[DEEP2001] 対メキシコ対抗戦は日本圧勝も、鈴木戦でアクシデント発生。乱闘騒ぎ発生に場内騒然
Text & Photo 井田英登
DEEP2001 "Spy Master Presents DEEP2001 4th IMPACT in NAGOYA 〜旗揚げ1周年記念大会〜" 2002年3月30日(土)愛知県体育館
【大会前のカード紹介記事&記者会見等】
第12試合 契約体重なし 5分3ラウンド ○謙吾(日本/パンクラスism) ×ドス・カラスJr(メキシコ/AAA) 2R 3'56" チョークスリーパー
「メキシカンと言う名の“非日常”」
リベンジマッチである。 昨年8月のドスJr戦は、謙吾にとって本来自らのフィールドでの戦いであったはずであった。しかし結果はドスJrの繰りだしたフロントスープレックスに、受け身を取りそこなっての右肘脱臼で、TKO負けという屈辱的な敗北に終わった。以降、半年以上の沈黙を余儀なくされた彼にとって、今回の再戦はまさに断崖絶壁の後の無い状況である。ドスJrによれば、謙吾が前回対マスクマンということでオーバーマスクを被って入場、それを脱いで客席に投げ込むというパフォーマンスを見せた事が、「私の怒りに火をつけた」とのことだが、実際、その行為には畑違いのフィールドに迷いこんできたメキシカンプロレスラーに対しての奢りがなかったとは言えまい。VTに限った話しではないかもしれないが、格闘技の場には、畑違いといえる人間は存在しない。競技者として戦いの場に入った以上、反対のコーナーに立った相手を完全に制圧しなければ、自分もいつ怪我をさせられるか判らないのがフルコンタクトスポーツの激しい現実である。
競技スポーツとして総合格闘技が隆盛となってきた現代の日本では、アマチュアのレベルからVTの技術をきちんと身に付けた競技者が増えてきた。観戦する側も、整理された技術体系としての総合格闘技を理解しているファンが多くなり、このジャンルで勝つのは「それなりの技術をもった専門家」であるという常識も根付きつつある。そんな状況下でこのところDEEPが仕掛け続けているルチャドールたちのVT参戦は、明らかに色物として受け取られている。「メキシカンプロレスラー」「マスクマン」、一見“畑違い”のフィールドに足を踏み入れてきたルチャドールたちを、格闘技系のファンやマスコミが軽視する風潮があるのは事実だ。しかし、常識と言うものは、所詮観測された事実を合理的に説明した論理に過ぎない。言い方をかえれば、起きてしまった事だけを対象にした“後知恵”でしかない。前提を裏切る“埒外(らちがい)”の存在というものを、後知恵は決して測ることができない。謙吾の敗北は、ある意味そうした“既知の盲目”を証明したことになる。
そもそもメキシコという土地柄を考えてみると、連邦区における年間犯罪発生件数だけで20〜25万件、それも被害届あったものだけを集計した結果でしかないことを考えると実際には年間130〜170万件の犯罪が発生しているのではないかという分析もある。これは5、6人に1人が何らかの犯罪に遭遇していることになるという。これは格闘技のメッカである、オランダやブラジルに勝るとも劣らないと言うこともできる。言ってみれば、不意の暴力や犯罪といったものに対する感覚の違い、ひいては“覚悟”というものが当然違ってきていると考えて間違いない。
