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Report
renaxis
99・10・29 “修斗 the Renaxis 1999 in Osaka”なみはやドーム

メインイベント(70kg契約3回戦) 
K'z FACTORY
佐藤ルミナ
1R 0'55"
レッグロック
アメリカ・シルバー・バックス
フィル・ジョンズ
×
 
 たもや勝負は秒殺で終った。
 予想された結果とはいえ、あまりにあっけない復帰戦であった。

 対戦相手のフィル・ジョ−ンズはNCAAレスリング2回制覇で、NHB歴も19戦で13勝6敗、主な戦場はエクストリ−ム・チャレンジの他、フックン・シュ−トではライト級のチャンピオンでもあるという。しかし、157センチと小兵で、ルミナと比べても10センチの身長差がある。実際に試合を観る前から断定するのは良くないが、余り期待できる対戦相手とは言えない。

 「RUMINA SATO 強し」の評判は海外でもすでにかなり広く知られた情報となっている。今回のカ−ド編成が難航した一因にはそうした評判が高まり過ぎて、対戦相手がみな難色を示したからだという声も聞こえている。フィル・ジョ−ンズの実力にに疑問符を付けたくなったのはそんな事情もある。最近のトップクラスの格闘家というのは、発達した情報網も備えていて、どんな対戦相手、どんな大会を選べば自分の戦績を高められるかをよく知っていて、ネットワ−ク作りや情報収集にも長けているものなのだ。もはや強豪=敵を選ばずという時代ではない。むしろ的確に敵を選ぶからこそ、強豪として名前が上がる時代になってきているわけだ。この時代に「無名の強豪」といえば、無印良品か、情報収集がイマイチの無謀な人のいずれかになってしまうのではあるまいか。

 しかし、ルミナの姿を初めて目にする浪速っこにはそんな事情は関係ない。雑誌で、ビデオでしか目にしたことのないス−パ−スタ−の登場を一目見ようと、ファン達が花道に殺到する。入場門は後楽園でも設営されることのない派手なシルバ−トラスの、ビッグマッチ仕様だ。スモ−クのなか、イルミネ−ションに浮かび上がったルミナの表情は想像以上に硬い。やはり復帰戦であること、メインイベンタ−であることの重責がのし掛かっているのだろうか。


 ングが鳴る。見あった両者。ルミナの強烈なミドルが、ジョ−ンズの腹部にぶち込まれる。それが合図であったかのように、ジョ−ンズは両手を機関銃のように振り回してパンチを繰りだす。しかし、間合いが遠い。ルミナはフットワ−クでそのことごとくを避けながら、リング半周を引き回すような格好で動いていく。そして、その勢いあまったジョ−ンズを素早く引き倒し、そのままバックから回り込んで十字を極めに入るルミナ。そこはなんとかパワ−でこらえたジョ−ンズだが、そのボディに腰掛けた状態になったルミナは素早く反転し、全く無防備の足に飛び付いてアンクルを極める。ジョ−ンズはほとんど為す術もなくタップアウトするしかなかった。

 大歓声に包まれる会場。両手を天に突き上げるルミナ。しかしそのあとカメラマンの求めに応じてポ−ズを作るルミナの表情は最後まで崩れることはなかった。まるで、今なおも戦いの最中であるかのような険しく引き結ばれた表情の奥で、ルミナの脳裏に去来したものはなんだったのか。

 して、もう一つ、このカ−ドには疑問符を付けざるを得なかった理由がある。それは今のルミナに国際戦が果たして必要なのだろうかという素朴な疑問である。

 確かに佐藤ルミナの出世試合となったのは、ブラジル出身の黒帯柔術家ヒカルド・ボテ−リョ戦での勝利であった。しかし、その後スタ−ダムにのし上がったルミナは、宇野戦での手痛い敗北を喫するまで一度も日本人戦を経験せずに来ている。いわば、修斗思想の外部からやってくる外人との他流試合にばかり力を使っており、同じ技術体系である修斗選手との対決をずっと経験していなかったのだ。未知なる外敵との対決は、出方がわからない分、度胸も必要だし、体力の勝った外人相手に膠着戦となれば、押さえ込まれたときに弱点を持つルミナの場合、判定負けを喫する危険もある。結果として、一秒でも早く勝負を決めなければならない、いわば”居合抜き”のような勝負をかけるしかないのだ。事実ルミナはこのところの勝負をほとんど電光石火の秒殺勝負で切り抜けてきている訳だが、それにはそうなるだけの背景と意味がある。

 極論すれば、宇野戦までのルミナの試合は修斗ル−ルの枠内で行われた異種格闘技戦であったと言ってもいい。宇野戦で見せた、後半の脆さ、スタミナの消耗といった要素は、同じ技術体系をもつ日本人選手と、”修斗の試合”をやったがゆえに生じてしまった、意外な弱みではなかったか、と僕は見ている。

 ルミナが今後ウェルタ−の王座を賭けてもう一度宇野と同じリングに立つためには、まず、今下位から追い上げて来ている五味、桑原、伊藤らの日本人ランカ−との、”修斗の”凌ぎあいを制することではないのか。それでこそ、次期挑戦者としての資格を名実ともに得ることにもなる。

 確かに、エンセンが戦線をセミリタイアした状態の今、ルミナをそうしたドロドロとした凌ぎあいの世界に置くことは興行上の要請として苦しい選択かも知れない。しかし、修斗が真に格闘スポ−ツの王道を行こうとするならば、人気選手であっても特別扱いしない、序列なきマッチメイクを望みたい。またそれが選手としてのルミナに対しては、最高の王道になるはずなのだから。



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レポート・カメラ:井田英登 

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