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[PRIDE] 4.28 PRIDE.20 (会見):アレクの心理戦、第1弾は大成功!?

▼(4/14 up)PRIDE.20(4月28日(日)横浜アリーナ)で対戦するアレクサンダー大塚と菊田早苗が14日、新宿・京王プラザホテルでの記者会見に出席。アレクは菊田を「プロレスを愛していないところが気に食わない」「契約体重に細かいところが女々しい」と非難し、さらには「嫌い」「ぶち殺してやりたい」など激しい言葉で挑発した。

 菊田の相手がアレクに決まるまでの過程について、PRIDEを主催するDSEの森下直人社長は「難航した」、菊田を送り込むパンクラスの尾崎允実社長は「難産した」と、同じような感想を口にした。
 両社長とも2月下旬に一度はホイス・グレイシーにオファーを出すことで合意に達したが、「PRIDEに上がるタイミングが問題で、ホイスとの関係を作れなかった(森下社長)」ためホイス戦は破談。第2案のヴァンダレイ・シウバも、K-1からの刺客・ミルコ・クロコップに奪われてしまった。一部報道で菊田は98年3月のPRIDE.2で敗れたヘンゾ・グレイシーに照準を合わせていたとも伝えられたが、これもあっさりと流れてしまった。

 尾崎社長いわく「4月(PRIDE.20)は無理かと思った。第5案まで行った」対戦相手は、先週末にようやくアレクサンダー大塚に固まった。だがアレク戦が決まる過程でもトラブルがあったようだ。

 トラブルその1は契約体重の問題である。アレクは「向こうからの契約体重の要求で交渉が待たされ、僕の時間を潰された。はっきり言って面白くない」「最終的にミドル級(93kg以下)に決まったが、92キロとか91キロとか細かいところで女々しく言われた」と経緯を説明した。
 対する菊田は「(パンクラスのライトヘビー級のリミットの)90kg以下でいつも戦っているので、社長にはなるべく体重を合わせて欲しいと伝えていた。社長に任せていたので僕からは何も言うことはない」と語り、尾崎社長もアレクに対し「オファーを受けたんだからグダグダ言うのはやめてほしい」と非難した。

 第2のトラブルは、アレクの菊田に対する個人的な恨みである。アレクの所属するプロレス団体・格闘探偵団バトラーツ(6月に活動再開)とパンクラスは、どちらも藤原組を源流とする。だが両団体の因縁がアレクの恨みの理由ではないようだ。
 アレクは「パンクラスさんは素晴らしい団体だと思いますが、個人的には菊田選手は嫌いです。PRIDE代表ではなく、一個人として菊田選手と戦いたい」と口火を切った。菊田は「わけのわからないことを話されましたけど、僕としてはぶちのめすしかない。試合の結果を見てもらえばわかると思います」とクールに反応。さらに菊田を嫌う具体的な理由を記者に聞かれたアレクは「プロレスを愛していないところが気に入らない」と説明し、「ぶち殺してやりたい」とエスカレート。これには菊田は苦笑いしながら、「人それぞれですからねえ。10年前の話なんで、あんまり興味がないです」と答えるのみだった。

 トラブルその1の菊田の契約体重へのこだわりは、競技化の進んだ今の総合格闘技界では普通の感覚であり、要求は正当だろう。むしろアレクの発言の方こそ時代錯誤の感がある。そして会見終了後、森下社長は「(アレクは菊田を)ほんとに嫌いらしいですよ」と、アレクの恨みを裏付けるような発言をしていた。

 アレクの挑発をそのまま受け取めれば、ありのままの感情と保守的なプロレス至上主義を、愚直にふりかざしているだけにしか聞こえないかもしれない。もちろん、この主義を前面に押し出せば、アレクの言う「プロレスを愛する」ファンが多数いるPRIDEの会場では、圧倒的な支持を得ることができるだろう。

 だが、アレクは単に自分の恨みをぶつけたい、単に自分への声援が欲しいというだけで、これらの激しい言葉を吐いたのだろうか?