ひるがえって、平和な日本に暮らす我々日本人にとって、格闘技はあくまでゲームであり、ルールに守られた非日常でしかない。“予想も出来ない事態”はリングでは“=起きてはならない事態”であり、それが発生すれば、ルールとレフェリーが、そして世論が競技者を守ってくれる。しかし、メキシコシティで、リオ・デ・ジャネイロで、あるいは飾り窓地域で、あらゆる裏通りの暗がりで、“男を張って”街を闊歩している者たちに襲い掛かってくる、ナイフや拳銃をともなうトラブルは、管理された競技空間とは比較するまでもない切迫感と危険を彼らにもたらすだろう。たしかに格闘技術があれば、そうした危険を制圧できる可能性は高い。しかし、そもそもそうしたものがわが身に降りかかって来るや否やという事態を、想定しているかどうかの“覚悟”の有無だけは、格闘競技者であろうとなかろうと、簡単に身に付くものではない。逆に、メキシコで“ルチャドール”という職業につく男達にとって、フルコンタクトスポーツの技術に触れるチャンスはなくても、そうした“覚悟”はむしろ自らの懐に常備しているモノなのではないだろうかという気がする。その意味で、彼らの“不測の事態”に対する対応力をバカにしてはいけない気がする。ともすれば彼らを「体格だけのでくの坊」という言い方をしたがる日本の格闘マスコミの姿勢はむしろ表面的な分析に過ぎるのではないだろうか。
たとえばこの日、第9試合で勃発したエル・ソラールと鈴木みのるの試合での、金的攻撃のアクシデントなどは、その典型であろう。金的は反則行為であるという前提はルールに照らして当然であるし、怒るパンクラス陣営の気持ちも判る。しかし、競技者はリングにあがれば一人きりですべての事態に対処しなければならない職業でもある。一回目の金的にしてもソラールのみせた、偽悪的な観客アピールを見ても、彼に犯意があったという推測は当然あってもいい。その是非はその試合のレポートに譲りたいが、二度目の反則を受けてマットに横たわった鈴木と、平然と観客に勝利のアピールを繰り広げたソラールとで、どちらが「サバイバル」したかといえば、どうみてもソラールであった印象が残ったのは事実だ。
謙吾にしても、事態はどうあれ、敵の繰りだした攻撃に適応できずにマットに這わされたという事実は消えない。その屈辱は相手を同じように葬って、初めて拭われる。まして謙吾の場合は公式結果にも、黒星のらく印が押されている。まして「非常事態に適応出来なかった自分」あるいは「相手を制圧出来なかった自分」という事実はどうやっても消えない。あの夏の敗北は、決してフロックではない。死とのぎりぎりのエッジで闘うものとしての心構えの部分で、謙吾はドスJrの競り合いに敗れただけにすぎない。その屈辱感を消せるのは、それを上回る結果を出す以外にないのだ。だが、競技の物差しからだけ見てもドスJrにはシドニーオリンピックのアマレス代表に選抜された競技者としての蓄積をもち、197センチ100キロという破格の肉体をもつアスリートでもあることを忘れてはならないだろう。
今回は余分な入場パフォーマンスもなく、引き締まった表情で入場してきた謙吾。取り落とせない一戦に対しての覚悟が感じられる。序盤から、自ら打撃で飛びだし、コーナーにドスJrを押し込んでパンチを浴びせる作戦で、「完全制圧」を試みる。だが、DEEPのルールにはくせ者の「ブレイク」が存在する。重量感のある豪快なタックルを武器にドスJrが、謙吾を対面のロープまで押し込んでいき、押しつぶすシーンが印象に残った。 圧巻はドスJrがまたもや投げを見せたシーンだろう。タックルからバックを取られた謙吾が、股間からの膝十字狙いで形成逆転を狙うとそれをを押しつぶし、必殺のジャーマンスープレックスで105キロの謙吾を軽々と投げ飛ばす。そして、そのクラッチを切らないまま、再びバックマウントからのパンチを浴びせ、再び投げを狙う。二度目のジャーマンこそ、謙吾は上半身を残し、足をクラッチさせたままでいたために不完全に終わったものの、圧倒的なパワーで謙吾を翻弄するドスJrの攻勢が印象づけられた。さらにタックルでロープ際に押し込み、マウントまで奪った彼の戦いぶりを、一介の“部外者”と見下すことはできまい。
かくて、ドスJrの攻勢が目立つ展開が続くが、謙吾は着実な対処で決定的なピンチを迎えるには至らなかった。そして2R中盤バックマウントからスリーパーを狙ったドスJrを、下からのターンで上下逆転した謙吾は、このこの千載一遇のチャンスを逃さず、ニーインザベリーからパンチの雨を降らせた。これを嫌ったドスJrがうつむけに逃れたところへスリーパーを仕掛ける謙吾。当人も「取れるとは思わなかった。練習でも滅多に決まらないんで」と語る技だが、勝負どころを読んだ必死の絞めにドスJrはタップする他に道はなかった。
