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[PRIDE] “約束の地は遠く”田村、そしてエンセンの理想は見えたか

PRIDE.19 
2002年2月24日 (日) さいたまスーパーアリーナ
観客数:22,381人(満員札止め)

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※PRIDEルールは1R10分・2,3R各5分

第8試合 PRIDEミドル級タイトルマッチ
○ヴァンダレイ・シウバ(シュートボクセ/王者)
×田村潔司(U-FILE-CAMP/挑戦者)
2R 2'28" KO(右ストレート)
※ヴァンダレイが王座防衛

「約束の地を求めて」 TEXT by 井田 英登

村潔司がついに禁断のPRIDEのリングを踏んでしまった。

UWFを振りだしにUWFインター、K-1でのVTマッチにショット参戦、そしてリングスへと続く彼のこれまでの苦難に満ちた流浪の物語は、まるで理想の地を求める受難の民を描いた大河ファンタジーを見るようでもある。頑なに自らの理想を曲げず、妥協を廃し、イバラの道を歩むその姿は、ロマンチシズムを求めるファンの胸に“求道者”のイメージを強く焼き付ける。実際、生き様も含めて、こんな“色気”を感じさせる選手は昨今居ないといっていいだろう。

格闘技がビジネスとして十分に成立するようになった近年、高額のギャランティやより高い社会的認知を得るチャンスとして、一種ビジネス的に格闘技を捉える選手は少なくない。リアルファイトというのが、一つ負ければ評価が地に落ち、そして身体的にも生涯ものの怪我を負いかねない、極めてリスクの高いスポーツである以上、そうした傾向が生まれるのも仕方がないのかもしれない。その頂点で幾多の荒波を乗りきって来た象徴がヒクソン・グレイシーという選手であり、また今回二万の観衆を一方的に敵視を受けたケン(ウェイン)シャムロックなどといった選手は、NHBビジネスマンの嚆矢ともいえる存在であろう。

PRIDEという場は、主催者自ら“格闘テーマパーク”と名付けるように、そうした時代の流れを極めてヴィヴィッドに映し出しながら、エンターテイメントとして観客に提供する舞台でもある。高額のギャランティを目差して、古今東西の名選手が一堂に会し、これまで積み重ねてきた自らの名誉や技量をチップにして、より高次の“総取り”ゲームに乗りだしていく。“WINNER TAKES ALL”のビッグゲームを乗りきって来たハイローラー(高額ギャンブラー)こそが、現在その頂点に立つ、アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラでありヴァンダレイ・シウヴァであろう。歴戦のファイターたちを血に染め、その持ち金を最後の一枚に至るまで巻き上げた結果、彼等の持つチップは今や天井にも届きかねないほどの高さに積み上げられてしまったのだから。

それは同時に、まるでTVゲームでも見るかのような明快さであり、本来人間同士の感情や軋轢、あるいは主義主張の壁によって実現しえなかった対決の構図を、逆にいともたやすく実現させてしまうことで、ファンの感覚を麻痺させてしまったような弊害も存在する。例えば、昨今、スーパーヒーローが一堂に会して、その覇を競うようなゲームがいろいろ作られてるようだが、こうしたゲームは、従来そのヒーローを頂点に置いて積み重ねられてきたドラマの世界観をすっかり無価にすることで成立する“掟破り”の存在である。閉じた世界の中だからこそ価値のあったといえる彼らのドラマをゼロにして、一介の一登場人物から再構築しなおすのでは、彼らのこれまでの物語は一体何だったのかわからなくなる。簡単に言ってしまえば、PRIDEという“巨大スーパロボット大戦”的フィールドに下り立った途端、ファイターは自らの築いてきた歴史や業績を、たった一行の“能力パラメーター”にまで単純化されてしまうわけだ。この中でのし上がっていこうという選手ならそれもいいだろう。ボブチャンチンやヒーリングといったいわゆる“メジャーリーグ外”から浮上してきた、PRIDE印の選手は、逆にその環境の中で、自分のチャンスを高めてその地位にまで上り詰めた訳であり、今回の直接対決で勝敗が決しても、それはPRIDE内部での序列が決まるにすぎない。いわば、彼らの対決はK-1におけるトップファイターの顔合わせのように、勝っても負けても“居場所の残る”戦いになるからだ。

