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(レポ&写真) [ラウェイ] 3.17 新宿:立技VTが拳合戦に行き着く理由

和術慧舟會総本部 "クシマズファイト12"
2006年3月17日(金) 東京・新宿FACE

  レポート&写真:井原芳徳  【→カード紹介記事】 【→掲示板・キックスレッド】
 

第5試合 ラウェイ 3分5R(インターバル2分)
△石黒竜也(東京北星ジム/NJKFウェルター級2位・前王者)
△チョー・ニェン(ミャンマー/ラウェイ・ウェルター級王者)
時間切れ


第7試合 メインイベント ラウェイ 3分5R(インターバル2分)
×山内哲也(アクティブJ/J-NETWORKミドル級1位・前王者)
○ロン・チョー(ミャンマー/ラウェイ・ミドル級王者)
3R KO (3ダウン:右フック)


 筆者を含めこの日会場に訪れたマスコミ・観客・格闘技業界関係者の大半は、ラウェイという競技について概略ぐらいは知っていても、試合を観るのは初めて。普段のキックや総合の観戦とは違い、試合がどういう様式で進み、どういう技術が有効で、展開の中でどういうことが起こりうるのか、ほとんどのことがわからないため、脳の使う部位がいつもの格闘技観戦と違う。まるで暗闇の中を進むかのように、私たちはラウェイの道に入り込むことになる。

 ミャンマーの隣国・タイのムエタイとの対比で説明していくのがわかりやすいだろう。試合前にミャンマーの選手はダンスを踊るが、15秒程度と短い。相撲取りが塩を撒いてシコを踏むのにむしろ近いかもしれない。試合では蹴りや肘や投げをさほど駆使せず、バンテージだけを巻いた拳を振り回す攻防が中心だ。頭突きも有効だが、自分の頭も痛めるリスクが大きいせいか、それほど使われない。むしろ頭突きを警戒し、首相撲では互いの頭を常にこすり合わせるようなやりとりが行われることが多かった。

 バーリトゥードのように技の規制の少なさばかりが注目されたラウェイだが、結局は拳の攻防に収束し、他の技があまり使われないのは何故だろう? 暗闇の道の先の光源は、試合の決着方法の違いにあった。技の規制の違い以前の問題だ。ラウェイでは判定が無いのだ。ムエタイのようにミドルや膝の手数でラウンドごとにポイントを取り、4Rまでで優勢な選手は5R目は逃げ切るという展開にはならない。洗練された蹴りの技術はいらない。とにかく相手をKOまたは屈服させるか、3度ダウンさせるか、ドクターストップに持ち込むことが要求される。

 そこで活きるのが一撃で倒せる武器だ。そしてグローブをつけず素手に近い状態で殴ることが、決着方法の違いに次ぐ、ラウェイという競技を形作る大事な要素であることがわかった。第7試合でミャンマー人のロン・チョーはハイキックや肘も駆使したが、ダウンを奪い勝利に直接繋げたのは拳だった。ロンと戦った山内哲也は「(ボクシンググローブと違い)拳は一点に痛みが来る」と話した。こめかみかアゴを的確に撃ち抜けば、グローブを付けている時より大きな衝撃を相手に与えることができるのだろう。

 小さなダメージを蓄積させるよりも、一瞬の強打がものを言う。山内も第2試合で敗れた佐藤真之も、パンチで一度いいのをもらうと一気に失速して敗れた。第8試合で石黒竜也は相手の顔をパンチで腫れ上がらせ、KO寸前まで追いこんだが、ダウンは奪えなかった。ボクシンググローブを付ける戦いと素手の戦いでは、パンチの効かせる部位や軌道が微妙に異なる。「相手のパンチは見切れた。遅い」と石黒は話したが、遅くはあっても的確に素手の拳を当てて効かせる技術は、経験豊富なラウェイ勢が勝っていたようだ。

 だとすればラウェイ同様素手に近い空手の選手のほうが、グローブをつけて闘うボクサーやキックボクサーよりも、ラウェイ向きといえるかもしれない。もちろん顔面殴打を認めない流派が大半のため、その対応がネックとなるが、一撃ならば空手家の真骨頂だ。ボクサーなら接近戦で左ボディブローを駆使するのも手だろう。