謙吾の言葉にならない咆哮がリングに響き渡り、セコンドの山宮と伊藤がリングに駆け込んできた。二人にすがるようにしてマットに崩れ落ちた謙吾は、人目もはばからず、右のグローブで目を拭った。「とりあえず、いろんなプレッシャーを感じてたんで。メインという舞台もあったし、再戦で、二度と同じ相手に負けられないっていうのもあったし、いろんなところで」と試合後彼が語ったように、船木なき後のパンクラス次期エースと目されながら、外部のリングで屈辱の敗戦。その間に自らのリングは、Grabakaに代表される外部勢力に蹂躙され、近藤を代表として外に打ってでたパンクラシスト達も内外で敗北を重ねた。まさに臥薪嘗胆の時期を耐えながらチャンスを待ち続けた日々だった。リングに飛び込んできた山宮、伊藤らに抱きつくようにして、リングに倒れこんだのは、やはり大きなプレッシャーから開放された安緒もあったにちがいない。右のグローブで辺り構わず目を拭う彼は、つかの間、26歳の青年、裸の渡部謙吾に戻っていたのかもしれない。
メキシカンの形を借りて押し寄せてきた、”予期せぬ事態”との戦い。そしてそういう得体のしれない物が、不意に自らの日常を侵食するかもしれない恐怖。そんな経験は、いかな非日常を生きる格闘家であろうとも、そうおいそれとは経験できるものではないだろう。現役生活の真っ最中の8カ月間、彼の脳裏に巣くった“ドスカラスJr”の影との戦いは、謙吾という若い格闘家にとって大きな財産になるに違いない。このリベンジマッチをクリアした今、俄に勃興しつつあるPRIDEとの対抗戦、そしてUFCへの参戦など、謙吾が挑むべき戦いは多種多様に広がっている。「UFCやPRIDEに来てくださいって言われていいギャラで呼ばれる強い選手になりたい」と言う謙吾にとって、今回のようにNHB的なスキルに乏しい相手に、易々とマウントを許している状況はいただけない。アントニオ・ノゲイラやジョシュ・バーネットというメジャーに君臨するトップ選手達は、ヘビー級でありながら寝技のスキルも超一流であるのが常識となりつつある。もし、彼が世界の頂きを目差したいなら、より高い目標をイメージして追い求める理想を描かねばなるまい。特に、事実上 PANCRASEの無差別級のベルトを持ち去ったままの状態にあるセーム・シュルトとの決着戦は、PANCRASEの嫡子/謙吾に課せられた最大のテーマでもある。そうした世界の舞台に登るとき、今回の試合で得たものが初めて具体的な糧として形を現すのかもしれない。
第11試合 90kg以下契約 5分3ラウンド ○近藤有己(日本/パンクラスism) ×キック・ボクサー(メキシコ/AAA) 1R 1'58" 腕ひしぎ十字固め
第10試合 97kg以下契約 5分3ラウンド ○坂田亘(日本/EVOLUTION) ×トロ・イリソン(メキシコ/KARATEスタジオ) 1R 4'05" 腕ひしぎ十字固め
第9試合 90kg以下契約 5分3ラウンド ○鈴木みのる(日本/パンクラスism) ×エル・ソラール(メキシコ/CMLL) 1R 2'26" 反則 ※2度にわたる金的へのヒザ攻撃により
「対外試合の意味」
謙吾vsドスカラスJrの試合レポートでもちらっと触れたが、この試合はエル・そラール側の二度の金的攻撃で、鈴木みのるの反則勝ちに終わっている。しかし、この決定を不服としたエル・ソラールとセコンドのドスカラスの二人が、客席に自らの勝利をアピールしたことと、故意を主張するパンクラス側の主張が真っ向から衝突し、リング上には騒然とした空気が流れた。制止に上がったはずのパンクラス側セコンド陣が入り乱れたこともあり、あわやNHB系格闘技のリングで集団乱闘かという、プロレスまがいのシーンに発展しかねない状況だった。