かし、田村という選手が今回起用された位置づけは違う。

PRIDEミドル級王座への挑戦権といきなりのメインイベントへの起用と、最高の条件で遇されてはいるものの、あくまでヴァンダレイ・シウヴァに挑む一獲千金を狙うギャンブラーとしての位置づけであり、一回勝負の大一番に敗れれば、これまで蓄えてきたチップは総取りされてしまう運命にある。
そして、田村自身がPRIDEの舞台に求めるものも、リングス移籍当時のような“新天地”での再スタートではない事は誰の目にも明らかだ。いわば移籍ではなく、K-1でのパトリック・スミス戦同様、イデオロギーを賭けた殴り込みでしかない。

いうまでもなく田村潔司は、これまで「Uイズム」という理想を掲げ、選手の壊しあいではなく、技の凌ぎあいで観客に存在をアピールしたいという世界観を、ずっと体現してきた選手である。無論、NHBの世界あるいはPRIDEの中にも、「技の凌ぎあい」は有り、実際本誌でもここ数年間NHBへと移行していく総合格闘技の流れをその延長線上で支持してきたつもりだ。ずばり言ってしまえば、BoutReviewのオピニオンとしては、UFCやPRIDE、あるいは修斗などの目差すNHBの方向性を支持しているし、今後もそれは多分変わらないと思う。
しかし、それは同時に選手生命を縮め、生命の危機すら招きかねないぎりぎりの「エッジ」で繰り広げられる戦いである事も否めない。スポーツエンターテイメントとして、拳で顔面を打ち、頭部をヒザで蹴るような競技が、はたして一般に供するレベルのものなのかどうかは、もっとさまざまな視点からの議論が今後もどんどんされていいと思う。

が、今現役選手としてリングに上がる選手には、そうした緩やかな議論を待っては居られない。刻々と過ぎる自らの現役選手としての残り時間、あるいは世論の動き、そして経済的な問題などさまざまなファクターと拮抗しながら、自分の存在を認めさせなければならない。ファイターという職業は哲学者ではない。議論ではなく「剣」を持ってリングの上で自らの正当性を証明する以外、ファンを納得させる方法は無いのである。

今回田村がPRIDEのリングに上がったのは、まさにその価値観と価値観の衝突を実現するための、「思想テロ」を慣行するしかない局面に追い込まれた結果だろう。ファンの嗜好や関心がNHB的なファイト一色に染められ、かつてのUイズムは、リングスの失速にも顕著なように、明らかにメインストリームから転げ落ちた。本来なら、そのイズムを背負った高田延彦がヒクソンに破れた直後に敢行されていなければならなかった行動なのかもしれない。しかし、当時田村にはまだ守るべきUイズムの現場があった。それを団体の崩壊、あるいは自ら離脱という形で失い、今、彼に残されたのは自らのジムと、そしてイズムという形の見えない物だけになった。だが現実の波は容赦なく、その生存圏をも脅かしていく。実際、U系の選手がオープンしたジム経営は、みな決して楽ではないと聞く。こうしたところにもイデオロギー闘争の結果はじわじわと現れてくるのだ。ファンは、そしてジムで実際に格闘技術を習得したいと考える人間ならなおのこと、実際にプロのリングで戦績を残す選手に魅力を感じるだろう。路上でのストリートファイトなどはともかくとして、格闘技術を立証できる唯一の場所は試合でしかない。その頂点に立つプロファイターがジム経営でも生き残って行くためには、結局ファイターとして結果を残す以外の道はないのだ。

合前のスクリーンに映し出された映像で田村は“頭蹴ったり血を流したりするような試合を面白いと思っているファンは馬鹿だ。だからこそどうしても勝ちたい”と語っている。彼が安易にファンを見下したりする人間でない事は、入場時の四方への丁寧な礼を見るだけでも十分に判る話だ。チケットを買い、自らのファイトにお金を払うファンを彼は非常に大事している。その彼が、あえて語った挑発的なこの言葉に、今回のPRIDE参戦の真意を読み出すべきであろう。

すべては、彼が信じるUイズムの立証のため。

かつて、K-1のリングでパトリック・スミスと生の拳を交えようと決意した時のあの戦いに、田村はもう一度挑もうとしていたのである。だからこそ、入場セレモニーの時も堅く凍った表情を崩さず、うつむいたままで居たのであろう。自らの信念を封印し、すべての華燭、すべての余力を残さず、精神、肉体のすべてのエネルギーを目の前の敵を叩き潰すために注ぎ込む。いわば、自らの主張を180度曲げ、自らの生命をも賭けて挑む、極限の真剣勝負、思想のテロリズムを田村は敢行しようと決意していたように、僕には見えた。

