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(レポ&写真) [D.O.G] 3.12 ディファ:井口、修斗王者に越境宣戦布告

GCMコミュニケーション "D.O.G -DEMOLITION of Octagon Gear- (第1回大会) "
2005年3月12日(土) 東京・ディファ有明

 Report & Photo:井田英登 Comment Gatherling:大塚あかね 【→カード紹介記事】 【→掲示板スレッド】
 


第5試合 -57kg契約 5分3R
×廣野剛康(和術慧舟會GODS/修斗世界バンタム級8位)
○井口 摂(バトラーツB-CLUB)
2R終了時 TKO (ドクターストップ:左目上のカット)


 「ケージ(金網)」は、命を賭けた戦いの舞台だ。
 一歩間違えば、本当に生命を危険にしかねないヤバさが転がっている舞台である。実際には安全性に配慮されたルールもあり、経験豊富なレフェリーの仲介がある以上、そうそう死神の顔を見るような事件も勃発しない仕掛けになっている訳だが、やはり出口を封じられた八角形の“牢獄”には、ただならぬ心理的圧迫を強いる要素がある。事実、この日オクタゴンに上がった選手たちには“命懸け”の覚悟がヒシヒシと感じられ、新しい舞台への野心も入り交じって、大会は緊張感に満ちた好試合が続いた。

 だが、そんな清冽な感情とは恐らく最も遠い境地にある男が、この日、オクタゴンを占拠した。

 その男の名は、井口摂。
 
 GRABAKA郷野もびっくりの小憎らしいマイクパフォーマンスで、ホームたる慧舟会をコケにしつつも、ファンには愛されるという“美味しいポジション”をキープ。現在DEMOLITION6連勝中という実力の前に、GCM側も彼をマッチメイクしないわけにはいかない。まさに目の上のタンコブと言った所。

 この試合は、去年4月にその井口に黒星を付けられた、慧舟のベテラン・廣野の意地を掛けたリベンジマッチだが、傍若無人を売りとする井口は全く構う様子も見せない。先に入場した廣野にメンチを切ると、我が物顔にオクタゴンを闊歩してみせた。「なんか前にやったときより一回りしぼんじゃってましたね。ガンじゃないですか?そのうち死にますよ、アイツ」とは、井口の試合後の会見でのコメント。

 ガン云々はともかく、確かにリベンジを強く意識しすぎたのか、この日の廣野はあまりに動きが堅かった。井口の自在の動きを封じるべく早めにフェンスに押し込もうとするが、あっさり体を返されて、面白いようにボディにヒザを浴びてしまう。体を沈めてタックルに逃れようとした動きも阻止され、左のフックを浴びてしまう。

 一旦離れて打撃戦を挑むも右のパンチしかないのを見切られて、あっさり距離を詰められる。さらばと組みにいくとフロントチョークに取られるピンチ。なんとかこれを抜いた廣野。マウントを奪って逆転を狙うが、道場の壁をフェンスに見立てて練習していたという井口は、フェンスを蹴ってブリッジで上下を入れ替える。さらに上になると、肩パンチを使ってフェンスに廣野の頭部を何度も打ち付けるサディスティックな攻撃を繰り出し、一方的なゲーム展開を印象づける。

 2Rになっても、打撃戦では明らかに井口の優勢が続く。ハイから始まってパンチの連打、組んでのヒザとつるべ打ちに攻勢が続き、廣野は下がる一方となる。途中、左目上をカットした廣野はドクターチェックを受ける。かろうじて続行とはなったものの、既にこの段階で井口の趨勢は明らか。結局最終ラウンド開始を待たずにドクターストップが掛り、井口のTKOが宣告された。

 試合後マイクを取った井口は、「いやー、どうもぉ〜。返り討ちにしちゃいました〜。プレッシャーなさすぎ。ま、こんなもんでしょ」と予想通りおなじみのヒールキャラで“ご挨拶”。しかし、この次に続いた台詞は誰にも予想できなかったものだろう。「あのさー、修斗のライセンスいつくれるんだよ? えー。バンタムのチャンピオンでカリフラワーみたいな奴いるだろ? 一発やらせてくれやー。イカせてやるぜー」と言いたい放題。

 ライセンス云々は、DEMOLITIONで活躍した中原太陽がアマチュア経験なしに修斗ライセンスを交付されたことを受けて、自分にも便乗交付せよという、理不尽要求だろう。そして“カリフラワーみたいな奴”とは、アフロヘアがセールスポイントの修斗バンタム級王者マモルを指しての事。

