K-1 THE MILLENNIUM 4月23日大阪ドーム
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セミファイナル 3分5R 
アンディ・フグ
スイス/チーム・アンディ
180cm,98.0kg
判定3-0

50-48,50-48,50-47
グラウベ・フェイトーザ
ブラジル/極真会館
193cm,102.9kg
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グラウベに進歩アリ!「大化け」は目前か?

 今回の、というか今年のK-1にとって最大のトピックは世界大会を終えた極真勢の復帰であろう。ファンの最大の注目がその中でも極真世界大会を制したF・フィリョに集まるのはやむを得ないが、ことによると残るグラウベ・フェイトーザ、ニコラス・ペタスの二人の活躍こそ「極真 vs K-1」という図式がどう展開するかの鍵になってくるかもしれない。これまで両者がK-1で目立った成績を上げていないとしても、それはフィリョに比べてK-1参戦経験が少ない故の不慣れに負う部分が大きく、逆に言えば彼らが顔面パンチを中心としたK-1スタイルに馴染んでくれば、元々格闘家としての素質は折り紙付きであるだけに「大化け」する可能性も大いに感じられるからだ。
 二人にとってK-1での敗戦は大きな屈辱であると共に、格闘家としての自身を見つめ直す機会にもなったようで、いわゆるキック・ルールとりわけ顔面パンチに対する非常に熱心な研究を繰り返しているというのは既に周知の事実である。今回ペタスは残念ながら対戦相手の武蔵の負傷により試合がキャンセルになってしまったが、フェイトーザの相手は、極真勢にとってはいわば「いわく付き」のアンディ・フグ。
 フグ自身が極真出身で、電撃的な移籍によって創生期からK-1の顔として活躍、いまや「MR.K-1」と呼ばれるに至った経緯は既に御存知の通り。またそのフグが極真の対外オープン化に伴ってK-1の舞台に進出してきたフィリョの初対決の相手を務め、そのパンチ一発でリング上で昏倒し、現在のK-1におけるフィリョの位置を提供するいわば礎の役割を演じさせられてしまったのも今更言うまでもない。フェイトーザにとってもここで「フグ食い」に成功すれば、先行するフィリョと同種のカリスマ性を身にまとう絶好のチャンスとなるわけだ。
 だが現在のフグはフィリョ戦の時とは格段に進歩した技術と円熟した境地に達しつつある。このあたりのタイミングも、フィリョに比べてフェイトーザは不運であると言えるかも知れない。

 実際試合が始まってみると、フェイトーザの顔面パンチに対する習熟度が一昨年9月の対佐竹戦の頃とは比較にならないほど上がっているのはすぐに明らかとなった。両腕でガッチリと相手のパンチをブロックし、決して顔を仰け反らせたり背けたりといった動作は見せない。モーリス・スミスの元でフィリョと共に顔面の練習を重ね既に顔面への恐怖感は払拭済みといって良いだろう。それだけでフグと闘っても一方的に見劣りするような場面は激減するのだから、やはりその潜在力は並々ではない。
「グラウベはパンチを受けても立ち続けていた。それで、この試合は長くなるな、という覚悟を決めた。(フグ)」
 しかしフグの方も経験と自信に裏打ちされた動きで、「相手が何をやってこようと動じない」という表情が闘いの最中にもありありとしている。そのフグの緊張感の隙をついて、フェイトーザのブラジリアン・キックがテンプルを掠めるシーンがR1後半に訪れたが、その後のフェイトーザの追い込みをきっちりブロックすると、フグはお返しとばかりにコンビネーションを集めて瞬く間にリングの端から端までフェイトーザを押し戻し、コーナーに詰めて連打を見舞う横綱相撲ぶりを見せた。