 パンチが苦手でも、キックボクサーと空手家は、ローキックを駆使すればこのルールでも十分戦える。実際、山内は1Rに右ローを効かせ、相手選手を早い段階から嫌がらせていた。ラウェイの選手はローのカットがうまくなかった。新宿FACEのリングは小さいため距離を取った戦いがしにくかったが、通常のサイズのリングならローは十分活かせると思う。なにぶんインターバルが2分もあるため、短期集中で効かせることが大事にはなるが。

 最後に記しておきたいのはラウェイのチャンピオン達のハートがとても強かったこと。強がり半分かもしれないが、石黒に顔をボコボコにされたチョー・ニェンは「もっとボコボコになった試合もあるよ」と笑いながら答えていた。普通にダメージを与えるだけでは倒れない。足に効かせるか、強烈な一撃を当てるかで、有無も言わせず立てない状態にすることが、彼らと戦う場合には求められる。白星は奪えなかったとはいえ、そういうタフな相手と激闘を繰り広げた経験は、山内と石黒にとって今後の白星への糧となるはずだ。
 

第1試合 柔術(ポイント無し) 3分2R(インターバル2分)
×串間政次(和術慧舟會串間道場)
○會田雅芳(和術慧舟會A-3)
2R 一本 (アームロック)


 大会名の「クシマズファイト」は、和術慧舟會の西良典代表が串間に捧げて名付けたもの。串間はガンと戦う片足の格闘家。4年前に骨肉腫で左足を切断。その後肺に転移し余命半年と診断されたが、6度の手術を経て今も戦い続けている。プロデビューはなんとバーリトゥード。壮絶な試合は何度も地元長崎で放映され、韓国も全国放送された。その後は柔術マッチを中心に1勝3敗。その闘病の様子はNHKの福祉ネットワークという番組でも取り上げられた事がある。

 串間が試合前に義足を取り外すだけで、会場は不思議な緊張感に包まれる。ルールは通常の柔術と違いポイントは無し。串間が肺を3分の1切除していることから、体力を考慮しラウンド制が採用されている。片足が無い分、あっさりパスガードを許してしまうが、下から関節技を狙う動きや腕十字を防御する動きは素早く力強い。一つ一つの動きを観客が固唾を呑んで見守る。
 さすがに2R目になると勢いが落ち、最後はアームロックを極められる。1回目は外したが、直後の2回目には悲鳴を上げ、レフェリーが試合を止めた。会場は串間の奮闘に大きな拍手。敗れた後も串間は長々とうなだれることなくすぐ立ち上がり、相手コーナーに片足でジャンプしながら移動し、相手のセコンドと握手し、相手選手を讃える。
 精進と礼儀。殺し合い一歩手前のスポーツである格闘技が絶対に無くしてはいけないものを、片足を無くした格闘家から改めて教えられた試合だった。

 
第6試合 セミファイナル ラウェイ 3分5R(インターバル2分)
△若杉成次(和術慧舟會福岡支部)
△村井義治(理心塾/元MA日本フェザー級2位)
時間切れ

第2試合 ラウェイ 3分3R(インターバル2分)
○ソー・ゾー・レイ(ミャンマー/ラウェイ・ライト級王者)
×佐藤真之(FSA拳真館/士道館全日本空手選手権中量級準優勝)
1R 2'52" KO (3ダウン:パンチ連打)

第4試合 キックボクシング 3分3R(延長1Rマスト判定)
○ニック・ヒョード(アメリカ/和術慧舟會西道場/UNJKミドル級1位)
×テェンライノーイ・コーナロンサック(タイ/高田道場)
4R 判定3-0 (松永=ヒョード/出田=ヒョード/野口=ヒョード)
3R 判定1-0 (松永=30-30/出田=30-29/野口=30-30)

第3試合 バーリトゥード 5分2R
○中村勇太(和術慧舟會福岡支部)
×廻淳乃介(マーシャルアーツ・ジラーフ/元全日本合気道王者)
1R 2'33" TKO (レフェリーストップ:マウントパンチ連打)
 

Last Update : 04/20 13:08

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