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(レポ&写真) [UFC 52] 4.16 ベガス:クートゥア陥落。ヒューズ防衛

Zuffa "Ultimate Fighting Championship 52 - Couture vs. Liddell 2 -"
2005年4月16日(土) 米国ネバダ州ラスベガス:MGMグランドガーデンアリーナ

  レポート:シュウ・ヒラタ(BoutReview USA) 写真:Dave Mandel(MMA fighter)
  【→カード紹介記事】 【→掲示板】

第8試合 メインイベント UFCライトヘビー級タイトルマッチ 5分5R
×ランディ・クートゥア(アメリカ/チーム・クエスト/王者)
○チャック・リデル(アメリカ/ピット・ファイトチーム/挑戦者)
1R 2'06" KO (パンチ)

※リデルが新王者に

 獅子奮迅。いまのUFCを表現するのにピッタリの言葉だ。
 そしてその原動力となっているのは、去年の秋にスタートしたSPIKE TVのリアリティ・ショー「ジ・アルティメット・ファイター(The Ultimate Fighter)」である。

 アメリカでは1992年に始まったMTVの「リアル・ワールド(Real World)」の大ヒットを皮切りに、(いろいろと事前に制作者側によって設定されてはいるのだが)リアリティ・ショーと呼ばれているドキュメンタリー番組がどのチャンネルでも非常に高い視聴率を誇っている。UFCへの出場権を賭けて16人の選手がひとつ屋根の下で生活するこのスポーツ系リアリティ・ショー「ジ・アルティメット・ファイター」は平均視聴率1%前後を維持した人気番組。
 でも所詮1%なんだから大したことないでしょ、と思う方々、驚くなかれ。平均視聴率1%ということは、視聴者数で言うと200万人ちょい、そして視聴世帯数だと約100万世帯。これはアメリカのケーブル・テレビの世界では、かなりのヒットと言える数字なのだ。アメリカのテレビ、特にケーブル・テレビを語るとき、もちろん視聴率も大切だが、あまりにもチャンネル数が多いので、視聴率ではなく「視聴者数」と「視聴世帯数」というカテゴリーで数字を語る事が多い。4大ネットワークのNBC、ABC、CBS、FOX、そして我が家のリモートコントロールで操作すると画面にずらりと並ぶケーブル・チャンネルの数は、HBO、SHOWTIME、FOX、CNN、TBS、ESPNからFOOD CHANNEL、DISCOVERYCHANNEL、HISTORY CHANNELなど300を超える。だからケーブル・チャンネルの世界では、ほとんどの番組の視聴率は0.3%、下手したら0.06%とかになってしまうのだ。
 「前回の中継は視聴率0.5%を超えたんだよね。じゃあともう少しで1%だな」だと、どんぐりの背比べみたいな、何だかしみったれた話に聞こえてしまうではないか。だから「視聴率」ではなく「視聴者数」と「視聴世帯数」になってしまったらしい。もちろん、新番組をオンエアしたらそのすぐ次の週に2、3度同じものを再放送してしまうケーブル・チャンネルと、新番組の再放送がずーっと先になる4大ネットワークとでは、視聴率に対しての考えが違うというのも納得がいく。
 
