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[全日本キック] 小林聡 vs. ルンピニー王者、あまりにあっけない決着/3.17 後楽園(レポ)

全日本キックボクシング連盟 "OVER the EDGE"
2002年3月17日(日) 後楽園ホール

レポート:井原芳徳,石動龍
写真:薮本直美


メインイベント インターナショナルマッチ 138ポンド(62.59kg)契約/5回戦
×小林聡(藤原/WKA&WPKC世界ムエタイ・ライト級王者)
○ナムサックノーイ・ユッタガーンガムトーン(タイ/ルンピニースタジアム・ライト級王者)
2R 2'19" TKO(レフェリーストップ)

 昨年9月大会でラジャダムナンスタジアムのライト級王者・テーパリットを豪快にノックアウトした小林が、今度はラジャと双璧をなすルンピニースタジアムのライト級王者・ナムサックノーイを迎え撃つ。ナムサックノーイは弱冠22歳ながら96年と99年のムエタイMVPの実績を持つ。昨年は7ヶ月のブランクがあったが、復帰後は4連勝しており、12月には強豪・ガオラーンを判定で下している。

 いわゆる「ファイター型」のテーパリットに対し、ナムサックノーイはミドルとヒザを得意とする典型的な「ムエタイ型」の選手。テーパリット戦とはまた違った試合展開になるだろうと本誌では予想していたが、まさかこのような結末で終わろうとはどの記者も思いもしなかった。

 ぜい肉のない筋肉質のボディの上に黒光りする肌をまとったナムサックノーイからは、ただリング上に立っているだけでも王者の風格が伝わってくる。普通のタイ人なら2・3分で済ますワイクー(ムエタイの試合前に行なわれる儀式的なダンス)も、ナムサックノーイは5分近く続けた。鶴のような舞いを丁寧に四方の観客に披露。ナムサックノーイのワイクーが長いことを事前に知っていた小林は、その間黙々とステップとシャドーを続けていた。

 最初に仕掛けたのは小林だった。左右のパンチとローのコンビネーションで突進。接近しての左ボディ主体で攻める小林に対し、ナムサックノーイは距離を取り左ミドル、左ストレートを当てる。ジャブ気味に放ったパンチでも異様にスピードがあり、ただものではない雰囲気を漂わせる。
 そして1R終盤、小林がパンチでナムサックノーイをロープに詰めたところで、ナムサックノーイが左肘一閃。小林の右眉が切れ、ドクターチェックが入る。試合は続行されたが、小林はその後も左ボディ中心の攻めを変えない。

 2Rも左ボディ中心で、ナムサックノーイを組み倒す場面が増える。一方ナムサックノーイは小林が近付けば左肘を振り回し、さらにスピーディーな左ストレート、左ミドルを当てる。
 そして2R終盤、ナムサックノーイが左ジャブと左肘の連続攻撃で小林からダウンを奪う。それほど激しいダウンではなかったので、どうということもなくこのまま試合が続くと多くの観衆は思っていたに違いない。


 しかし本場・タイのチャンピオンの肘の恐ろしさは我々の想像を越えていた。この時小林の右額がざっくりと切れ、顔が血で染まる。すかさずレフェリーは試合をストップ。実にムエタイ選手らしいナムサックノーイの妙技に、観衆はただ呆然とするばかりであった。しかもナムサックノーイは試合後「肘はあくまで牽制のつもりだった」と語っていたから恐れ入る。


 小林は試合後ナムサックノーイについて「あんまり強さを感じなかった」と語った。最後の肘で切られた時も意識ははっきりしていたという。しかし小林はインタビューの最後、「今、頭の中真っ白だから」という言葉を洩した。今回の黒星はある意味小林にとって、どんな豪快なノックアウトよりも屈辱的な物だったのかもしれない。もちろんこれで小林が本当に燃え尽きて灰になってしまったとは思わない。だがここから先、どのように小林がムエタイへの復讐に乗り出していくのか、今のところ筆者には想像ができない。

 これまで幾度も周囲の予想を裏切る結果を残してきた小林。今回も見事予想を裏切ってくれた。そして再び、「キッズ・リターン」のテーマが後楽園ホールに鳴り響く日が来ることを祈りたい。もちろん勝者のコールの後に。

◆小林の師匠・藤原敏男氏のコメント
(小林の入った医務室の前で共同インタビュー)
「(ナムサックノーイは)パンチの打ち合いだけ避けようと思ってるから顔面のガード堅かったでしょ? 小林が入る瞬間狙ってるでしょ? タイ人は瞬間瞬間に判断して何でもできるから。不用意に入っていくと相手は余計に肘を打ちやすくなるからな。(小林のボディは良かったですよね?)いやぁ、タイ人はボディやったって効かないって。あいつらバカだから。強すぎるんだから。ノーガードでよっぽど強い蹴りが入ったのならともかく、ボディのパンチじゃ奴ら倒れやしないから。(攻めが正直すぎた?)『行かなきゃ』という小林の気持ちもわかるけどな、端から向かってガッと行きゃあ打たれるで。左のジャブからストレートをあまりに1Rから不用意にもらいすぎてるからね。タイ人は相手が来た瞬間に間合い測っちゃうからね。(作戦はボディから攻めてローで崩すという?)いやぁ、作戦てのは俺がどうのこうのなんて。やっぱりリング上がった瞬間の本人の頭しかわかんないんだから。(試合前のアドバイスは?)『お前には俺が付いてんだから、心配すんな、思いきりやれ! 練習いっぱいやったんだからあとは思いきり暴れろ』って。小細工なんて通用しないんだから。(練習の成果は?)まだ出してるうちじゃないよ。後半3、4、5Rで激しくなるのは目に見えてるから、そこで瞬間瞬間何が出せるかだよ。(レフェリーのストップは)あれはしょうがないよな」