しかし、問題はむしろ二つのポイントに絞られるのではないだろうか。 一つは、この金的がお互いに組み合って腰を引いた状態の、膝蹴りによって起こされたものであるということだ。当然両者ともテイクダウンされまいと、腰を引いて下半身を踏ん張った状況で居る。鈴木は膝を出すときには、腰を出しているが、ソラールはひたすら腰を引いて、ただ踏ん張った状態から、無意味に膝を出しているのだ。そもそも膝はストロークが短いわけで、まして、上半身は組み合っている状態できっちり照準があうわけもない。いわば盲打ちでしかないのだ。故意と解釈したくなるパンクラス側の主張も判らなくはないが、はっきり言ってこれはソラールに技術が無かった故の現象でしかない。
もう一つ言えることは、これが対外試合であるという現実だ。 いわば、団体の名誉が掛かった戦いだけに、勝ち負けがシビアであり、相手との技術体系も違う。当然かみあう試合になる訳が無い。反則をしてでも勝ちたい心理も当然起きるし、相手がルールを守る保証は限りなく薄い。しかし、対外試合の緊張はそれゆえに生まれるし、観客があえてかみあわない試合を見たがるのは、その緊張ゆえでもあるはずだ。
かつて、鈴木の盟友である船木誠勝は、パンクラスの旗揚げ第3戦(1993年11月8日神戸ワールド記念ホール)で、キース・ベーゼムスと対戦時に、当時パンクラスルールで禁じられていたナックルパンチでの攻撃を仕掛けられたことがある。船木の場合、幸い事前に控え室が同じだった外人選手の忠告によって、ある程度予測したうえでリングに上がったこともあり、機先を制した船木がベーゼムスのパンチを掻い潜って、アームロックを極めて勝利している。しかし、オープンハンドを基本としたルールの試合での、ナックルパンチも、やはりいってみれば金的に匹敵する危険行為であることは変わりはない。しかし、船木はこれを飲んで、その危険に身を晒しながら、試合を成立させている。
いまさら、船木と鈴木のライバル関係を蒸し返そうというのではないが、格闘技の試合は、いわば殺し合いの寸前で行われている危険な戦いである。ルールはあってないと考えるべきなのではないだろうか。確信犯もいるだろうし、興奮して我を失った場合もあるだろうし、事故もあるだろう。理由はどうあれ、ルールに規定されない危険から己の身を守ってくれるのは、審判でもなければ、ルールでもない。所詮最後は、自分自身の危機回避能力なのだ。ましてソラールは、一回は金的を仕掛けてきているのである、組んだときに股間が危ないのではないかという“まさか”に対する対策は、やはり鈴木も考えて置くべきだったのではないか。
これも過去の話しだが、以前武蔵が、外人選手に金的をくらってノックアウトされた時に、石井館長は試合後武蔵の控え室に直行し、反則勝ちした愛弟子を怒鳴り付けたという。「オマエも武道家なら、蹴り返せ。キンタマ蹴られて伸ばされて、勝ったつもりになってどうする!」と。
事実、二回マットに這わされたのはいずれも鈴木であった事実を考えれば、いかに公式結果が残ろうとも、その姿は観客の目に焼き付いているということを忘れてはいけない。格闘家とは強さをもって人から金を貰う商売である。いい試合、いい技術もさることながら、強さを感じさせる説得力というものを失ってしまえば、ただのスポーツマンであり、アマチュアでも構わないではないか。
これもメインの試合のリポートで書きかけた事だが、不測の事態に対応できる強さ、あるいは予測もしない事態に対処する強さというものは、その人間の精神的、そして本質的強さに直結する要素でもある。そうした強さも含めた上で、人はプロのファイターに思い入れをすることが出来るのではないだろうか。特に対外試合や、もっというなら路上の喧嘩などは、結局そうした機転や対応力を磨くための戦いなのではないかと、僕などは思う。まして、メキシコのような極めて犯罪発生率の高い土地で、プロレスラー稼業を営もうとすれば、当然素人に喧嘩を売られたり、ナイフで背中を狙われるような事態も少なからず発生するはずであり、そうした事態に対処できなければ、仮にリングの上では飛んだり跳ねたりのアクロバティックなフィギュアを売りにしているとはいえ、勝ち負けを飯の種にして暮らせるとは到底思えない。そういう意味で、ソラール陣営があくまで勝利にこだわり、それを主張し続けた意味もわかる。