 御存知の方も多いと思うが、アメリカというのは実にいい加減というか国土が広いというか、普通にテレビを買ってきて家に戻ってアンテナをつけるだけじゃほとんどのチャンネルがちゃんと観られない。しっかりと電波を受信できないから綺麗に画面が映ることなど皆無に等しいのだ。4大ネットワークでさえ、NBCとFOXは何とか大丈夫だけどCBSは全然だめ、ABCはアンテナを窓に向けて約45度の角度に傾ければ何とか。でも微妙な角度の違いで映りが違うから、変形させたビール缶を下において、人差し指でアンテナを少しずつちょんちょんと突っ突きながら窓の方へ、と指先に神経を使わなくちゃ好きな番組が観られない事もあるのだ。そこでほとんどの人はケーブル・テレビを引く。そう、この国で鮮明な画面を獲得するには、大都会だろうがド田舎だろうが、壊れていないテレビを買ってくるだけではダメなのだ。何だか不条理な気もするけど、仕方がないから(州によってその価格は異なるが)月々15ドルぐらい払ってケーブル・テレビを引く。そうするともちろん全てのチャンネルが鮮明に映るし、自動的に受信できる他のケーブル・チャネルが山ほどある。だから、まぁいいか、という事になってしまうのだ。そしてその自動的に受信できるケーブル・チャンネルというのが、日本でもお馴染みのCNNやESPN、MTVなどのチャンネルである(ちなみにHBOやSHOWTIMEなどは、それぞれチャンネル毎に月々10ドルほど払って追加しなくては受信できない有料ケーブル・チャンネルである)。そしてケーブル・チャンネルは、スポーツばかりのESPN、24時間ニュースだけのCNNや外国映画や芸術映画オンリーのBRAVOといった具合に専門化されているものが多い。
 「ジ・アルティメット・ファイター」を制作したSPIKE TVというケーブル・チャンネルは、なかなかカテゴライズするのが難しいが、男のためのアクションもの過激もの専門チャンネルと言って語弊はない筈だ。「トラック!」という四輪駆動トラックのその魅力と歴史を紹介する30分番組があって、その後に映画「スター・トレック」、次は「犯罪捜査」という刑事物ドキュメンタリー、そして「風雲たけし城」がきて「WWEロウ!」といったラインアップである。(余談ではあるが、80年代の日本のヒット番組「風雲たけし城」の吹き替え版は、このチャンネルでかなり高い「視聴者数」と「視聴世帯数」を維持している人気番組なのだ)

 さて、この「ジ・アルティメット・ファイター」の番組の内容を簡単に説明すると、ミドル級8人とライト・ヘビー級8人の若手選手が、各階級4人ずつランディ・クートゥアーとチャック・リデルのチームに分かれ、毎週チームワークと体力を駆使して行うゲームをしながら、またはオクタゴンの中で試合をして失格者をだしていく。その間、16人全員はひとつ屋根の下で暮らし、その生活もカメラが追い掛けるといった「リアル・ワールド」と総合格闘技、更に、クートゥアーとリデルを板の上に置いてあるソファに座らせ、それをチームそれぞれみんなで担ぎながら湖と砂漠に設置された障害物をクリアしていくゲームなどもあるので「風雲たけし城」の要素をもミックスしたとも言えるリアリティ・ショーなのだ。
 そして最後に残ったミドル級ふたりとライト・ヘビー級ふたりの試合、それからケン・シャムロック対リッチ・フランクリンの試合が組まれた最終回がオンエアされたのが、このUFC 52の一週間前の4月9日。2時間半の生中継で行われたこの最終回、視聴率は1.9%、視聴世帯数は176万6000世帯、そして視聴者数は260万人を記録したのだ。これはもちろん、今までのどのUFCのPPV中継よりも遥かに多い視聴世帯数、視聴者数であり、去年スタートした新しいリアリティ・ショーの中では、実業家ドナルド・トランプがホストを務め「You’re Fired!(お前はクビだ!)」と毎週ひとりひとり参加者を切っていくNBCの人気ビジネス系リアリティー・ショー「アプレンティス(The Apprentice)」に続く立派な数字なのだ。

 同じ格闘技のボクシングだけでなく、野球、フットボール、バスケット、ホッケーとメジャー・スポーツ目白押しのアメリカで、PPVではなく、ケーブル・テレビを引けば自動的に受信できるケーブル・チャンネルに総合格闘技が登場しただけでも大ニュースなのに、これだけの視聴者数と視聴世帯数を叩き出したという事は、今まで数字といった形で公になったことのないこの国にいる総合格闘技のファンの数、そしてその多さを明確にしたという事なのだ。こうなると、他のチャンネルも指をくわえて見ている筈がない。ハリウッドにある某映画配給会社が母体となっているケーブル・チャンネルが、アメリカにあるUFC以外の総合格闘技プロモーションと組んでのリアリティ・ショー制作を検討し始めているというのも頷ける。