その是非はあえて問うまい。

しかし、一人の人間が、一人の職業人が、そこに全存在を賭けて自己主張しようとするその姿には、無条件に敬意を払いたいと思う。いわばすべてのファイターがそうだと言うことも出来るのだが、あえてその決意を、自らの使命として背負い込んだ田村の姿には、手放しで感動した。入場の時に、彼と彼の大勝負を見守るべく参集した坂田、高阪ら旧リングス勢、そして腹心の上山達を引き連れ、PRIDE的世界観に一人強烈なアンチのオーラを放ちながら花道を歩んできたその姿には、不覚にも涙がこぼれて仕方がなかった事をここに告白しておこう。

果は後の試合経過レポートをご覧戴けばいいと思うが、田村の完敗であった。体重6キロの差、そして一年のブランク、あるいは本格的なNHBスタイルへの対応が完成されていなかったこと、いろいろ敗因は並べられるだろう。しかし、あえてそれらは書くまい。ただ競技者として、ファイターとしてヴァンダレイ・シゥヴァの方が田村潔司を上回っていたという明快な結果だけで十分である。
そして、リアルな現実として、Uイズムの体現者が仕掛けた一世一代の大博打は実らなかった。田村の試合後の崩壊した顔面のリアリズムと、タオルを被ったまま一度も頭を上げようとしなかった姿にこそ、すべてを見るべきなのだ。この先、この孤独な魂を抱いた放浪者がどこへ進むことになろうとも、この敗北の落とす影は決して小さくない筈だ。これまでのどんな敗北よりも大きな、しかしたった一つの黒星。それはかつて、彼の先導者であった高田延彦も背負った十字架であるのだから。

だがここまで何万と言葉を連ねてきた結論として、これだけは言っておこう。人生はこうしたブラックホールのような、重い敗北を背負ったときにこそ、人にその先を歩む義務を与える。これまで田村は夢のような理想の追及者として、ある意味何時でもそれを投げ出してしまう自由も持ち合わせていたのだと思う。大一番と言われる、これまでのいくつかの勝負に勝ち抜いてきた者の権利として、田村はヒーローとして、その人生を自由にデザインして来れたのだ。
しかし、この一敗で田村潔司の背負った十字架の意味は重い。もう安易にプロレスに逃げることも、この敗北をを覆さずに自らの小さな理想郷に逃げ戻ることもできなくなった。仮にかれが後楽園クラスの会場で、UWFルールの自主興行を開催しても、今日この日に彼に期待をかけ応援したかつての支持者をそこに集めることはできないに違いない。彼は彼のこれからの戦いで、そのかつての支持者を取り戻す戦いを繰り広げる以外に、選択できる道を失ったのだ。それはこれまで以上に孤独で先の見えない、絶望的な道になるに違いない。しかし、それにくじけてリングを去ることは、田村潔司という人間の人生自体やこれまでの業績をも否定してしまうことになる。それほど、彼が立ち向かった敵の存在は巨大であり、仕掛けたテロリズムの持つ意味は重かったのだ。

たとえ、今後すべての格闘技ファンが石を持って君を追おうとも、彼には決然としてその十字架を背負ってリングに立つ義務がある。そして、その逆境に耐え、自らの主張を貫いていく姿を見せてこそ、初めて彼の主張は、大地に蒔かれた“一粒の麦”となるはずだ。ヴァイオレンスだけではない、本当のメジャースポーツとしての総合格闘技完成のために、彼がやらなければならない仕事はまだ終わってはいない。

