い。リデルがアメリカ人でブスタマンチがブラジル人だからという話ではない。アメリカの観客が、柔術のもつ高度なテクニック、寝技の奥深さ、関節技の恐怖を理解するのにはまだまだ時間が掛かるからだ。ローキックの有効性の認識さえも乏しい観客に、いきなり寝技、関節技を楽しめというのはどうしても無理がある。もう少しボクシング以外の格闘技に見慣れてもらわないと。ジャッジは正直にリデルの勝ちを確信したのだろう。ファンの大半もこれで良かったと思っているようだ。でも、本当にブスタマンチは負けたのか? 文句無しにこの日一番の好勝負だったが、観ていて何故か複雑な心境になった。リデルの勝利が告げられた時、僅かながらブーイングが起こったように思えたのは、寝技・関節技の攻防を理解しているコアな総合格闘技ファンの幻聴だったのだろうか?

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