 そう、総合格闘技がケーブル・チャンネルに登場したことにより、アメリカの総合格闘技が、マニアックな世界から一般家庭のエンターテイメントに大きくステップ・アップしたと言っても過言ではない。そしてその源となったのがUFCとSPIKE TVが制作したこの「ジ・アルティメット・ファイター」なのだ。だから「ジ・アルティメット・ファイター」にコーチとして登場したクートゥアーとリデルがメインで激突した今大会は、アメリカのファンにとって、特に新しい総合格闘技ファンにとっては、本当の意味での「ジ・アルティメット・ファイター」最終回だったとも言えるのだ。

 MGMグランド・アリーナを埋め尽くしたファンは、ふたりが入場すると、この日最高の盛り上がりをみせた。特にクートゥアーが入場する際に、ジミ・ヘンドリックスのギター・ソロによるアメリカ国歌「星条旗」が流れた時は、「爆発」という表現を使ってもいい程の大歓声に場内は包まれた。そしてこの「ジ・アルティメット・ファイター」の主役ともいえる二人の闘いは、短いながらも非常にスリリングな展開となった。

 オクタゴンの中を右へ右へと回りながら、パンチで距離を計るリデルに、組み付くチャンスを伺いながら牽制の左ジャブを放ち少しずつ距離を詰めていくクートゥアー。1分以上も、パンチとキックの探りあいが続く。
 そして1分30秒過ぎ、飛び込むような右のフック気味のパンチをヒットさせ組みつきにいったクートゥアー。しかしパンチを放ち左手でクートゥアーを押しながら右に回るチャック。この時、リデルの指がクートゥアーの左目に入り試合が一時中断。ドクターチェックが入る。一瞬、クートゥアー対べウフォートの再現かと、場内に落胆のオーラが大きく覆いかぶさる。が、すぐに問題なしと診断され試合開始。再び場内は大歓声だ。

 しかし試合は、すぐにその後フィニッシュを迎える。
 試合再開後、一気にパンチのラッシュで前に出るクートゥアー。しかし、中断によってリズムを崩したところを狙ったこの老獪ともいえる奇襲作戦が裏目に出る。組み付かれない闘いを想定してきたリデルは、ここでも冷静に右に回りサイドからクートゥアーのアゴにス右のストレートをクリーンヒット。倒れたところにパンチと鉄槌の連打をヒットさせたところでレフェリーが試合をストップ。リデルのKO勝ちとなった。

 試合後、オクタゴンの中で「PRIDEのベルトが欲しい。ヴァンダレイとやりたい」と語ったリデルだったが、試合後の記者会見では「もうこのタイトルを獲るために二年間も待ったからね」とUFCに対する想いをほのめかすコメントに終始。
 「チャックはヴァンダレイとやりたいと言っていたが、本当にそれが実現するのですか?」という記者の質問に対して、UFC社長のダナ・ホワイトは「それに関して私の考えは前から変わっていないよ。私はいつでもUFCの選手をPRIDEに送り込む準備はできています。来週だってべウフォートがプライドで闘うからね。でもあっち(PRIDE側)は本気で交渉のプレート(打席)に立ってこないから何もできないさ」と返答。
 この日、「ジ・アルティメット・ファイター」に参加した16人全員が来場していたが、人気リアリティ・ショー初シーズンのエンディングは、チャンピオンとなった者が、そう簡単に違うリングに乗り込んでそこのチャンピオンと闘うなんてなかなかできないというプロ・スポーツの難しさをも、若手選手たちに教えることとなったのだ。