<試合経過レポート>

 田村の紹介VTRの冒頭にはUWFマーク。その映像が会場の大画面に映し出されると大歓声が巻き起こる。いつものテーマ曲で入場した田村のセコンドには、リングス時代の同僚・高阪剛、坂田亘、そして弟分の上山龍紀がつく。リングインした田村はいつものように四方に深々と礼。国歌斉唱、森下社長のタイトルマッチ認定宣言の後、両者のコール。ヴァンダレイのにらみに対し、田村は目を閉じて冷静な表情を崩さない。
 間合いを取った状態から始まり、先に仕掛けたのは田村。左ハイキック、左ミドルを放つと、ヴァンダレイは蹴り足をつかんでテイクダウン。顔面パンチ禁止のリングスKOKルールで戦ってきた田村は、ヴァンダレイから顔面パンチの洗礼を受ける。この展開が繰り返され、下になった田村はほとんど何もできず、次第に鼻血を見せるようになる。単にルールの慣れの差だけでなく、6キロの体重差も影響している。
 だが2R、田村がスタンドでのパンチの打ち合いで左ストレートをヴァンダレイの顔面に命中させる。この時のパンチの打ち合いでバッティングがあったようで、ヴァンダレイは右目尻を出血。闘志の炎がさらに大きくなったか? ヴァンダレイは組み付いて田村を倒し、またもパンチを落とす。しばらくしてヴァンダレイは立ち上がり、あわせて立ち上がろうとした田村の顔面にハイキック。この展開でヴァンダレイはペースをつかんだようで、スタンドに戻りプレッシャーをかけ、左クロスカウンターパンチを交わしたところに、カウンターの右ストレート田村の左目あたりに一撃。田村はマットに崩れ落ちる。ヴァンダレイは両手を上げ勝利を確信。倒れた田村の頭に向けヴァンダレイが蹴りを空振りさせたところで島田レフェリーが試合をストップ。田村の野望は一瞬にして打ち砕かれた。
 タイトル防衛に成功したヴァンダレイは田村を讃えたが、左目を負傷した様子の田村は白いタオルを頭にかぶり顔をみせないまま、四方の観客にお辞儀をしリングを降りた。

◆試合後のシウバのコメント
「田村が有名だとは来日するまで知らなかったが、勝てて光栄だ。ビデオも見ないで日本に来たが、試合をしてみて本当にいい選手だと思った。打撃にも付き合ってくれたし。試合中に頭と頭がぶつかって意識が一瞬飛んでしまい、その時は少し危ないと思った。試合後にまぶたを3針縫ったが、田村の攻撃でそうなったのかバッティングでそうなったのかは分からない。ケガは気にならなかった。なぜなら自分はプロだから。
(田村と桜庭を比較してどう思うか?)桜庭は寝技がうまいと思う。田村は打撃がうまいと思った。
(菊田早苗を知っているか?)全然知らないけど、本当に強い選手なら戦いたい。自分は本当に強い選手と試合をしたい。PRIDEが用意するいい選手と戦いたいと思う。
今日は本当にたくさんお客さんが来てくれたことが嬉しかった。皆さんにありがとうと言いたい」

(田村はノーコメント)

第7試合 
×エンセン井上(PUREBRED大宮)
○アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ(ブラジリアントップチーム)
1R 6'17" 三角絞め

 ラストマッチに挑むエンセンは、花道の脇に列をなした家族や関係者一人一人と抱擁を交わし、長い時間をかけてリングイン。ゴングの鳴る前から既にまぶたに涙をにじませている。
 ノゲイラは開始早々タックル。エンセンは軽くかわし、ノゲイラはそのまま寝転び猪木アリ状態に。エンセンが数発ローを放ったところでレフェリーがブレイク。ノゲイラはコーナーにエンセンを押し込み、足を掛けてテイクダウン。すかさすハーフガードのポジションを維持し、アームロックを極める。ピンチに陥ったエンセンだが、レフェリーがギブアップするかどうかを聞いても「ノー」と答える。1分ほどこの状態が続き、エンセンは外して脱出、インサイドガードから強烈な左フックを落とす。だがエンセンが自分のパンチで体勢が崩れたところをリバースされる。ノゲイラはハーフガードから前腕チョークを仕掛けるが、これもエンセンがリバースしてインサイドガードに。二転三転する攻防に客席から歓声とため息が交錯する。

 しかしエンセンの健闘もここまでだった。ついにノゲイラの必殺・三角絞めがエンセンを捕まえる。完全に極まっておらず、エンセンは足をノゲイラの顔に向ける格好で脱出。ノゲイラの顔に膝を叩き込もうとする場面もあったが、ノゲイラは冷静。エンセンの腕をつかみ続け、その腕を引っ張り込むように三角絞めを今度は完全に極める。危険を察知したレフェリーが試合をストップ。エンセンは最後までタップすることはなかった。
 エンセンはマイクを持つとこう話した。「みなさん、みなさん。ノゲイラは強すぎた(観客笑)。だからPRIDEのヘビー級チャンピオンでしょ。今日は私の一族と山本家の家族が見にきてくれたのでぜひ勝ちたかった。エンセンに負けも勝ちも関係ない。でもきょうは勝ちたかった。すみませんでした」。この後、ニューヨークの貿易センタービルのテロ事件で亡くなった友人への追悼の言葉を英語で話し始めたが、単に敗者の長いマイクアピールと受け取った一部の心無い観客がブーイングを浴びせると、「ファック・ユー!」と怒ったあと、日本語で「いってきます」とアフガンに志願兵として向かう覚悟を言い残し、リングを降りた。

