<大会総評> リングスのバーリ・トゥード・アクセス 山名尚志 |
はっきり言ってしまおう。
この大会はリングスにとってのバーリ・トゥード・アクセスである。修斗ファンなら周知の通り、修斗が現在の隆盛を誇るにいたった最大の契機は、UFCにおけるグレーシー柔術の衝撃的な登場を受け、佐山聡が、それまでのルールを捨て去り、バーリ・トゥード路線に舵を完全に切り換えたことにある。その最初の興行シリーズ名がバーリ・トゥード・アクセス。ここから、修斗は、順次それまでのU系の根っこを残したルールを捨て去り、スポーツ化されたVTへとその姿を変えるにいたる。
だが、当初の修斗は辛酸を嘗めた。94年にバーリ・トゥード・アクセスを開始してから97年始めに佐藤ルミナが一矢を報いるまで、ブラジリアン柔術勢の前に累々と屍を重ねた。「日本最弱」。刺激的な言葉が格闘技専門誌の表紙を飾った。
それでも、このリスクを取らなかったとしたら、現在の修斗の成功はない。
VTという世界標準にアクセスしたこと。重ねていうが、これが競技としての修斗の将来を保証した。今回のメガ・バトル・オープン・トーナメントのルールは、グラウンドでの顔面パンチは禁止である。ストップ・ドント・ムーブもなく、しかも、膠着時のブレイクが、今までの通常ルールのレフェリングよりも早い。なのにバーリ・トゥードという言葉を持ち出すことには、違和感を覚えられる方もいるかもしれない。
だが、本大会の試合を見た限りでは、両者の類似性は明らかだ。
VTに強い選手はこのルールでも強い。つまり、バーリ・トゥーダーとしての技術、戦略を持っていなければ、この大会では勝ち残れない。今まで、我々は、グラウンドでの顔面パンチを、その鮮烈なイメージから、VT的なルールとそうでないルールの分水嶺として考えてきた。しかし、本大会を見る限り、それは誤りであったというしかない。寧ろ、ポイントは、「一本勝負」と「グローブでの顔面打撃」にあった。
ゴキテゼ・バクーリはダン・ヘンダーソンの顔面パンチに怯えていた。
ポイント制を前提とした「とったりとられたり」レベルの関節技、ポジションをきっちり決めることのない極めのあり方は、UFCやVTで生きてきた選手には通用しなかった。
結果として、リングス・ネットワークの選手の殆どが、バーリ・トゥーダー相手に為すすべもなく敗れ去った。結果を出したのは、キングダムでVT対応を開始していた金原と、アブソリュート大会を始め数々のVT大会に豊富な出場経験を持つミーシャだけである。今までのリングスのVTへの接近は相当に及び腰だった。
確かに、山本をヴァリ・ジャパに送り出し、あるいはモラエスやリマ、アルバレスを招聘し、と、VTの試合を行っては来た。だが、その扱いは、あくまでも「イレギュラー」としてのもの。リングス・ルールという本城をそのまま残しての防衛的なつきあい方だった。
しかし、この大会で、リングスはルビコン川を渡った。
リングス自体の核となるトーナメントで、バーリ・トゥーダーでなければ勝ち上がれないルールを採用する。
もはや帰るところはない。VTというグローバル・スタンダードにおいて実力を示さなければ一歩たりとも先には進めない。トーナメント終了後の通常大会のルールがどうなるかは未だ発表されていない。しかし、これで普段の大会はかつてのルールのまま、という話はありえないだろう。
グラウンドでの顔面パンチを排していることにより、「過度の残酷性」という番組放映における問題点は回避されている。
また、ブレイクが早いことにより、膠着して消化不良の試合が増えるというリスクも存在しない。
障害がない以上、先に進むのが当然だ。
何より、これは後戻りができるような問題ではない。ワールド・メガ・バトル・トーナメントの開始により、リングスにとっての20世紀は終わった。
もう、UWFも、キャッチも必要ない。
殴り、倒し、押さえ、極める。
このシンプルな技術を磨きに磨いたものだけが来世紀に進む権利を持っている。
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大会レポート :1. リー・ハスデル 対 ラバザノフ・アフメッド
レポート:山名尚志 カメラ:井田英登 |
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