ルミナが宇野にウェルター級王位を明け渡したのは昨年の横文大会だった。あれから一年と三ヶ月。ルミナは、ウェルター級1位として、3位の桑原の挑戦を受けることとなった。
勝って当然・・・そういうプレッシャーがあるところにもってきて、相手の桑原は、ともかくしぶとい相手だ。150cm台という短躯ながら分厚い肉体は豆タンクのようである。その頑丈な身体で、どんな強敵の攻撃も吸収してしまう。そうして判定に持っていく。
一本を狙うことを美学としているルミナとは、戦略も、もちろん見た目も、まるで正反対の選手。ルミナとしては、来るべき宇野との再戦に向けて、綺麗に勝っておきたいところだ。
1R。両拳を自分の額の上に掲げ、下から覗き込むような構えを見せる桑原。隙あらばパンチで飛び込もうという勢いである。一方のルミナは、サイドキック気味の蹴りで間合いを図る。
機を捉えてパンチで飛び込む桑原。それをいなしてバックを取るルミナ。そのままおんぶ状態で抱きつき、両足を絞めて桑原を倒す。バックマウント。1R時間、残り3分半。完全な勝機である。
だが、ここからが桑原であった。
ポジションをキープしながら殴り続けるルミナ。
勿論、首を脅かすことも忘れてはいない。
しかし、桑原が崩れない。そのまま首をすくめ、顔面を打たれないように手を上げて、頑張り続ける。何発殴られても、痛そうでも、苦しそうでもないところが桑原らしい。耐え抜いて、涼しい顔でコーナーに戻る。
2R。牽制の打撃から、今度は、タックル狙いで突っ込む桑原。
しかしルミナががっちりと受け止め、逆に組んだままコーナーに押し込む。かなり身長差があるところから、そのまま右膝を打ちにいくが、桑原が両手をルミナの腰にあてて突っ張って距離を取り、射程圏外に逃げる。
コーナーを離れたところで、汗のせいか、ずるっと抜けてしまい、再びスタンドに。
ミドルを取り、テイクダウンするルミナ。
桑原がクローズド・ガードの体勢で、ルミナの腰に両手を回し、完全に密着する。ルミナ、桑原を抱え上げ、頭を押さえつけて、そのままマットに激突させる。
しかし、桑原、崩れない。
再び持ち上げて激突。
それでも平気な顔をしている。
結局、このラウンドも、優位な体勢を作りながら、桑原を攻めきれずに終わった。
そして最終ラウンド。
またもや打撃の出し合い。ルミナの右膝が桑原を襲う。
それを抱えて右のパンチを出し、そのままぶちかましのような勢いで前に出る桑原。
ルミナがロープを越えてまっさかさまにリング下に落ちる。
「バッティングだよ!!」
大きく声を上げたルミナの顔面、上半分は、瞬時のうちに真っ赤に染まっている。誇張ではなく、ペンキを被ったような流血。額が激突し、ぱっくりと裂けたのだ。
結果は、アクシデントによる中断。それまでの判定により、ルミナの判定勝ちとなった。
一本を取り損ねたルミナは、そのまま客席に土下座。
ルミナは、3R後半に勝負かけて動き回ろうという作戦を立てていたという。2Rまでに相手の息は上がって来ていたし、得意の4つに持ち込めば、テイクダウンしてぼこぼこに殴って絶対に一本を取れると。「妙に賢く考えてたのが自分らしくなかったのかもしれませんね。それでこういう結果になっちゃったのかも」。
二度目の横文は、勝ちこそ奪ったものの、消化不良の試合に終わってしまった。
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