少なくとも根幹的なしぶとさ、いけ図々しさ、そしてエネルギー、そのすべてにおいて、この試合でその“強さ”を見せたのはソラール側ではなかっただろうか。無論、それは正当な行為であると主張する気は毛頭ないのだが。それを上回る強さを鈴木みのるに見せて欲しかったのも、偽らざる気持ちなのである。
第8試合 110kg以下契約 5分3ラウンド ○横井宏考(日本/リングス・ジャパン) ×メモ・ディアス(メキシコ/CMLL) 判定3-0(30-28,30-28,30-27)
第7試合 68kg以下契約 5分3ラウンド ×村浜武洋(日本/大阪プロレス) ○ジョン・ホーキ(ブラジル/ノヴァ・ウニオン) 1R 2'31" 腕ひしぎ十字固め
第6試合 86kg以下契約 5分3ラウンド △佐々木有生(日本/パンクラスGRABAKA) △グスタボ・シム(ブラジル/ファス・バーリトゥード・システム) 判定0-1(28-29,29-29,30-30)
第5試合 90kg以下契約 5分3ラウンド ×渡辺大介(日本/パンクラスism) ○滑川康仁(日本/リングス・ジャパン) 判定0-2(30-30,29-30,29-30)
「孤児達の対面」
この日、目だったのはリングス所属選手達のセコンドの顔触れであった。すでに活動を停止してしまったリングス勢ではあるのだが、セコンドとして金原、高阪らジャパン勢に加えて、なぜかリングスを経由していない高山までがインター時代のつながりからか、和田、横井、滑川らのセコンドについたのだから面白い。ぞろぞろ彼等が登場する花道は、まさにU系現役選手の混成軍でも結成されたかとおもうようなにぎわいであった。さらに、この一団に加わっていなくても、坂田や、あるいは田村の門下生であるU-FILE CAMPの上山もリングスマット経験者であり、田村潔司も姿こそ見せなかったものの、会場には密かに顔をのぞかせていたという噂もあるから驚きだ。対するパンクラスの渡辺も、元をただせば船木、鈴木というUWF経験者の末裔である。 言ってみれば、この日のDEEPの会場はまさにU系選手でごった返していたわけだが、それにもかかわらず、実際にUWFに籍をおいていた選手達、前田、高田、山崎、船木らは、まったくそこには居ないというこの事実。本来、大きな運動体の渦の中心にいたU 思想の指導者達は、そこに居ないという欠落感が強く感じられた。
いってみれば、リングスvsパンクラスの直接対決と謳われたこの二人の対戦も、すでにその対立の物語の中心である、前田や船木が居ない今、むしろよるべなき孤児たちの対面といった趣がしてしまう。ただ、若い現役のふたりにすれば、これまでの経緯よりも、面のまえの相手をいかに殲滅するかで、明日の自分のキャリアが決まるわけで、ロミオとジュリエット的なお家騒動も関係なく、ただ自分たちのために勝ちたいと言う意地はよく伝わってきた。
試合は、共に打撃の得意な二人のバチバチのしばきあいとなるかと思われたが、滑川が試合序盤で、右手の指を骨折し、パンチが放てない状況に陥ったため、タックルに活路を見いだすしかない展開となってしまった。ただ押さえ込みに関しては粘り強いくスタミナに勝る滑川が、極めにまでは移行できなかったものの辛くも逃げ切った。
第4試合 85kg以下契約 5分3ラウンド ×秋山賢治(日本/禅道会) ○長南亮(日本/U-FILE CAMP) 1R 4'22" TKO ※グラウンド状態でバックからパンチ連打
