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“期待”を背負える強さ。プロ格闘家としての佐竹のたたずまい

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　K-1創生期以前から正道会館の看板を背負って他流派やプロレスラー相手との他流試合を数多くこなしてきた佐竹雅昭には、いつしか異種格闘技の迎撃役といったイメージが伴うようになった。今回の相手は今年４月にバーリトゥードの世界からK-1に初参戦し、武蔵の金的を膝で蹴り上げて「試合に負けて喧嘩に勝った」荒くれ男ゲーリー・グッドリッジ。常々後陣の日本勢に対してあと一歩の奮起を期待する佐竹としてみれば、ここでモンスター退治のお手本を示す意義もあるだろう。

　一方グッドリッジにしても、先の武蔵戦は決して納得のいく内容だったわけではない。「このルールでは俺はまだ素人同然」だが「いつか馴れてきたら全員マットに這わせてやる」といかにも彼らしいコメントも発している。しかしK-1の世界は体力、精神力、それに技術力まで兼ね備えた世界の選りすぐりが、更に限界までトレーニングを積み重ねた上で勝った負けたを繰り返す生え抜きの世界。確かにグッドリッジのパワーとタフネスはK-1でも存在をアピール出来る抜きん出たものだが、技術という点でこれだけ開きがあると、今のままでグッドリッジがトップクラスに名を連ねることは考えにくい。「素人同然」発言はグッドリッジなりにそのことを自覚している証拠だろうが、さてK-1二戦目のこの試合で、どのような成長ぶりを見せるか。

　グッドリッジが蹴り技から入ってくる。佐竹のローに対しても膝を上げてカットする動きを見せる。確かにそれなりに打撃技のトレーニングは積んできたようだ。

　しかし付け焼き刃な技術は対戦相手のスペシャリストにとっては寧ろ付け入る先として好都合。グッドリッジの膝上げブロックは確かにローキックに対するディフェンスとしては基本であるが、佐竹クラスになるとそうした基本的なディフェンス技術に更に付け入るための攻撃テクニックを持っているものだ。佐竹は右脛をグッドリッジの太股に打ち下ろす深いローキックを連打する。この日佐竹が用いた空手式の脛を上から落とすようなローは、相手が膝を上げても更にその上から太股の筋肉をドスンと直撃するため、ダメージを幾らか殺すことは出来ても完全にカットする事は出来ない。いくら頑強な肉体を誇るグッドリッジといっても、このローを立て続けに貰い続ければダメージの蓄積は避けられない。

（佐竹-グッドリッジ：10-9、10-9、10-9）

　展開は技術力の差が出て佐竹有利とは言え、グッドリッジのハンマーを振り回すようなパンチは一発で形勢逆転する力を持っているだけに気は抜けない。またこの日の佐竹には通用しなかったが、グッドリッジの蹴りはパンチ同様その肉体のナチュラルなパワーを反映して非常に重さを感じさせるものだった。確かに本人の言うとおりグッドリッジがしっかりした打撃系の技術を身に付けることが出来れば、彼は充分K-1のトップクラスに躍り出る潜在力は持っている。

　だが経験豊富な佐竹はこの日非常にクレバーで、ミスを犯すこともなかった。Ｒ１で多用した右ローと共に、今度は奥脚への左ローを使い始めた。グッドリッジはこの奥脚ローへの対処が出来ない。

　簡単にローキックの膝カットといっても、実は左右で難易度には差がある。オーソドックスに左脚を前に出したスタイルの場合、試合中体重は奥脚である右脚に掛かってくる場合が多く、従って前脚によるカットは比較的容易だが奥脚を持ち上げてローをカットするには体重を瞬間的に前脚に移し替える予備動作が必要で、そのため反復練習による熟練がより多く要求されるのだ。

　両脚に蓄積するダメージが、ますますグッドリッジの唯一の武器である突進力を削ぎ落としていく。

（佐竹-グッドリッジ：10-9、10-9、10-9）

　Ｒ２まででほぼ勝敗は決した感があった。グッドリッジの上体の筋力を使った大降りのパンチはまだ一発の破壊力を保っているが、両脚を蹴られて突進力を奪われてしまうと、いわば椅子の上に腰を下ろしたままパンチを振り回しているようなもので、こうなっては最早佐竹の急所を捉えることは出来ない。

　一方佐竹の方は勢いに乗って左右のローを繰り出す。グッドリッジが嫌がってそのローを腕ですくいに来るような動きを見せる。こうなると今度はローの軌跡をフェイントに使ってハイキックも狙えるなと思っていたのだが、その前にグッドリッジがローのダメージで右奥脚を壊されて自らマットに膝をついた。

（2:47 KO）

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　試合直前にタイアップした日本TV「２４時間テレビ」の企画で、身体障害者施設の子供達との交流を持った佐竹は、「彼らに『絶対勝って下さい』といわれたのがこれまでにないプレッシャーで...。」と約束を果たせた安心感でカラカラと笑った。しかし長年彼の試合を見ていると、プレッシャーが掛かるほど本領発揮できるのが、佐竹という選手の最大の強みであるように思える。

　敗れたグッドリッジは、一つの岐路に立っていると言えるだろう。しっかりした打撃技術を身に付けるまでの間、佐竹のような老獪な実力者を相手にした場合「おいしい対戦相手」という屈辱的なキャラクターを背負わされる懸念が大きい。寧ろ試合では技術を無視した彼本来のぶちこわしファイトの方が可能性があるだろうが、逆にそれをやっている限りK-1のトップクラスに手が届くことも無いと言える。トップを目指しある程度長期的な改造計画を立ててその間我慢に徹するのか、それとも暴れん坊なキャラクターを全面に押し出してそれなりのポジションを気付くのか、彼の去就が気になるところだ。

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