 図らずもこの日客席にはマモル自身と坂本一弘サステイン代表が観戦に訪れており、専門誌記者がコメントを求めた所「面白い事言う人だね」とのれんに腕押しなコメントで受け流したとという。
 
 そのエピソードをバックステージで聞いた井口は「なんだよー、器でかいなあ修斗は。怒ってくれよー」と苦笑いしたものの、5月4日の修斗後楽園にマモル出場と聞いて舌なめずり。「誰とやるんです? 決まって無い? じゃ俺とだな。前哨戦とか無しに、いきなりでいいすよ。押し掛けますよ。5月の何時?4日? じゃ、ゴールデンウィークだから行けるわ。招待券よこせって書いてくださいね。リングサイドに座ってやるからって」とまくしたてる。が、その直後記者から「欲しいのはライセンスじゃないんですか?」と矛盾点を突かれ、「あ…そうだ俺とやるんだ」とボケたコメントで一同の爆笑を誘った。

 ともあれ、井口はこれでDEMOLITION通算7連勝。

 今後もこの舞台をかき回す最大の外敵として、“金網のヒール”井口が幅を利かせそうな勢いになって来た。さらに、その侵略の火の手が修斗にまで飛び火していけば、井口はインディ格闘界全体に波風を立てるウィルス的存在になるかもしれない。

 だが、この直後に登場した漆谷は、試合後マイクを取り、井口討伐を宣言。あくまでその野心をオクタゴン内部で阻止してみせると宣言した。そもそも漆谷は修斗バンタム級世界2位。マモルを付けねらう立場の彼にすれば、井口の挑戦宣言は横槍もいい所。しかも井口には昨年9月のDEMOLITION2周年大会のメインで敗れる失態をさらしている。「ちょっと待った」を言いたくなる気持ちは当然のことだ。

 かくて、井口の歪みに歪んだマモルへのラブコールは、漆谷を巻き込んで、WWEばりの奇妙な三角関係の様相を呈しつつある。次回、6月11日の次回DOGで「井口劇場」の幕が上がる。いや、それとも“器の大きな”修斗が5月4日後楽園大会に招待券、もしくはライセンスを贈るのが先か?

 さあ、おもしろくなってきたぞ。



第8試合 -84kg契約 5分3R
○岡見勇信(和術慧舟會東京本部/パンクラス・ミドル級3位)
×ブライアン・フォスター(アメリカ/チーム・クエスト)
3R 2'53" 肩固め


 荒削りだが外人らしいパワフルなフォスターの打撃に苦しんだ岡見。体格的にも岡見より一回り分厚く、ハイキックをヒットさせても倒れないタフさを持つフォスターだけに、プレッシャーに押されて後退する局面が目立つ。グラウンドに持ち込んでも下からの蹴り上げ、マウントを奪取してもパワー負けで確実な押さえ込みに至る前に立たれてしまう。2Rになると、フォスターのパンチのヒット率が向上、一発一発の重さに客席から悲鳴があがる。岡見も手数的には同じだけ打ち返しているはずなのだが、確実にダメージを奪っているのはフォスター。特に右のインローをモモに集められ、ふらつく場面がたびたび訪れる。

 観戦に訪れた練習仲間の曙がオクタゴンサイドに登場、必死に声援を送る(厳密には規定違反)中、迎えた最終ラウンド。気力も体力も限界に近い風情の岡見だが、胴タックルからのテイクダウンに成功。サイドからマウントへ。千載一遇のチャンス到来に、客席から祈りのような声援が飛ぶ。左右にもがくフォスターはさながらロデオの荒馬状態。必死に好機をキープしようとする岡見。グラウンドのねっちりした攻防の果てに、岡見はフォスターの首にしがみつくようにして肩固めを極め。ようやくタップを奪った。

「めちゃくちゃ強かったです。2R最後心が折れちゃってたんですけど、3Rのラウンドはいったところでセコンドのみんなと応援してくれた人が負けるなっていってくれて、死にものぐるいで勝ちに行きました。こんな試合してたら、世界とか狙う立場じゃないんで、もっと頑張って、また出直ししたいと思います。DOGと共に自分も飛躍して行って、また世界を狙いたいと思っています」とマイクアピール。ホームグラウンドの新大会のメインイベンターとしての意地を見せた。

