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Report

シュートボクシング協会
SHOOTBOXING INVADE 立技総合格闘技・大侵略活劇

1月24日 後楽園ホール


中国散打との交流戦は噛み合わず。土井『日本人をなめんなよ!』


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 年12月大会に出場する予定だった、中国少林寺散打選手が登場。今までオフィシャルに試合を行ったことがないという、謎に包まれた選手たちの姿を、やっと見ることになった。 
この大会のテーマは立技総合格闘技の交流戦。過去、キックとの交流戦で好成績をおさめてきたシュートボクシング。今度はホームグラウンドで迎えうつ形。しかも散打、DORAKAはどれもが投げを有効とする競技とあって、シュートボクシング独自の技術を生かすには格好の舞台となる、はずだった。 
 

 
 かし、終わってみれば、結局3つの競技は別物である、という解釈をせざるを得ない。 シュートボクシングの公式戦として行われた4つの国際戦は、相手側の意向を組み入れた特別ルールに変更された。DORAKA選手との試合で肘なしルールが採用されたことは過去にもあったが、散打との対戦では膝も禁止された。交流戦とはいえここまで公式ルールが変わってしまっては、ルールの持つ主義もセオリーもがたがたに崩れてしまう。実際、目の前で行われたのは法則の崩れたかみあわない試合だった。 
 
 国際戦のトップとして登場した角田紀子とRYU GYOKULIの試合は、そのちぐはぐさを一番如実に表していた。事前情報がほとんどないまま登場したRYUの最初の攻撃はサイドキック。突き出すように角田のボディに向かってくるキックに、角田は前進を阻まれる。しかし、このあとの有効な攻撃を持たないRYU。角田は下がりながら回るRYUとの距離を詰め、パンチの有効圏内に捉える。 
 
 しかし、ここからまったく進展はなくなる。得意のサイドキックが出せないとみるや、RYUは自らの腰を落として角田にタックルをしかける。詰めた距離からしがみつくように倒しにかかるRYU。角田は踏ん張り、また自分も投げを打とうとするが、RYUの倒しにかかる力は強い。ロープ際に詰めては、RYUに倒される角田の姿が幾度となく繰り返される。 
 
「ペースを乱されてしまった」と角田は振りかえったが、あまりにもシンプルな攻撃ゆえに、角田は確かに翻弄されていたように見える。なにしろ、RYUの出す攻撃はサイドキック、大ぶりのフック、倒し、それだけしかない。しかし力は強い。計量オーバーでグローブハンデをつけられたが、KOするようなパンチを持たないRYUが相手では、角田にとってのメリットは何もなかった、といっていいだろう。そのかわりがっちりとした重い脚がカウンターで入ってくるのを警戒しなければならない。そして、それを突破しても、倒されて試合は中断してしまう。 
 
 通常シュートボクシングでは、倒しただけではポイントはつかない。また、投げに行こうとして姿勢を落とせば膝が飛びこんでくる。膝の攻撃をかいくぐって成功させる投げだからこそシュートポイントは与えられるのであり、それこそがシュートボクシングが持つ高い技術ではなかったのか。投げだけではない。パンチもキックも、しがみつく相手に強いダメージは与えられない。まるで手足を縛られたまま試合をしているようなもどかしげな角田の表情。RYUはおかまいなしに、ひたすらシンプルな攻撃を繰り返す。
 
 3ラウンドに入ると、RYUの動きが鈍ってくる。こうしたルールでの試合経験が少ないのだろう。自分が倒しに行ったにもかかわらず、レフェリーのブレイク後もすぐには立ちあがれなくなる。ここで棒立ちになる瞬間があれば、角田にKOの勝機があったのかもしれない。だがRYUは最後まで身体を横にむけ、近づけば倒しにかかった。アナウンスはされなかったが、このルールでは「倒しによるポイント」があった。RYUは自分にとって確実な方法でポイントを稼ぐ道を選び、徹底してやり抜いた。それはダウンを取られないためにも、有効な方法だった。焦りの感情に憑かれた角田は、RYUの鈍い動きにつけいることはできなかった。 
 