 「ジ・アルティメット・ファイター」のシーズン2の撮影は、今年の6月から始まる。今度はヘビー級とウエルター級の16人。コーチ2人はまだ決定していない。番組の参加者はUFCのホームページで公募しているので、アメリカで一旗あげるぞ!と日本からも応募すれば、英語が喋れない選手が加わるのも番組的には面白いかもしれない、と意外にひっかかる可能性も無きにしも在らず。
 アメリカにいると、こういった舞台にもっともっと日本人たちが積極的に出てくれれば、誰もが想像していなかった道が開けることもあるのに、と思ってしまうのは筆者だけだろうか。ちなみに「ジ・アルティメット・ファイター」シーズン2参加者の一般公募の締め切りは先月の29日だったが、そこは何でもありのアメリカ、まだまだチャンスを逃したと決めつけてしまうのはまだ早い。
 例えば、大学受験のときもそうだが、とにかくこの国は何でもあり、つまりヴァ−リ・トゥードなのだ。トランスクリプトと呼ばれる成績表の正式なコピー、それからSATやACTという共通一次試験の結果、あとは大学や学部によっては論文の提出を求められることもあるので論文。これを願書と一緒に送るのが一般的なアメリカの大学受験方法だが、書けと言われていないのに、自分で勝手に手紙を書いて願書に同封しちゃう受験者もたくさんいるのだ。
 その手紙の内容はほどんと言い訳を含めて自己PRものばかり。
 一年生のときの成績が良くないのは病気がちで学校にいけなかったからですとか、若い時は遊んでばかりいて、はっきり言って不良でしたけど、三年生になってクラブ活動を始めてから勤勉さが自然と身につき、それと同時に学業の大切さを認識しそれから頑張って勉強しました。高校最後の二年間の成績が初めの二年と比べると(アメリカはほとんどが中学が2年制、そして高校は4年制である)抜群にいいのはそれだけ自分が人間として成長したからだと思っております、といった類いのものばかりである。最近では手紙どころか、自主制作したPRビデオまで同封する強者もいるぐらいだ。
 本当に「ジ・アルティメット・ファイター」に出たければ、そしてオクタゴンに辿り着きたければ、しっかりと自分を売り込む術を考えて、今から応募しても遅くはないかもしれない。それがアメリカ・スタイル、そしてもしかしたらUFCスタイルかもしれないから。

◆リデル「初対決の時から学んだからね。だから今回はしっかりと戦略をたててきたんだ。とにかく動き続けた。足が止ったらテイクダウンされるからね。横へ横へと動いたんだ。右のストレートがしっかりとアゴに入ったからね。あれから回復できる選手はなかなかいないよ。けどランディは素晴らしいファイターだよ。とても尊敬しているんだ」

◆クートゥア「長い間このスポーツをやっていれば、こういった事(負けるということ)は必然的に起きることだから仕方がない」



第6試合 UFCウェルター級タイトルマッチ 5分5R
○マット・ヒューズ(アメリカ/チーム・エクストリーム/王者)
×フランク・トリッグ(アメリカ/RAWトレーニングアカデミー/挑戦者)
1R 4'05" チョークスリーパー

※ヒューズが防衛

 フランク・トリッグほどアメリカ向きの悪役を演じられるアスリートは、この国の広い広いプロ・スポーツ界を見渡してもなかなかいるものではない。
 とにかくこのトリッグ、減らず口を叩くのが抜群に上手い。
 「あ、あの試合は俺が今イチ本調子じゃなかったからさ」なんてまだまだ序の口だ。
 前回のマット・ヒューズ戦に関しても「3回もバックを取らせてやったんだからな。3回目でやっとチョークだぜ」なのだから、お見事、としか言えないじゃないか。昨年結婚してカトリック信者になり穏やかで優等生的発言しかしないことで有名なヒューズに「チョーク・スリーパーのデフェンスも知らないんだよ、あいつは。ヒドイ選手だ」とまで言わせたのだから、トリッグにはオクタゴン最強のビッグマウスという称号を贈呈したいぐらいだ。

 そんなトリッグが試合前からいきなり魅せてくれた。
 レフェリー・チェックの際、向かいあったヒューズに少しずつ近付き、頬にちょこんとキスをしたのだ。怒ったヒューズはトリッグの胸を突き飛ばす。もちろん観客は大喜びだ。そして両者コーナーに離れてからももう一発チュー。
 さすがトリッグ。悪役は何をするべきか理解してるじゃないか。
 ヒューズを追い込んだレナート・べヒーシモに殴り勝ち、そして試合前「ヒューズは俺との再戦にかなり危ぐの念を抱いているさ」と言い放ったトリッグだからこそ、こういったひとつひとつの行動がファンの心を挑発し魅了するのだ。
 ヒューズよ、この小生意気なトリッグの鼻っ柱をへし折ってくれ!とテレビの前で叫んだファンも多かったはず。
 そしてこのふたりの再戦は、そんな悪役フランク・トリッグにとっては、これ以上に最高の筋書きはない、といえる試合となった。