 アレクの挑発の裏からは、アレク流の心理戦を読み取ることができる。

 アレクの声援が多くなるということは、菊田への声援が少なくなる。ここまでならパンクラスマットでも外様の菊田がいつも経験していることだ。だが、パンクラスismのファンは宿敵GRABAKAの選手にブーイングはしなかった。ところが、PRIDEマットは違う。アレクの声援が多くなれば、それはそのまま菊田への大量のブーイングに跳ね返る。そしてPRIDE.20の会場は、パンクラスがよく使う横浜文化体育館の何倍ものキャパシティを誇る横浜アリーナだ。PRIDEというイベント自体の熱気も、菊田がかつて参戦していた頃のそれとは比べ物にならない。菊田は過去に経験のない敵地でのブーイングに、どこまで冷静でいられるだろう?
 
 そして、菊田はパンクラス1.27後楽園大会でPRIDE参戦を正式に発表した時点に「タイトルホルダーとやりたいですね。K-1とかUFCのチャンピオンとか」と語り、小路晃の対戦アピールを「やっても盛り上がらないんじゃないですかね? 」と一蹴していた。
 だが、結局対戦相手に決まったのは、小路と同じくPRIDEの強豪外国人への勝ち星献上役になりつつあるアレクサンダー大塚である。仮に菊田の心の中にこのカードへの屈辱感がくすぶっているなら、試合時の心理に悪影響を及ぼすことにならないだろうか? そして何より、大会のわずか半月前にカードが決まったことは、心理面だけでなく体調管理の面にも何らかの悪影響を及ぼすことになるだろう。これらのことも菊田の敵地での不安に輪をかけるかもしれない。

 総合格闘技の実力と実績では菊田が数段上回っているのは確かであり、順当に行けば菊田の勝ちは揺るがない。しかしアレクも昨年12月にシウバと対戦し、敗れはしたものの、3R中盤まで戦い抜いている。菊田は「大塚選手は粘り強いので簡単にはいかないとは思うが、面白い試合になるよう、じわじわとやっつけたい」と対策を語った。だが、いつもと違う会場の雰囲気に菊田が飲まれ、極めどころを逃してずるずる試合が続けば、まさかの展開も起こりうる。そして、グラウンド状態の相手の頭部顔面への膝蹴りが、PRIDEルールでは可能になることも、勝敗を分けるポイントになるかもしれない。

 もちろん、菊田が心理面でタフさを発揮すれば、菊田の優位は高まる。菊田はパンクラス入団以降数々の修羅場を乗り越え、ライトヘビー級のベルトを取ったことで一皮剥けた感がある。逆にアレクがずっとガードポジションでうずくまっているようなら、アレクの大会前のビッグマウスが、そのまま自分への容赦ないブーイングに転化することになるだろう。

 とはいえ、アレクの心理戦は、第1段階の今回の記者会見ではとりあえず大成功だったと見ていいのではないだろうか? まずは菊田の心に不安の種を植え付けた。一見プロレスラー的な作戦だが、実は格闘技的に非常に正しい戦術だと思う。これからアレクはスポーツ新聞紙上等を通して、第2、第3段の心理攻撃を仕掛けるに違いない。
 そしてこの言動からは、PRIDEマット生き残りをかけたアレクの覚悟が感じられた。もし菊田に勝てば、PRIDE.4でのマルコ・ファス戦に匹敵する金星であり、「リアル1・2の三四郎」のキャッチフレーズも当初の輝きを取り戻すことだろう。

 最後に、アレクの言動以外で、会見で私が気になったことを記してこの稿を締めくくりたい。それは尾崎社長の“悪役”キャラクターである。尾崎社長は冒頭の挨拶で「DSEさんの努力に感謝したい」と前置きしながらも、きっちりと「PRIDEのリングをかき回したい」と敵地制圧の気構えを見せた。ひょっとすると、尾崎社長はアレクの「パンクラスさんは素晴らしい団体」という発言を皮肉と受け取ったのではないだろうか?  アレクの契約体重発言に対する「オファーを受けたんだからグダグダ言うのはやめてほしい」という非難からも、とっさに出た発言とはいえ、悪役プロモーターとしてのキャラの素質が十分あると感じられた。もちろん“悪役”というのは、興行を盛り上げるための役回りという意味で、パンクラスマットにおける郷野聡寛と同じような役を想定していただきたい。
 特にここ1年のパンクラスを熱心に見て来た私としては、大会当日、横浜アリーナの花道を歩く菊田の脇を、郷野や佐々木だけでなく尾崎社長も固める光景が実現してくれないかと密かに期待している。(井原芳徳)

【→PRIDE.20のカード一覧&大会概要】

Last Update : 04/12

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