◆ノゲイラのコメント
「エンセンはテクニックのある力強いファイターだった。このようなレベルの選手と試合ができたことを誇りに思う。アームロックは極まっていたがあのままでは彼がタップしないと思ったので、ケガをさせないようにチョーク狙いに作戦を切り替えた。
私はどの試合でもタイトルマッチのつもりだし、チャンピオンのプライドを常に持って戦っている。
14歳の頃から柔術の練習をしているので相手の動きにあわせて最適な動きをすることができる。その動きの延長に相手からタップを奪うことがあるだけだ。チャンピオンの私にもしも挑戦したいものがいるならば、誰の挑戦でも受ける。
今後はベルトを守りながらいい試合をしていきたいと思うが、それとは別にK-1の選手とK-1ルールで戦いたい。相手はチャンピオンのマーク・ハントでも誰でもいい。K-1ファイターは我々のルールで試合をすることを嫌がるだろうから、私が彼らに合わせてやろう」

◆エンセンのコメント
「これで最後。復活はないヨ。
(三角で落とされたが)ミナサン寝るでしょ?ワタシ今日家に帰って寝る。一日二回寝るだけよ(笑)今までにワタシのことを手伝ってくれた人たちに最後挨拶したかった。三角にはどうやって入られたかわからない。今まで戦ってきた相手の中で一番の技術を持ってたネ。ノゲイラはものすごく余裕があってすべてやりたい事をやられた。ワタシまるで柔術初心者に戻ったみたいだったネ。
PRIDEにはシウバと試合をさせてくれって何度も頼んだ。最後だし、シウバとならいい勝負できると思った。後悔するとしたらそこだけヨ。もう最後です。
(マイクアピールについて)ニューヨークのビルで死んだ友達のお母さんが来てたネ。ワタシ一年リングにあがってないし3回連続負けたしノゲイラは世界チャンピオンで相手にならないような状態だけど、100%出していい結果出せるように前向きにやったネ。死んだ友達も逃げるとき家族のもとに戻ろうとして100%出したということ。残念ながらダメだったけど・・。お母さんと残された家族には今日のワタシみたいに絶対勝てないような相手でもどんな状態でも100%出して前向きに生きてくださいということ。それ伝えたかった。

ハードトレーニングもニューヨークのこと考えたら大したことないヨ。彼の写真を見ながらがんばった。トレーニングどんなにつらくても、それワタシ選んだこと。彼ら(テロの犠牲者)選んでない。
(兵役でしばらく日本を空けるのか?)わからない。二週間とかかもしれないし、長くなるかもしれない。だけど何かをすることは決まってます。今まではリングの中で100%出してたけど、これからはリングの外で100%の大和魂出します。応援してください」

第6試合 
○ドン・フライ(米国)
×ケン・シャムロック(ライオンズ・デン)
判定2-1

 因縁の対決。開始前から両者微動だにせずにらみ合う。パンチ合戦から始まるが、差し合いになり交互にボディにパンチを叩き込む展開が続く。両者意地があってかパンチを打つ手を止めない。威力があるのはフライのパンチのほうで、シャムロックの脇腹が赤く腫れる。離れては互いにカウンターパンチを打ち込むが、シャムロックのパンチのほうが命中率が高い。
 1R後半、試合が動く。シャムロックがグラウンドに誘い込み、フライの右足をヒールホールドで捕らえる。極まっているように見えるが、フライは表情を変えず1分近く耐えきり脱出。だがシャムロックは今度は左足をヒールホールド。フライはこれも耐える。攻めるほうも守るほうも疲労の色が濃い。そのせいか2Rは差し合いでのパンチ合戦が続き、互いに有効な攻め手に欠く。

 3Rも差し合いから始まったが、離れての殴り合いを制したのはフライだった。右フックをシャムロックの顔面にクリーンヒット。シャムロックがダウン気味に倒れると、フライは一気にシャムロックに乗っかり、ハーフガードの体勢からパンチを連打。シャムロックはもうろうとした表情で、タップアウトも時間の問題かと思われたが、なんとリバースに成功。得意のヒールホールドで反撃を開始する。だがフライもシャムロックの足をつかみ、ヒールホールド合戦が2分近く続く。互いに死力を尽くし、そのまま試合終了。終わってからしばらく、二人は視線を合わしたあと、和解の抱擁をした。
 判定は岡林、小林はフライ、西はシャムロックに点数をつけ、フライが勝利。フライはシャムロックの手を高くあげ、負けたライバルを讃えた。
 フライはマイクを持ち「最高の試合ができた。ケン、ありがとう。今までケンにひどいことを言ってきたが、今日の試合でケンがすばらしい選手とわかったので、全て謝りたい」と話した。
(両者ノーコメント)

