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武田の夢、切り裂かれ王座陥落/9.16新日本キック・ディファ有明

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新日本キックボクシング協会 "Take One"
2001年9月16日(日)東京・ディファ有明
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(レポート:新小田哲 写真:薮本直美、井原芳徳)

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メインイベント 泰国ラジャダムナンスタジアム認定ウェルター級選手権/5回戦
泰国ラジャダムナンスタジアム王者
武田幸三(治政館)
 対
泰国ラジャダムナンスタジアムウェルター級4位
チャーンヴィット・ギャット トー・ボー・ウボン(タイ)
勝者:チャーンヴィット・ギャットトーボーウボン TKO 3R終了(流血によるドクターストップ)
※チャーンヴィットが新王者に。

 ラジャダムナンスタジアム認定ウェルター級タイトルマッチは、王者武田幸三が同級4位の挑戦者チャーンヴィット・ギャットトーボーウボンに3R終了TKOで敗れ、王座陥落した。今年1月21日にチャラームダム・シットラトラガーンを2RKOに下し王座に就いた武田だったが、この日の防衛戦では2Rにダウンを奪われ、さらに3R肘でカットされ大流血する終始苦しい展開。結局、そのラウンドの終了後ドクターストップとなり初防衛はならなかった。敗れた武田は35戦28勝(21KO)5敗2分。新王者となったチャーンヴィットは61戦46勝(19KO)15敗のレコードとなった。

 完敗だった。勝負に「たられば」は禁句で、チャーンヴィットが、「今日はたまたま私の攻撃が先に当たっただけ。どっちに転んでいたとしてもおかしくなかった」と試合後に語り、両者の実力そのものには差がなかったのかもしれなくても、今日の結果だけ見るならば、どう見ても武田の完全な負けだった。

 この日に備えて武田は万全の準備をしてきた。3月の前哨戦も(役不足の相手ではあったが)難なくクリア。タイ修行も敢行、首相撲対策とメンタルの強化も怠らなかった。私生活でも人生の伴侶を得て充実していた。武田にやり残した事はなかった。

 対戦相手として選ばれたチャーンヴィットは最近までライト級のランカーで、7月にウェルター級にランクイン。ここ最近は7戦して5勝4KOと絶好調で、ムエタイの技術のやりとりではなく、あくまで「打ち合い」を望む武田陣営の求める相手としてぴったりの選手だった。

 試合は静かな滑り出しとなる。「とにかく動いてリズムを作ろうと思った」という武田、ステップを使いながら普段はあまり出さないミドル、そしてローで牽制。パンチもショートを出す程度。一方のチャーンヴィットもミドルやロー。さすがにミドルは鋭さを感じるがまだ軽い。ムエタイの試合中に流れるあの独特の演奏のせいか、緊張感の中にもどこかゆったりした空気が流れる中、二人の拳と足によるやり取りが続く。どちらも体調はいいのだろう、動きはシャープだ。1R終盤、武田がローから右ストレートで仕掛けると、そこに左の肘をカウンターで合わせるチャーンヴィット。ちょっと冷やりとした場面だったが、大過なく1Rは終了する。

 2R、武田は内股へのインローからミドル、そして右ストレートにつなげる。チャーンヴィットは左ミドル、肘を合わせる。試合が動いたのは中盤、武田が左右フックでしかけると、そこにチャーンヴィットがカウンターで左ストレートを合わせる。するとこれが武田の顔面にジャストミート、ひっくり返るようにして尻餅をついた武田にダウンの宣告がなされた。
 立ち上がった武田の足取りはしっかりしており、このダウン自体のダメージはそれほどではなかったようなのだが、パンチのダメージで武田の右目が見えなくなるというアクシデントが襲う。武田は以後片目でこの試合を戦うハンディを負ってしまった。そしてこれにより腹を決めた武田は、短期決着を狙って一気に前に出る。
 チャーンヴィットを押し込み、左右のパンチ連打。チャーンヴィットはあくまで冷静にがっちりガードを固めてミドルを返す。

 3R、満員の観客が逆転の期待を込めた声援で後押しする中、己の拠り所である豪腕を振るい武田は勝負に出る。しかし次の瞬間、乾いた音がして武田の眉間の当たりがぱっくりと割れ、みるみるうちに鮮血が噴出す。チャーンヴィットのタテ肘がカウンターで命中したのだ。ラウンド開始のゴングが鳴ってからまだ僅か30秒も経過していない。すぐにドクターチェック。思ったより傷は深く(試合後7針も縫った)、なかなか血が止まりそうにない。本来ならこの時点で即ストップのケースだが、伊原会長、長江館長が必死の抵抗。「お願いだ、このラウンドだけでも続けさせてくれ!ラウンドが終わって血が止まらなかったら止めさせるから・・・」。続けさせたくないドクターとしばし協議(というより押し問答に近い)が続く。レフェリーはおろおろするばかり。結局、血が一時止まったこともあって押し切られる形で再開。