第3試合 55kg以下契約 5分3ラウンド דランバー”ソムデート吉沢(タイ/M16ジム) ○砂辺光久(日本/ハイブリッド・レスリング武限) 判定0-2(28-30,29-30,29-29)
第2試合 80kg以下契約 5分3ラウンド ×土居龍晴(日本/T3) ○佐々木恭介(日本/U-FILE CAMP) 1R 2'51" アームロック
第1試合 90kg以下契約 5分3ラウンド ○和田良覚(日本/リングス・ジャパン) ×アステカ(日本/プロレスリング華☆激) 1R 2'54" KO ※右フック
「三分間無敵の男」
リングス活動休止の煽りを受けて、インター、キングダムに続いて三度目のU系失業状態に陥った和田レフェリーだが、その結果38歳にして選手デビューを飾ってしまうことになったのだから、人生というものはわからない。元々はスポーツクラブのインストラクターとして勤務していた和田氏だが、このクラブに所属していた高田延彦の紹介で、Uインターのレフェリー業に転職。通常レフェリー業を勤める人は、格闘技団体ではフルタイムの場合、事務仕事を兼任したりする例が多いのだが、この人の場合、経歴をいかして道場でウェイトリフティングの補助やコンディションアドバイザーも勤めていた。したがって、選手の練習にも参加することが多く、スパーリングに加わることも多かったという。実際、年齢もあってスタミナこそ現役の選手に及ばないものの、三分間であれば、その筋力を活かした動きで選手をも驚かせるものがあったという。これまでシャツに覆われていたとはいえ、その鍛えに鍛えられた肉体には注目している人も多かっただろう。
はたして、38歳の“新人”が入場テーマに選んだのは、なんと「UWFのテーマ」であった。半分以上色物扱いとはいうものの、この観客心理を読んだ絶妙の選曲で、掴みはオッケー状態だ。そのうえ、セコンド陣も、その3分無敵ぶりを語ってきた金原、高阪、高山、滑川、横井といった、道場を共に過ごした面々ばかり。いかにこの人に人望があるかが伺い知れる。
対する対戦相手は、この日のルチャvsVT軍の対抗戦にあわせたかのように、日本人の覆面レスラーであるプロレスリング華☆激所属のアステカが選ばれた。実際、和田が今後選手としてキャリアを積んでいくわけもなく、一種お祭り的なニュアンスの試合である意味をそこから読み取ってくれという事なのだろう。しかし、実際に「闘うレフェリー」の肉体と技術はけっして、色物とは言いきれない切れがあり、キック一つでも重くて早い。テイクダウンを奪ったあとのグラウンドでのポジショニングでも、ツボにはまったきっちりした正確さと早さがあり、たしかにこの動きが出来るなら、試合をさせてみたいと思うのは無理もないだろう。マウントを奪ったところを、ブリッジで返されたのはご愛嬌として、ラスト組んでもみ合ったところをキレイに打ち抜いた右フックなどは鮮やかなものだった。
勝負タイムは見事にお約束の三分以内だったのもいい。 誰もへとへとの和田氏の姿を見たいわけではないだろうし、良く締まった綺麗な前座試合で、良く客席を暖めた功績は大きいと言わねばなるまい。
<フューチャーファイト> 第4試合 80kg以下契約 5分2ラウンド ×木村仁要(誠ジム) ○マリオ・セルジオ横山(マリオ・セルジオ柔術アカデミー) 1R終了 TKO ※左肩の負傷により
第3試合 70kg以下契約 5分2ラウンド ○岩間朝美(名古屋ブラジリアン柔術クラブ) ×江波圭一(四王塾) 1R 1'07" KO ※右フック
第2試合 契約体重なし 5分2ラウンド ×倉橋達也(T3) ○永井智章(直心会名古屋ファイトクラブ) 1R 3'44" アームロック
第1試合 80kg以下契約 5分2ラウンド △浅野誉也(The Body Box) △木村直生(EVOLUTION) 規定により引き分け
Last Update : 04/01
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