第5試合 
○ヒース・ヒーリング(ゴールデン・グローリー)
×イゴール・ボブチャンチン(ウクライナ)
判定3-0

 ヒーリングがインサイドガードからのパンチでプレッシャーをかけ続ける。こう着状態の後、ボブチャンチンは脱出に成功するが、早くも右目を出血。今度はボブチャンチンがハーフマウントを取るが、ヒーリングは脱出。再びヒーリングは下になっても三角絞め、アームロックと積極的に攻める。だがボブチャンチンも体を回転させるなどして必死にディフェンス。グラウンド技術の成長が著しい。このあとも一進一退のアグレッシブな攻防が続き、満員の観衆が盛り上がる。
 だが2、3Rは静かな展開が続く。2Rはボブチャンチンがサイドポジションの姿勢のままこう着。3Rはヒーリングが片足タックルでテイクダウンに成功しインサイドガードからパンチを落とし続ける。動きの少ないボブチャンチンにイエローカードが提示される。スタンドでの再開後ボブチャンチンは一瞬マウントポジションを取るが、ヒーリングがひっくり返しインサイドガードになり、そのまま試合終了。判定の結果1、3Rを優位に進めたヒーリングが勝ち星を奪った。

◆ヒーリングのコメント
「ボブチャンチンは強かったよ。勝ててうれしいね。もっと打撃戦になると思ってたけど、ボブチャンチンのほうからグラウンドに持ち込もうとしてきたのには驚いたよ。正直言うとボブチャンチンがあそこまでグラウンドのテクニックがあるとは思わなかったな。
作戦的には自分のスタンドがどこまで通用するか試そうと思っていたんだけど、ボブチャンチンの右フックを一発でももらってしまうと大変だから積極的に行けなかったかもしれないね。
またヘビー級のベルトに挑戦できればと思うけど、いい相手といい試合をして、場数を踏んで成長していくのが今は大切だと思うね。今回の髪型はオランダで格闘技好きの美容師にやってもらったんだ。俺の髪型は対戦相手によって決まるから次もどうなるかわからないぜ(笑)」

◆ボブチャンチンのコメント
「私と相手に体格差があったので思い通りに攻撃が出来ませんでした。パンチを打っても長い手足からカウンターが飛んでくるので非常にてこずりました。私はもっと打ち合いがしたかったのですが、うまく行かなくてグラウンドでの展開になってしまいました。試合間隔が二ヶ月というのは短すぎました。もし私の希望が通るならば五ヶ月はゆっくり休みたいです」

第4試合
○カーロス・ニュートン(ローニン)
×ペレ(シュートボクセ)
1R 7'16" 腕ひしぎ十字固め

「褐色の宮本武蔵」というキャッチフレーズのつけられたニュートンは剣道着姿で入場。ペレは左ハイ、高く上がる膝蹴りで開始早々ニュートンをヒヤリとさせるが、ニュートンは相撲合戦を制してテイクダウンに成功。タコのようにペレに絡み付き、下から腕十字を狙う。ペレは脱出し両者再び相撲になるが、ニュートンは今度は華麗な一本背負いでペレをテイクダウン。グラウンドではニュートンが試合をコントロールし続け、またも下からの腕十字を狙う。極まったかに見えたがペレは力づくで脱出する。
 手に汗握る一進一退の攻防はまだ続く。両者カウンターパンチの応酬を見せたあと、ペレが鋭い飛び膝蹴りをニュートンに一閃。ニュートンの動きが鈍る。ペレは一気呵成に攻めテイクダウンに成功し、初めてサイドポジションを制する。
 だがグラウンドはやはりニュートンにとって有利な展開であることに変わりはない。ペレが下から腕十字を狙ったところをニュートンはあっさり脱出し、逆にペレの腕をとらえ三角絞め気味に極めペレからタップを奪う。ニュートンが見事なテクニックで激戦を制した。