 試合開始後50秒過ぎ、組み合ったところに放ったトリッグの二発目の膝がヒューズの急所を直撃。すぐにレフェリーのマリオ・ヤマザキに、ヒューズは目で合図するが、角度的に急所打ちが確認できなかったヤマザキはそのまま何もせず試合続行。ひるんだかのように後方にさがったヒューズに対して攻撃の手を休めなかったトリッグの左ストレートがヒット。倒れたところにトリッグはパンチと肘を落としていく。
 急所打ちからパンチの嵐。もちろん急所打ちは故意ではないし、レフェリーが試合を止めない限り攻撃を続けるのは、これはもうリング上の掟なので、トリッグに非があるうんぬんの話ではない。ただ(競技性を尊重したいファンには申し訳ないが)悪役にとって、これ以上最高のシナリオ、最高の場面は無いじゃないか!
 そしてトリッグは後ろに回るとチョーク・スリーパー。過去15試合、一度もチョーク・スリーパーで相手を仕止めたことがないトリッグだが、そんなことはどうでもいい、関係ない。前回とやられたあの同じ技でやり返すことが大事なんだ、と悪役大好き人間にとっては堪えられない試合展開だ。

 しかし悪役の最後はどのドラマでも大抵同じである。
 これを何とか耐えたヒューズは、トリッグの右足を外し素早く体制を入れ替え立ち上がると、一気にこの悪役を持ち上げ担いだまま、オクタゴンの端から端まで助走をつけて豪快なスラムで叩き付けたのだ。
 下になったらトリッグは弱い。いや、上になったらヒューズは強い、と言うべきか。すぐにマウントを奪うとヒューズはパンチの嵐。トリッグが背を向けたところを、力任せのチョーク・スリーパーで勝利をもぎ取ってしまったのだ。
 劣勢になったらいい所なくあっという間に敗れてしまったトリッグ。でもそれもいいじゃないか。グダグダしないで負けるときはダイナミックかつエキサイティングに負ける。これぞアメリカン・スタイル。トリッグよ、お前こそが最高の悪役だ。
 でもこの悪役は、試合後「娘や妻と話し合い、これからどうするのかまた作戦を練り直さないと」と、何だか良き家庭のパパのようなやや拍子抜けコメントを発したのだ。

 どうしたトリッグ。そんなんじゃ面白くないぞ。オクタゴンの中で体を張って闘っているのはお前なんだ。奥さんの意見?そんなのガツンと一発言ってやれ、と外野は勝手なことを言いたくなるのだが、今日のヒューズを見た限り、そんなにサブミッションに長けているとはいえないトリッグが勝てそうな要素は、ハッキリ言って見当たら
ない。それをトリッグはファイターが持つ本能で感じたのだろうか。
 でも「もう少しだった。あの時(自分が上になった時)あと10秒あったら」なんて言わないで「あの時レフェリーが試合をストップすると思ったからパンチの力を緩めたんだ。止めなかったレフェリーが悪い」ぐらいの減らず口を叩いて欲しかった。
 トリッグよ、お前に家庭のパパなんて似合わない。お前がエプロン姿でバーベキューを焼いている姿なんて見たくないぞ。それこそ今度日本で試合をする某有名選手みたいに、近所のバーベキュー・パーティーに呼ばれたら、酔っぱらって素人相手に殴り合いの喧嘩でもして警察沙汰のニュースになってくれ、とまでは言わないが、とにかく闘う男のあの研ぎすまされた感覚、あれだけは家庭の温もりの中で失って欲しくない。そのためには、トリッグよ、お前はまだまだ悪役でいなくてはいけないのだ。生意気な態度、そして好き勝手な言動こそがお前のパワーの根源だ。
 そしてレスリングではどうしても力負けするから、今度はもっと打撃を磨き、殴って蹴ってヒューズを壊すぐらいの勢いでもう一度タイトルに挑戦して欲しいものだ。
   
