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(レポ&写真) [空道] 5.21 愛知:藤松不在の北斗旗に新王者続々誕生

国際空道連盟 "2006北斗旗全日本空道体力別選手権"
2006年5月21日(日) 愛知・愛知県武道館第一競技場

「主役の不在」と「外部勢力台頭」が生んだ、北斗旗の新しい光景
 Text & Photo:井田英登

 北斗旗体力別大会の“聖地”宮城県スポーツセンターが、今年は改修によって使用不可能となったため、今大会は名古屋に舞台を移しての開催となった。その“遷都”が影響したわけでもあるまいが、一気に若い世代が王座に蝟集する結果となった。

 その第一の原因には、なんといっても従来の北斗旗常連入賞者の不在が挙げられるだろう。今回は第二回世界大会明け初の北斗旗全国大会ということもあり、国内の現有勢力が問われる大会でもあったわけだが、ふたを開けてみると、東京地区予選を勝ち抜いたはずの、超重量級世界王者・藤松泰通が本戦出場を辞退という、驚きの事態が待っていた。

 実は藤松は今年で寮生三ヶ年の年季明けとなり、寮を出る前提で就職活動を始めたばかりだというのである。“社会体育”を流派の是として持つ大道塾では、「まずは社会人として食う事」を前提として競技が成り立っているため、職業上の理由でしばしば主力選手が不参加という事態が出来する。競技の本道を体現するべき世界王者が、自らそのイズムを実践するのには何の不思議も無いが、やはり衝撃が無かったと言えば嘘になる。また、世界大会を見送ってニ年ぶりに北斗旗に復帰、軽重量級の大本命だったアレクセイ・コノネンコは、三回戦途中の負傷(右足親指靭帯損傷)により準決勝進出辞退。それぞれの事情があるとはいえ、各階級の“顔”となる選手の姿が、揃ってマットから姿を消すという状況が現出してしまった。

 そんな中、気を吐いたのが今回三人の選手を送り込んだ、修斗の名門・パラエストラ松戸勢。特に、同ジムの代表でもある鶴屋浩は、東塾長をして「重量級は鶴屋君に取られても仕方が無いと思った」と言うほどの快進撃ぶり。三回戦では、試合開始早々に腕十字で秒殺劇を演じるなど、ブラジリアン柔術黒帯の実力をまざまざと見せつけた。しかし、準決勝の稲田戦では、一転頭突き連打や火の出るような右ローで、本来空手家である大道塾生を圧倒するような打撃戦を展開。だが、稲田は、バックスピンキックなど単発の大技の他は、テイクダウンを警戒してか、四つに組んだままの膠着を繰り返す。するとこれに焦れた鶴屋が「勝負しようぜ、勝負!」と叫び(これは試合中の不規則発現として主審から注意されたが)、他団体対決ならではの意地と意地がぶつかり合う熱いシーンを作り出す。結局、最後はスィープ〜マウント〜腕十字への移行という、鶴屋が最も得意とする形で効果を奪取。優勢勝ちで決勝に駒を進めた。

 決勝戦の対戦相手、佐々木はアマレスで国体出場経験もある組技巧者。Aブロック決勝ではパレストラの同門・栗栖達也を下しており、鶴屋の得意の展開である引き込みからの寝技の攻防も思うに任せない。奇襲の蟹ばさみからの膝十字に勝負を賭けた鶴屋だったが、30秒のグラウンド攻撃制限時間に阻まれてしまう。「あの膝十字に全てを出し尽くしてしまった」と試合後語った鶴屋の言葉通り、終盤佐々木の頭突きから、膝、パンチ連打という大攻勢を浴びて有効を献上して力尽きた。

 だが、試合後のインタビューで鶴屋は「寝技30秒で極めなければいけない北斗旗のルールは、逆に柔術をやっている僕らにも勉強になる」と継続参戦の意志を見せており、今後の捲土重来が期待される。また“外部勢力の侵攻”というのは、従来内輪での闘いがほとんどの大道塾勢が、最もポテンシャルを発揮するケースでもある。優勝者の佐々木は、全試合の獲得総ポイント集計でトップに立ち、最優秀勝利者賞と北斗旗を手にしているが、この快挙を後押ししたのは、決勝での“外敵”鶴屋との熱戦であったことは言うまでもない。