 ニュートンはマイクを持ち、カナダの大学で勉強中の日本語で話す。「はーい、こんばんわ。拙者はニュートンでござる。みなさん久しぶりですね。元気ですか? みなさん今夜も私を応援してくれてありがとう。みなさん、今夜の私の試合はいかがでした?(観客の「おもしろかった」「よかった」といった声援に)ホントに? PRIDEの試合はとても面白いですね。このあとの試合もきっと面白いですよ。見て下さい。じゃあ、またPRIDEで皆さんにお会いしましょう。ありがとうございました。おつかれさまでした。カメハメ波!」

◆ニュートンのコメント
「ペレはとにかく強くておっかない選手でした。ペレみたいな悪い子にはちゃんとした技でやっつけてあげないとね!それが大和魂のなせる技です。一発すごく痛いヒザをもらったけど、あとはたいしたことなかったですね〜。正直に言うと試合前はちょっぴり怖かったですよ。今後はもう一回桜庭選手と戦いたいですね〜。前に戦った時は僕も若かったので。(剣道着での入場は)僕の剣道の先生が“ぜひこれを身に着けて入場してくれ”と言われたので、あのコスチュームで入場しました。
久しぶりの日本だったのですが、昔から家族ぐるみの付き合いのある友達と会えてうれしかったです。大好きな“吉野家”で食事もできたしね!(かっこいいですね、と言われてしきりに照れながら)僕はスーツを着るのが大好きなんですよ。日本で高校生がブレザーやスーツを着ているのを見てかっこいいなあと思って一着買ってしまったほどなんです。東京大学で交換留学生として勉強したいとも思ってますよ」

◆ペレのコメント
「勝つことだけを考えて、打撃で勝負しようと思っていた。ニュートンはとてもいい選手だった。あまり激しい選手だとは思ってなかったけれど、そんなことはなかった」

第3試合
×松井大二郎(高田道場)
○ホドリゴ・グレイシー(ヘンゾ・グレイシー柔術アカデミー)
3R 0'28" フロントチョークスリーパー

 ホドリゴは子どもの時に好きだったという戦隊ものドラマ「チェンジマン」の主題歌で入場。観客をあぜんとさせる。
 ホドリゴが勢いのあるタックル、パンチ、膝蹴りで突進。先にテイクダウンに成功すると、クロスガードの松井を持ち上げリング中央に運ぶ。PRIDEデビュー戦と感じさせない落ち着いた試合運びだ。中盤にはハーフパスガードからマウントポジションに一気に移行。松井ピンチかと思われたが、グレイシーのお株を奪うようなリバースに成功する。
 上になった松井だが鼻血が見える。松井は足関節を狙ったが失敗。ホドリゴが再び上になる。一旦ロープ際でもつれストップドントムーブとなったところで松井の鼻血が激しくなりドクターチェックが入る。再開したがホドリゴが上から密着、松井はクロスガードで、こう着のまま1R終了。
 2Rもホドリゴが先にテイクダウン。だが1R終盤と同じくこう着が続き、両者にイエローカードが提示される。しかしスタンドでの再開後、ホドリゴが組み倒してバックを取り胴締めスリーパーを極める。ホドリゴの大チャンスとなったが、松井はかろうじて脱出しインサイドガードに。だが鼻血が再発し再びドクターチェックが入る。試合は再開するがこう着のままラウンド終了。

 3Rは意外にもあっけなかった。松井の片足タックルに対し、ホドリゴは松井の首をギロチンチョークに捕らえてグラウンドに引き込む。松井は立ち上がり脱出を試みるが外すことができずタップアウト。勝利の瞬間ホドリゴは舌を出し憎々しい表情で大喜び。セコンドのヘンゾも勝利を祝った。

◆ホドリゴのコメント
「マツイはすごくタフな相手だったよ。高田道場の選手だってことは知っていたよ。サクラバなどのグッドファイターのいる素晴らしい道場だと思うね。バーリトゥードはまだ2戦目だからリングに上がる前は緊張していたけど、入場曲が流れた時に緊張が解けたね。今日の入場曲は子供の頃に見ていた”チェンジマン”のテーマソングさ(笑)ヘンゾとトレーニングした内容を全て出せたと思う。試合中は流れに沿って動いただけさ。
(松井にスイープされたが)普段はあのポジションからスイ―プされないのでちょっとびっくりしたね。勝てて最高の気分さ。プライドからオファーがあればもっと試合をしたいと思うよ。相手は誰でもいいね」