 もちろん、その時も、あの絶妙ともいえる減らず口、あれも絶対に忘れないでほしい。


第7試合 ライトヘビー級 5分3R
○レナート・“ババル”・ソブラル(アメリカ/グレイシー・バッハ)
×トラビス・ビュー(アメリカ/チーム・エクストリーム)
2R 0'24" 腕ひしぎ十字固め


 3年前のプロ・デビュー当時は120キロ近くあったトラビス・ビュー。そんな彼は、2003年は15試合、そして2004年には7試合とかなりのハイペースで試合をしながらライトヘビーまで除々に体重を落としてきた選手である。しかも2003年の3月以来負け無しの18連勝中。まさに「ディーゼル」のニックネームの通りタフで馬車馬のような選手だが、2002年11月のUFC 40のオクゴン・デビュー戦ではウラジミール・マティシェンコのグランド・パンチに屈している。そんなビューにとって、今回の試合は、あの負け以来3年、24戦という長い長い道のりを経てやっと辿りついたひとつの終着駅でもある。
 一方のババルも、同じく2002年11月のUFC 40でリデルに不覚のKO負け喫して以来、マウリシオ・ショーグン、ジェレミー・ホーン、ペレなどを撃破し、7連勝のカムバック・ロードを歩み3年振りにオクタゴンに戻ってきたのだ。
 なかなか面白いというかフェアというか、皮肉とも言えるマッチメークである。

 明らかに軽くなり動きの早くなったビューは、するりと組み付くといきなりフロント・スープレックス気味にババルを投げる。しかし金網を上手く使い立ち上がったババルは、ビューの腰を抱え込み、こちらもフロント・スープレックスのような軌道でテイクダウン。その後もスタンディングでババルは確実にパンチとキックでポイント稼き、二度テイクダウンに成功し、グラウンドでも常に上をキープしていたが、ビューのガードの中で、次ぎの攻撃を仕掛けられないまま1ラウンドが終了。
 そして2ラウンド開始早々、ババルがローキックを放ったところをビューが足を掴みテイクダウンに成功するが、下から三角絞めの体勢にもっていき、そこから素早く腕十字を決めたババルが一本勝ちを収めた。
 試合後の記者会見には姿をみせなかったババルだが、UFC社長のダナ・ホワイトは「(ババルは)我々がこのUFCを買い取ったすぐ後に目をつけた選手だった。これからのUFCライトヘビー級という階級にきっとスパイスを加えてくれるだろう」と発言。ババルにかなりの期待を寄せているようだった。
 一方、生まれ故郷のミネソタを離れ、ユタ州のソルトレイク・シティーに今年オープンしたばかりのジェレミー・ホーン経営のジムでインストラクターを務めるビューは「またひとひとつ試合をしていくしかない」と試合後謙虚に語った。ヘビーでやっていくには背丈がないので、ライト・ヘビーに転向したのは正解だと思うが、それも始まったばかり。まだ27歳だからこれからも進化していくだろうと考えるべきか、もう38戦もして経験も充分にあるのに闘い方があまり変わらないと捉えるべきか、これからの数試合がちょっとだけ、気になる選手でもある。



第5試合 ミドル級 5分3R
○マット・リンドランド(アメリカ/チーム・クエスト)
×トラビス・ルター(アメリカ/ライオンズ・デン)
2R 3'32" フロントチョークスリーパー


 オリンピックの決勝でも世界選手権の決勝でも1ポイント差で敗れ、ムリーロ・ブスタマンチに挑んだUFCのタイトルマッチでは、1試合に2度のタップ負けを喫するという屈辱を味わったマット・リンドランドが、まだまだ衰えていないタイトルへの意欲をみせつけた。
 試合開始早々、懐に飛び込むとすぐに後ろに回り、大きく持ち上げ強烈なスラムでルターをキャンバスに叩き付けるリンドランド。ハーフ・ガードからパンチを当てていくが、ルターにリバースされ逆にマウントポジションを奪われる。しかしここでも慌てずに、ルターの重心がやや崩れた隙に力強いブリッジで返しスタンディングに戻るリンドランド。後はスタンディングでは首相撲からのパンチ、そしてグランドでのがぶりの強さで相手の動きを止めたリンドランドが、2ラウンド、フロントチョークでタップアウト勝ち。
 試合後オクタゴンの中でマイクを握り「この階級で私と戦いたい選手はいるのかどうか、よく判らないな。だから知り合い同士で試合ばっかりしてるんじゃないのか」とタナーを挑発。長いアスリート生活の中で、今まで獲得できなかった世界タイトルへの道を築くには、自分の存在感をアピールしなくてはいけない。そんなリンドランドの焦りが垣間見えたマイクパフォーマンスだった。