 軽量級準決勝でも、優勝者・平安孝行の前に立ち塞がったのは、やはりパラエストラ勢だった。2005年全日本アマチュア修斗フェザー級を制した扇久保博正は、投げと極真12年のキャリアが伺える蹴り技で平安を苦しめる。接近戦でのショートフックや膝、タックルのカウンターに合わせた飛び膝など、飽く事無く手数を重ねた平安に、再延長でようやく判定は傾いたが、この気力を持たせたのも“対抗戦”というフレーム故だったのかもしれない。

 また、“藤松不在”の超重量級では、今年から大道塾九州本部職員に就職、“新・社会人”として「社会体育」を体現する立場となった平塚洋二郎が、多彩な蹴りとバックステップとスウェイを多用する組み手で新境地を見せ、初優勝を飾った。この組み手の変化は、実は途中拳を壊しパンチに頼れなくなったが故の苦肉の策であったというが、“怪我の功名”とは言え、直線的な突進力に頼らずに闘える“幅”を身につけたのは大きな産物だと言える。新世代のホープと目されながら、同世代の藤松に数馬身遅れる形となった彼が、この初戴冠をステップボードにどこまで藤松の背中に迫れるかが、今後この階級の行く末を決める事になるだろう。

 偶発的な「主役の不在」と「外部勢力」の活躍という、ある種ネガティブな要素が生み出した北斗旗の新しい勢力分布図だが、結果としては一昨年の軽量級王者・平安を除く全階級が初戴冠という、フレッシュな顔ぶれが頂点に立つことになった(またホープと言う点では、軽重量級の準決勝で、優勝者の小野と事実上の決勝戦と言ってもいい内容で、互角の攻防を繰り広げた21歳の新鋭・笹沢一有の存在も特筆しておかねばなるまい)。この数年上位陣の固定化・平均年齢の上昇が密かに懸念されてきた北斗旗だが、若手の台頭が一つの形になったのは喜ばしい。

 大会後の講評で東塾長が「ウチはプロじゃないんで、選手も仕事があるし、ベストな状態だけを見せられる訳じゃない。それを言い訳にしちゃいけなんだが…今回安心して見られたのはベスト4の試合ぐらいかな」と語ったように、決してハイレベルな大会だったとは言えない。例えば歴代のチャンピオンがそろい踏みを見せた2003年の北斗旗体力別大会での命を削るような壮絶な攻防や、あるいは昨年の世界大会のようなスケール感のある試合は、残念ながら目撃できなかった。しかし、現時点での「空道の現実」は、今大会に等身大で反映されていたと見るべきだろう。そして“ここ”から始まる光景こそが、四年後の次の世界大会に続く新たな道の第一歩となるのは間違えない。



【決勝戦結果】※太字は優勝者

■軽量級(身体指数=身長+体重 230未満)
平安孝行(岩国/04北斗旗軽量級優勝:25歳)
×渡部和暁(東北本部/05第二回世界大会軽量級3位:26歳)
再延長戦 アキレス腱固め

■中量級(身体指数=身長+体重 230以上240未満)
原田治久(中部本部:32歳)
×巻礼史(筑紫野:34歳)
一本(中段回し蹴り)

■軽重量級(身体指数=身長+体重 240以上250未満)
小野 亮(吉祥寺/01世界大会軽重量級3位、05北斗旗軽重量級準優勝:32歳)
×服部宏明(関西本部/02北斗旗軽重量級3位:30歳)
延長戦 パンチ連打による技有り→技有り優勢勝ち

■重量級(身体指数=身長+体重 250以上260未満)
佐々木嗣治(帯広:28歳)
×鶴屋 浩(パラエストラ松戸:35歳)
延長戦 パンチ連打による有効→有効優勢勝ち

■超重量級(身体指数=身長+体重 260以上)
平塚洋二郎(九州本部/04北斗旗無差別3位、05第二回世界大会長重量級3位:24歳)
×西出太郎(長居:39歳)
延長戦 左上段蹴りによる効果→判定勝ち 

■女子部
前原映子(大宮西・久喜:25歳)
五角形トーナメント(5人の参加者が各2試合を闘い、全勝者が勝ち抜けする形式の準リーグ戦)内で2勝

※最優秀勝利者賞・北斗旗
佐々木嗣治

Last Update : 05/22 11:58

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