 試合が終わり、判定負けとなった角田は涙をこぼした。子供を持ちながら現役復帰を果たし、久しぶりに訪れたホームグラウンドの舞台で実力を発揮できなかった。他所のリングでルールの縛りがあろうと全力を尽くしてきた彼女にとって、それさえもできなかったことが、負けより悔しかったに違いない。 
 

 
 インに登場した土井広之の肩には、シュートボクシング”そのもの”がのしかかっている。本人はそんなことはない、と否定するだろうが、今や土井は「一選手の試合」で済む立場ではない。緒形健一の3月復帰がこの日発表されたが、彼の休場期間中を看板選手として引っ張った土井の意識は一選手を超えて、シュートボクシングの興行全体を気にしている。 
 
 試合の最後、バックドロップ気味の投げを放ち、2ポイントを獲得。判定勝ちを得た土井は、マイクを持って叫んだ。 
「散打の人に言いたい。日本人をなめんなよ!」 
 自主興行のゲストに、ケンカをふっかけた土井は、リングを降りた直後、涙をこぼした。  
「前のふたりが負けてるから、ルール変えられて。でも僕は向こうの指定したルールで勝ったんで、ざまあみやがれって感じですね」 
 
 土井の対戦相手、SHOU SEIRYUは、サイドキックだけではなく、ローキック、パンチと攻撃のバリエーションを見せた。だがメインにふさわしい、といえたかどうかは疑問が残る。やはり倒しを組み入れた、防御型の試合であることに変わりなかった。 
「膝と肘を禁止してくれって言われて頭にきてたところがあって。かみあわない試合・・・膝があったらできないタックルしてくるし。膝あり想定の練習をしてきたから、禁止されたの、きつかったですね」 
 
 本来ならば、どちらもありの予定だったという。ルール変更にとまどいながらもメインイベンターである以上、観客を満足させなければ、という思いもある。森谷や前田は倒しや投げに対して「対応できるようにしたい」と語ったが、土井は「膝に対応できないなら、来なくてもいい」と言いきる。 
 
 土井の中では、シュートボクシングが明確な輪郭を持っている。パンチ、キック、膝、肘、投げ、そのどれかを欠いても満足できない。たとえ投げの力が強かろうと、テクニックがあろうと、肘膝を禁じている闘いには満足できない。だからシュートボクシングを選んだ。それなのに制限を入れたルールで試合をしなければならない・・・看板選手である土井は、そんなジレンマをメインの役割とともに呑みこんでリングに立っていたのだろう。 
 

 
 回、散打やDORAKAに歩み寄ったルール設定の影にはさまざまな事情があった。直前の肘・膝禁止の申し入れが主たるものだが、シュートボクサーたちは対応する時間がなく、苦杯をなめた。このまま交流戦を進めるならばさらに対応力を強めた「オールマイティー」を目指さねばならないだろう。しかし、シュートボクシングを選んで入ってきた選手たちにとってそれは必要なのだろうか。 
 
 あくまで今回だけの譲歩であり、今後は散打のほうからシュートボクシングへのルールの歩みよりがあるなら、それは杞憂に過ぎない。新しい可能性を見つける選手もいるだろう。しかし、その歩み寄りは難航しそうに思える。より困難な膝・肘ありのルールに歩み寄るメリットが、散打選手側にとっては何なのか、私には思いつかない。 
 
 キックとの交流時代にも出た苦悩が、今散打を前にして再燃している。シュートボクシングは確立しているのか?散打との交流拡大が選手たちにとって迷いの原因となる可能性は、ある。 
 皆無だった散打の情報は、今日大いに蓄積された。研究し、練習を重ねれば、肘膝なしでも勝利を得る選手が続いて出てくるだろう。しかし、その勝利は、果たしてシュートボクサーとしての勝利と言いきれるのか。疑問を残した交流大会の幕開けだった。 
 

(薮本直美)


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取材:薮本直美・石渡知子  写真:大場和正

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