◆松井のコメント
「・・・悔しいです。ホドリゴはもっと引き込んでくると思いました。効いたパンチは一つもありませんでしたね。鼻血が出てますけど、出やすい体質なもので。ヤバイと思ったのは最後だけで、あとは余裕がありましたね。タイミングよく入った感じなので、そこが甘かったと思います。 今年は残念なスタートになったけど今後もPRIDEに出られるように、目標を持って頑張っていきたいです」

第2試合
×ヴァリッジ・イズマイウ(カーウソン・グレイシーチーム)
○アレックス・スティーブリング(I.F.アカデミー)
判定3-0

 イズマイウは開始早々タックルでしつこくスティーブリングを組み付き倒すことに成功したが、なかなかパスガードできない。スティーブリングはオープン、クロスのガードを巧みに使い分け、イズマイウのパンチを防御し、逆に下からパンチを放つ。イズマイウは徐々にスタミナを消耗し顔から出血が見える。
 一方若いスティーブリングは元気満点。1R終盤にはようやく下のポジションから脱出しバックからのスリーパーを狙う。2Rに入ってもパンチ、膝蹴り、アームロックで反撃。イズマイウはインサイドガードになるが、動きに乏しく体力を回復させている様子だ。終盤にスティーブリングが脱出すると、あとはスティーブリングのワンサイドゲームに。フォーポイント(四つん這い)のイズマイウの頭部に膝を連打する。3Rもスタンドでのパンチ、首相撲での膝蹴り、フォーポイントでの膝蹴り、ハーフガードでの頭部へのパンチ、腕十字などで攻勢。アラン・ゴエス戦につづく金星をスティーブリングが奪った。

◆スティーブリングのコメント
「ベストの試合ができなかった。1Rで極めるべきだったよ。イズマイウは打たれ強かったね。1Rに右手を負傷してしまい、その後は左手での攻撃と右の掌打で攻撃するしかなかったんだ。僕のベストは追い詰められたときに出る。イズマイウは特に危険だとは思わなかったしスタミナが切れてるのもわかったから今回は力を出せなかったね。今後もブラジル人と試合をしたいね。彼らはファイターとして肉体的にも精神的にも強いから。僕はとにかくベストの選手と戦いたいんだ」

◆イズマイウのコメント
「スティーブリングはいい選手だった。すごくスタミナがあるしディフェンスがうまかった。自分のコンディションは良かったけどスタミナが切れてしまった。
(スティーブリングに脅威でないと言われたが?)それに対しては何と言っていいか分からないけど、私はとにかくベストを尽くして今は気分がいいし、ジャッジが彼が勝ったと判断したのだから仕方ない。
私は小さいからPRIDE用に体重を増やさなければいけなかった。UFCみたいに階級を増やして欲しいと思う。次の試合までにもっとトレーニングをするので、日本のファンには絶対カムバックすると言いたい」

第1試合 
○トム・エリクソン(rAwチーム)
×ティム・カタルフォ(オバケジム)
1R 2'35" 裸絞め

 開始早々上になったエリクソンのプレッシャーを、歴戦で培った組技テクニックで防御していたカタルフォだが、脱出しようとしたところで背中を見せてしまい、スリーパーを狙われる。指を自分の顔とエリクソンの腕の間に入れて防御していたが、エリクソンは体勢を変えて再びスリーパーを狙う。今度は完全に極まりカタルフォはタップ。決して技術水準は低くないカタルフォだが、メジャーのPRIDEの舞台は大きすぎたようだ。

◆エリクソンのコメント
「今日の試合のために地獄のようなトレーニングをしてきた。ゲーリー・グッドリッジとマーク・コールマンと私とで”ラットパック”という新しいチームを結成したんだが、そのチームの初勝利を飾ることができて嬉しいよ。このチームが今後のPRIDEを支配する。スーパーマンでもバットマンでも誰でもいいので対戦相手を用意してくれ。次は日本人と戦いたいと思うが、今年中にチャンピオンのノゲイラとも試合をしたいと思う」

◆カタルフォのコメント
「コンディションは万全だった。昨日43歳になったんだが、20歳くらいの状態で試合をすることが出来たよ。相手がキックできたらパンチ、パンチできたら横にかわすつもりだったんだが距離がうまく取れなくて思うように打撃を出せなかった。ロープ際でテイクダウンされるというミスを犯してしまい、それが勝敗を分けてしまったと思う。戦うことが好きなので今後もリングに上がりたい」

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※次回PRIDE.20は4月28日(日)に横浜アリーナで開催される。29(祝)の予定から日程変更された。パンクラスの菊田早苗、美濃輪育久が参戦予定。

Last Update : 02/25

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