 フェイトーザの伝家の宝刀であるブラジリアン・キックや顔面まで届く膝蹴りなどは、一撃で顔面を狙うパンチ力主体のK-1の中では、なかなか活かすことが難しい技だと言える。勿論それ自体が有効でないわけではない。実際何度もそれらの蹴りがフグのテンプルや顎を脅かすシーンはあったし、最終5Rには浅く入ったフェイトーザの蹴りでフグがこめかみを大きくカットする場面もあった。
 しかし、フグが代名詞として極真時代に一本勝ちの山を築いた踵落としがK-1の舞台ではほとんど決め技にならないことを見ても、顔面パンチのあるK-1のリングでそうしたある種トリッキーな技を「当てる」為の技術が、非常に難度の高いものであることは明らかだ。「空手とのルールの違いは大きい。顔面のガードに気を取られて蹴りが出しにくくなる。膝を決められなかったのもそのためだ。(フェイトーザ)」
 だがそのフェイトーザの蹴りは「非常に際どかった」とフグも認めている。あと少しの「何か」を手にすれば、間違いなくフェイトーザのこれらの技はK-1でも相手を仕留めることの出来る武器に変貌するだろう。その「何か」とは経験である。「頭で考える前に身体が動くようにならなければ。それが今の自分にとっての課題だ。(フェイトーザ)」

 だが試合後半に入ると、フェイトーザにまだまだ技術的な甘さが残っていることが露呈してくる。フグにラッシュで詰められると、両腕で顔面をガードし、そのまま完全な防御態勢の中に押し込まれてしまう。いわゆる「攻防分離傾向」と言われるものだが、経験豊かなフグはそうした相手の弱点を見抜き、フェイトーザの得意とする蹴りの間合いの内側まで踏み込んで細かいパンチを顔面に集めてしばしばフェイトーザをロープ際で釘付けにした。「経験力不足だ。最後まで緊張感と集中力を継続することが出来なかった。(フェイトーザ)」
 実はフグ自身にもかつて攻防分離の傾向は見られたのだが、最近のフグは完全に防御に回ったかに見せかけてしっかりとガードの隙間から相手のリズムが途切れるのを待ち構え、次の瞬間すかさず反撃に転ずるような闘い方を身に付けるに至っている。このフグの最近の闘い方を象徴したのが3Rだった。自信がやや過信に繋がっていたか、不用意に踏み込んだフグの顔面にフェイトーザの右ストレート、続いて左の膝がヒット。その後集中打を受けたフグはしばらく完全に防御態勢に追い込まれてしまっていたが、フェイトーザの攻撃の手が緩んだ瞬間に激しい咆吼と共に怒濤の反撃に転じ、「かかってこい!」とばかりにフェイトーザにアピール。この凄まじいフグの気迫にフェイトーザは圧倒されてしまった。

 こうしたフグのアグレッシブな様子は、最近の彼の試合にしばしば見受けられるようになった。石井館長の言を借りれば、それは彼が「試合を楽しめるようになった」ことの証であろうが、その一方で対モーリス・スミス戦などのように、「乗れない」試合においてはしばしば集中力を途切れさせるシーンを目にするようになったのも事実である。
 この試合でもフグはかなり早い時期にスタミナを消耗させた様子が見受けられた
が、それでも試合全体を通じてフグが「いい試合が出来た」と言えるほどに集中力をキープし続けることが出来たのは、対戦相手のフェイトーザの成長と積極性に負う部分が大きい。「今後の参戦については、松井館長や磯部師範との相談になるが、自分としてはこれからもK-1に参戦していきたいと思っている。(フェイトーザ)」K-1としてもそれは望むところだろう。今回長足の進歩を感じさせた彼が果たしてどこまで成長するのか、フィリョと共に極真とK-1双方を股に掛けて活躍するほどの巨大な存在になりうるのかどうか、期待は大きい。

ジャッジ
フグ-フェイトーザ:
R1 10-10、10-10、10-10
R2 10- 9、10- 9、10-10
R3 10-10、10-10、10- 9
R4 10- 9、10- 9、10- 9
R5 10-10、10-10、10- 9 



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レポート:高田敏洋  写真:井田英登

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