◆ナムサックノーイのコメント(インタビュースペースにて)
「試合前は緊張した。海外で試合をするのは初めてで、応援してくれる人が少ないのではないかとストレスになっていたが、始まってしまえば問題なく戦うことができた。テーパリットと小林の試合を見て(小林は)打ち合いに長けていると思い、パンチとローを警戒していた。実際ローキックは痛かったが、受けたパンチで効いた物は無かった。
(肘での決着を狙っていたのか?)肘はあくまで牽制のつもりだった。それで試合を終わらせようとは思ってなくて、ラウンドが進むごとに色々な攻撃を出していくつもりだった。
(左ストレートが多数ヒットしていたが?)自分がパンチャーでないことはわかっているので、左ストレートで距離とタイミングを計ろうとした。左ストレートからの肘に手応えがあった。自分は基本的に何でもできるが、肘と膝を一番得意にしている。右のパンチは普段の試合でもほとんど使うことはない」

◆小林のコメント
(医務室で傷口を治療した後、共同インタビューに応じる)
「(ナムサックノーイの印象は?)あんまり強さを感じなかったですね。“肉を切らして骨を絶つ”戦法で行きたかったんすけど...。(もらって効いた攻撃は?)ないですね。(切れただけ?)いや、切れただけというか、それも“キック”なんで。(テーパリットと比べると?)強さはテーパリットのほうがありましたね。まあ勝った方が強いから、向こう(ナムサックノーイ)のほうが強かったんじゃないですか?(最後肘で切られた時、意識ははっきりしてた?)もちろん。(力んでいるように見えたが、気負いがあった?)それも(自分の)実力だし。(ワイクーが長かったのは?)いや、予想してたんで。(今の気持ちは『物凄く悔しい』という感じですか?)悔しくないと思いますか?(もう一回やりたい?)そんなね、毎試合全て賭けてやってるから、もう一回なんて調子のいいこと言う気もないし。今、頭の中真っ白だから。次どうこうとかそういう問題じゃない...。」



セミファイナル 全日本ウェルター級ランキングマッチ5R
○池田好治(藤原/同級2位)
×三上洋一郎(S.V.G./同級3位)
1R 2'53" KO(3ノックダウン)

第7試合 全日本フェザー級ランキングマッチ5R
○前田尚紀(藤原/同級4位)
×石川直生(青春塾/同級5位)
不戦勝(石川直生が練習中のケガで欠場のため)
※リング上では勝利者トロフィーの贈呈のみが行われた。

第6試合 全日本ライト級ランキングマッチ5R
△島野智広(不動館/同級6位)
△藤牧孝仁(はまっこムエタイ/同級7位)
判定1-0 (50-50,50-50,49-48)

 昨年のデビュー以来5戦5勝で一気に5回戦に駆け上がってきた藤牧。パンチで飛び込んでくる島野を、リーチを活かしたクリンチでコントロールし、膝を何度も叩き込むという展開を繰り返す。だが4Rになるとスタミナの消耗を見せ、島野のパンチをもらうようになる。5Rには藤牧の左目が腫れ上がる。結局両者決定打に欠きドローに終わった。

◆島野のコメント
「(判定は)まあしょうがないでしょう。(藤牧は)首相撲がしつこかったんで。やっぱりあの選手を倒すには首相撲をさばけるようにならないとダメでしょう。(序盤パンチで前に出たのは?)ポイント稼ぐんじゃなく、今日は倒す試合をしたかったんですよ。パンチを当てれば倒せる自信があったけど、狙い過ぎましたね」

●元全日本ライト級4位、松本竜大(名古屋J・Kファクトリー)の引退セレモニー(第6試合直前)
松本のリング上での挨拶:「ジムではいつも会長に『キックを続けることも才能のうちだ』とよく言われていました。現役時代はなぐさめの言葉だと思っていたのですけども、辞めてみて、ほんとにその通りだなと思っております。(中略)なかなか5回戦に上がれずに辞めようか悩んでいる人もいるかもしれないですけども、『続けることも才能のうち』という言葉を信じて頑張っていただきたいと思います」

第5試合 ミドル級3R
×ジェット・デイビー(青春塾)
○山内哲也(J-NETWORK/アクティブJ)
1R 2'49" KO(3ノックダウン)

第4試合 バンタム級3R
○藤原あらし(S.V.G.)
×大橋和夫(藤原)
3R 2'01" KO(膝蹴り)

第3試合 ウェルター級3R
×彦山智(藤原)
○諸星幸平(REX JAPAN)
1R 2'09" KO(3ノックダウン)
※金統光の練習中のケガによる欠場のため、彦山が出場した

第2試合 フェザー級3R
×長 宏昌(S.V.G.)
○村山良和(はまっこムエタイ)
3R 0'19" TKO(タオル投入)

第1試合 ウェルター級3R
○小松隆也(建武館)
×小磯哲史(MA日本/山木)
判定3-0 (29-26,29-26,29-25)

Last Update : 03/18

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