昨年12月のタイ国王誕生記念大会で見事KO勝利、今回が凱旋試合となる楠本勝也が17歳のムエタイ戦士ラクレイ・ソー・ワッチャラと対戦。テクニックに翻弄されつつも激しい打撃戦に持ち込む健闘を見せたが、最後はタイ人のカウンターに沈んだ。
試合前のワイクーを最後まで手抜きせずきっちり踊るラクレイ。これだけで判断が出来るわけではないが真面目なタイプ?少なくとも仕事はきっちり最後までしてくれそうだ。
初回、ローから独特の軌道で放つフラットな左右フックで前進する楠本に対し、鋭い肘を起点に踏み込み得意の首相撲に持ち込むラクレイ。楠本を捕らえるとすかさず投げ捨ててみせた。
日本を代表するコンビネーションファイターである楠本の前進をタイ人はテンカオ、ミドルで迎撃。そしてしつこい首相撲からの膝蹴り。楠本の重いロー、ミドルを受け止め蹴り足を掴んで転がし、ハイを見切る動きからラクレイがランキングにこそ入っていないものの、かなり「出来る」のが分かる。
2Rに入るとラクレイの左ジャブからの右ミドル、楠本の左右フックからローへつなぐコンビネーションが交錯。そこから首相撲へ持ち込みたいラクレイと自分の距離で戦いたい楠本との間で激しい攻防が展開される。肘を振るいミドルで前に出るタイ人に楠本アッパーを合わせ、ラクレイの強烈な前蹴りには左ミドルから右ストレート。ラクレイ右ミドル繰り出すとワンツースリーを返す。両者ともに動きに切れがあるために、目の離せないめまぐるしいやり取りが続く。ラクレイの動きのよさももちろんだが、リズムにのった楠本にこういうアグレッシブな試合をさせると日本でも屈指だろう。
しかし、3Rからラクレイの首相撲がじわじわと楠本を捕らえ始める。前半からしきりと首相撲を狙い、しつこい膝蹴りから楠本を投げ捨てるシーンが目立っていたラクレイだが、このラウンドからそれが顕著になる。いきなり組み付くと膝蹴り、そして投げ捨てる。この場合の「投げ」というのはレスリングや柔道などに見られる露骨なそれではなく、首相撲から自分の有利なポジションを取り、相手のバランスを崩して転がす、れっきとしたムエタイの技術の一つ。楠本が投げ返し一矢報いる場面もあったが、全般にラクレイが面白いように有利な体勢をとり、膝蹴りあるいは投げで楠本を転がし始める。
組際にローやショートアッパーで必死の抵抗を見せる楠本だが、ラクレイはしつこく首相撲へ。がっちり捕らえたそれはもがく楠本を放さず次々と膝が打ち込まれ、そして楠本はその度に投げ捨てられ、スタミナを削り取られてゆく。最終ラウンド、楠本左、ラクレイ右を互いに二発、三発と激しいミドルの応酬。そして楠本が右フックを打とうとしたところにラクレイの下から擦り上げるような左縦肘がカウンターとなって楠本の右目にジャストミート。一瞬の間をおいてから、体の力が急に抜けたかのように楠本腰砕けになってダウン。カウントが進むなか、楠本起き上がろうとする意思を見せるが体が言うことを聞かず、リングにうつぶせに横たわったまま10カウントを聞いた。楠本の右目の上はぱっくりと切り裂かれていた。楠本はこれで21戦13勝(5KO)4敗4分。
楠本、完敗。しかし同時に紙一重の惜敗でもあった。楠本の残した爪痕は若いタイ人の体にはっきりと刻み込まれていた。試合直後は「足が痛い。ローがちょっと効いた」と苦笑いしていたラクレイだったが、時間が経つにつれそのダメージは大きくなり、全試合が終わる頃には立ち上れなくなるほどのダメージを負っていたのだ。しかし、それを試合中は楠本に気づかれず闘っていた辺りが17歳の彼、そしてムエタイの強さなのだろう。
打倒ムエタイを年間テーマに掲げたNJKF、ムエタイの壁は高い。しかし全く打ち破れそうにないほどの厚さではない。誰がこれを打ち破れるか、すなわちイコールNJKFのエース争いとなるこの挑戦が始まる。