第4試合 ウェルター級 5分3R
○ジョルジュ・サンピエール(カナダ/TKOマネージメント)
×ジェイソン・ミラー(アメリカ/チーム・オーヤマ)
判定3-0 (30-27/30-27/30-27)


 23歳のサンピエール、そして24歳のミラー。この階級の王者マット・ヒューズが「ウェルター級の将来を担う二人の闘い」と評していたが、スタンディングでのリズムの良さと的確な打撃、そしてグラウンドでの押さえ込みのパワーの違いをみせつけサンピエールが圧勝した。
 しかし、負けたとはいえこのジェイソン・ミラー、ラリー・クラークの世界に出てきそうなすぐに切れるクレージーなスケボー野郎のような風貌といい、かなりの数のパンチを顔面に貰いながらも、そのキャラに似合ったハートの強さと長い手足を使ったグランドでの鮮やかなディフェンス・テクニックを披露。また観てみたい実にプロ向きの選手である。

第3試合 ミドル級 5分3R
○アイヴァン・サラベリー(アメリカ/AMCパンクレイション)
×ジョー・リッグス(アメリカ/アリゾナ・コンバット・スポーツ)
1R 2'42" 三角絞め


 「すべてはテクニックさ」と試合後語ったアイヴァン・サラベリー。そんな彼の熟練のテクニックがリッグスのパワフルな攻めをかわしたと言える一戦だった。   
 バックを取られても間髪いれずにアームロックで切り返し、グラウンドへ引き込みクローズ・ガードに持っていったサラベリーは、そこから立ち上がりパンチを振りおろそうとしたリッグスの顔面に下からの蹴りをクリーンヒット。そのまま上に倒れこんだリッグスを三角絞めに捉え勝負を決めた。

第2試合 ミドル級 5分3R
○ジョー・ドークセン(アメリカ/チーム・エクストリーム)
×パトリック・コート(カナダ/チーム・ユニオン)
3R 2'35" チョークスリーパー


 組みついた時の上半身の強さでテイクダウンを奪い、柔術のテクニックでグラウンドを制したドークセンが、カナダのミドル級ナンバーワンの座を奪取した。コートもスタンディングでシャープなパンチをヒットさせ、3ラウンドでは右のストレートからアッパーで倒れたドークセンを追いこんだが、最後は下からポジションをリバースされ、マウントを取られたところ背を向けチョーク・スリーパーの餌食となってしまった。

第1試合 ヘビー級 5分3R
○マイク・ヴァン・アースデール(アメリカ/アメリカン・キックボクシング・アカデミー)
×ジョン・マーシュ(アメリカ/チーム・ナチュラル・グラウンド)
判定3-0 (29-28/29-28/29-28)


 UFC 17以来7年振りのカムバックを果たした39歳のヴァン・アースデールと、PRIDE 12でリコ・ロドリゲスと対戦したこともある35歳のジョン・マーシュというベテラン同士の闘いでUFC 52は幕をあけた。
 終始リラックスしていたヴァン・アースデールのしなやかなテイクダウンと、力任せに投げるマ−シュのパワフルなテイクダウン。そしてグランドでのパンチと両者とも瓜二つの攻撃パターンで最後まで一進一退の攻防だったが、1ラウンド、グラウンドでパンチの連打であわやフィニッシュか、という所までマ−シュを追い込んだヴァン・アースデールがジャッジの目に優勢に写ったのは白明の理。  
 テレビ放送されなかったのが非常に惜しいベテラン二人の意地が真っ向からぶつかった接戦、好勝負だった。

Last Update : 05/07 21:03

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