 この絶望的な状況で武田は最後の望みを叶えるべく前進。ほとんど視界のない状態でガードの上から構わず左右のフック連打。しかしチャーンヴィットは一枚上手だった。ミドルからハイキックで武田の顔面をかすらるせと、容赦なくカウンターのパンチ、そして肘をエグい角度で顔面に叩き込む。またも武田の傷口が開き、鮮血がほとばしり場内からは悲鳴が。

「タイトルをタイに取り戻す為にタイ人が目の色を変えてやってくる」とか「先週(9月7日)に現役王者テーパリットが小林聡にKO負けした屈辱(チャーンヴィットはテーパリットと同じジムの後輩でもある)を晴らす為に本気になる」などと巷で言われていたが、チャーンヴィット陣営は淡々とそれを否定した。「そんな事は一切関係ない。自分がタイトルを獲りたいからその時点で最良の方法を選択しただけ」。ここでも武田が焦りから大振りになったのに加え右のガードが下がったのを見抜き、冷徹にカウンターで左ストレート、あるいは肘を打ち込む作戦を選んだ。チャーンヴィットもまた武田とは違う意味で勝負師だった。
 チャーンヴィットは以後も躊躇することなく執拗に左を打ち込み続ける。武田の傷口は広がるばかり。それでも武田はあきらめない。(ここでのレフェリングには疑問が残った。武田の傷はもはや続行不可能の状態で、チャーンヴィットも再三アピールしていたのだが、止める気配すら見せなかった)やがてラウンド終了のゴング。続けて試合続行不可能のゴングが鳴り響くと、場内は落胆と安堵のため息で満たされた。

 7月に小笠原が王座防衛に失敗し、最後の砦だった武田も外国人初の王座防衛はならなかった。ムエタイの牙城は高かった。ただ、同時にそれは決して厚くはなかったと思う。内容的には完敗でも、試合後足をひきずり頭部を腫上がらせたチャーンヴィットの痛々しい様子を見れば、武田のローやパンチが確実にタイ人の体を蝕んでいたのは明白だった。だが繰り返すが、それでも勝てなかった。
「経験の差だった」と前王者になった武田はその違いを語る。「こっちがいろんなものを背負って気負っていたのに、相手は全く落ち着いていた。彼だって知らない国で、誰も応援する人がいなかったのに、それを感じさせなかった。それはやっぱり踏んでる場数が違うから。自分ももっと強い相手と、たくさん試合をしたい」。実施が決定したK-1ミドル級は?との問いには「まあそれも選択肢の一つですね」と答えたものの、あまり熱の入った口調ではなかった。

 武田は敗れたが、絶望的な内容ではなかった。陳腐な言い方になるが、これで新しいスタートが切られたのだと思う。
いつか必ずやってくるだろう武田の次のステージを我々は待ちたい。そしてそれを武田とともに再び体感したい。

セミファイナル 日本ライト級選手権/5回戦
同級王者      挑戦者・同級2位
石井宏樹(藤本) 対 マサル(トーエル)
勝者:石井宏樹 判定2-0[50-48,49-49,50-47]

クォーターファイナル 日・泰国際戦 フライ級/5回戦
日本フライ級王者  泰国Jr.フライ級南部王者
深津飛成(伊原) 対 デンラグー・トゥーラットグー
勝者:深津飛成 判定3-0[50-48,49--47,49-47]

第7試合 日・泰国際戦 59kg契約/5回戦
日本フェザー級3位  韓国フェザー級王者
大野信一郎(藤本) 対 白熊(韓国)
勝者:大野信一郎 判定3-0[49-48,49-48,50-48]

第6試合 フェザー級/5回戦
同級2位      同級4位
鈴木敦(尚武会) 対 真鍋英治(市原)
勝者:鈴木敦 判定3-0[49-46,50-45,49-46]

第5試合 バンタム級/5回戦
日本バンタム級3位  前韓国バンタム級王者
小川和宏(治政館) 対 金翰圭(韓国)
勝者:小川和宏 KO 3R2分14秒

第4試合 フェザー級/4回戦
同級         同級
遠藤心平(治政館) 対 森田亮二郎(藤本)
ドロー 判定1-1[38-39,40-40,40-38]

第3試合 ウェルター級/3回戦
同級        同級
作本鉄也(伊原) 対 永野明義(トーエル)
勝者:永野明義 TKO 1R1分05秒(ドクターストップ)

第2試合 ライト級/3回戦
同級         同級
金狼正巳(尚武会) 対 土屋武志(横須賀太賀)
ドロー 判定1-0[30-29,29-29,29-29]

第1試合 ミドル級/3回戦
同級          同級
青木克真(トーエル) 対 ギャオス吉田(治政館)
勝者:ギャオス吉田 判定0-2[29-30,30-30,29-30]


(レポート:新小田哲 写真:薮本直美、井原芳徳)

Last Update : 09/17 21:19

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