初夏の緑がまぶしい日曜日、三人目の五輪選手を輩出したレスリングクラブについて知りたくて木口会長のもとを訪れた。横浜市郊外の木口道場。そこには、木口会長と子どもたち、そして、普段は少年レスリングの指導をするコーチであるプロシューター、五味隆典がいた。
来週の修斗公式戦に備えて、木口会長は五味に特別なトレーニングメニューを課した。そのメニューは、おそらくどこの道場でも考えられないほど過酷で、豊富な基礎体力がなくては真似できないような凄まじいものだった。その苛烈なトレーニングは、道場出身者から「木口式」と呼ばれ畏れられると同時に、彼らの自信の源となっている。
修斗のウェルター級は百花繚乱の華やかさを持つ。チャンピオンの宇野薫は真摯でピュアに、絶対に下にならないグランドコントロール主体のスタイルを保ち、ランキング1位の佐藤ルミナは鋭く鮮やかに極めに入る。五味よりランキングは下だが、桑原卓也には独特の重厚さにユーモアが混じりながらファイターであることを強く感じさせる。そして五味は?ランキング2位である彼はウェルター級の中でどんなプロシューターをめざしているのか。
今までの五味の評価は「レスリングをベースにしながら打撃センスが高い」が主流だ。その言葉は、一見ほめ言葉に見えるがその実、あまりほめていない。レスリング主体の動きをするのに、決め手は打撃に頼る。その打撃もセンスが高いと表現されるのは、確実な技術ではないことの裏返しの表現だ。この表現は、おそらく闘う五味自信を苛立たせている。判定結果が完勝でありながら試合後、不満げにマウスピースを投げた彼の態度はその苛立ちのあらわれか。
第3ラウンドまでフルに闘ったその試合で五味は、常にポジションを上に保ち、少し無理な体勢からでも打撃を試みた。3ラウンドにはアームロックもしかけ、絞めも狙う。しかし、決め手を欠いた。ポジション取りは優位に運ぶのだが、極めに至るまでのモーションへ繋がらない。五味隆典のオリジナルな強さを見せつけられない。
終始優位なポジションを保持し続けた結果は、3−0の判定勝ち。三人の判定はすべて五味に軍配を揚げた。先週の日曜日に約束したとおり、勝ったらみんなでリングに上がろうと木口道場の子どもたちがリングサイドへ駆け寄る。しかし、五味は子どもたちがリングに上がるのを待たずして降りてしまう。困り顔の子どもたちの頭をひとつひとつなでながらバックステージへ五味は退いてしまう。
“プロ”シューターとして、五味がみずからに描く理想型はなんだろう?過酷なトレーニングからの自信を保ちながら、それを十分に表現できないもどかしさが強まる3ラウンド15分間だった。
(横森綾:BZG03701@nifty.ne.jp)
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