 しかし、大味に終始した試合内容は、自分でも語る通り、対世界と言う意味では決して及第点とは言えまい。この日、前半戦は活気に溢れる熱戦ぞろいだっただけに、DOGのエース候補として、今後どれだけファンに説得力ある試合を披露できるかが、今後課題となるだろう。

第7試合 -77kg契約 5分3R
○門馬秀貴(和術慧舟會A-3/パンクラス・ウェルター級4位)
×チャット・ラベンダー(アメリカ/イーグル・ボクシング)
1R 2'40" 三角絞め


 パーカーのフードを斜めにズらして、片目を隠すという奇妙な入場を見せた門馬。デモリションのトレードマークである海賊のドクロマークを意味する謎掛けか? セコンドにはK-1陣営から秋山成勲が付く。

 試合開始早々、胴タックルからフェンスに押し込んで、頭部やボディに細かいパンチを打ち込んでくるラベンダー。押し込まれた門馬は、閂に捉えた腕を差し替えして、横無げ気味に振ってグラウンドへ。フェンス際で下になった門馬だが、素早く下からの三角締めを仕掛ける。強引に引き抜こうとするラベンダーだが、門馬は手足のフックを離さない。結局、バスターぎみに叩き付けて逃れようとするラベンダーだが、これはご存知の通り逆効果。さらに深く入った締めでタップするしかなくなってしまった。

第6試合 -58kg契約 5分3R
○漆谷康宏(和術慧舟會RJW/修斗世界バンタム級2位)
×ロレンソ・コカ(アメリカ/ジャクソンズ・ファイトチーム)
1R 0'27" KO (左ストレート)


 試合開始早々、飛び蹴りを放った漆谷。これは不発に終わったが、ローの打ち合いから、漆谷がパンチに繋いだ直後、左ストレートがモロにコカのアゴを打ち抜く。棒のようになって後ろにダウン。すかさず襲いかかった漆谷だが、即時にレフェリーがストップ。文句無しの秒殺K.O.劇だった。
 「自分でもこんな勝ち方は初めてなんでびっくりしてるんですけど…」と苦笑まじりにマイクアピールを始めた漆谷だが、その直後、休憩前にホームのリングで好き放題にマイクアピールを展開した井口に牙をむく。「おいっ!井口、調子に乗ってるんじゃないぞ。次はぶっつぶしますんで、期待してください!」

 7連勝の勢いを駆って修斗に飛び火するかと見えた井口の進撃。世界バンタム2位のシューター漆谷は、果たして水際でその動きを止められるだろうか? そもそも井口の快進撃に勢いを与えてしまったのは、昨年9月の漆谷自身の敗戦が原因とも言えるだけに、このリベンジに失敗したらもう誰も井口を止める事は出来ないだろう。DOG初戦にして勃発したこの抗争劇に、客席からは熱い拍手が降り注いだ。

第4試合 -70kg契約 5分3R
○石田光洋(TEAM TOPS/修斗世界ウェルター級4位)
×佐東伸哉(パンクラスP'sLAB東京)
1R 3'03" TKO (タオル投入)


 いきなり石田のローが佐藤の股間に入り、進行に暗雲が漂ったが、大事は無く試合続行となった。再開直後の佐藤のソバットを躱すと、胴タックルでフェンスに押し込み、バックを取る石田。逃げる佐藤をバックドロップでテイクダウンすると、客席が湧く。カメの姿勢で逃れる佐藤だが、パンチを浴びせ、頭部へのヒザを集中。セコンドからのタオルが投入され、試合を終了させた。

第3試合 -70kg契約 5分3R
×飯田崇人(和術慧舟會A-3)
○山崎 剛(チームGRABAKA)
2R 3'52" チョークスリーパー


 気迫充実の表情を見せて入場、積極的にローからの打撃を見せていた飯田だが、山崎の執拗なタックルで打ち合いを展開できず。逆に山崎はスタンドでバックを奪ってのおぶさりチョーク、ラウンド終了時には下からの三角、ヒザ十字とねっちりした組みと極めで、確実にペースを自分の物にして行く。

 ラウンドが明けてクリーンヒットのパンチからスタートした飯田だが、またもや山崎のタックルにテイクダウンされ、フェンス際でマウント状態に。バックに回ってチョークを狙う山崎は、粘る飯田からタップを奪取。

第2試合 -64kg契約 5分3R
△戸井田カツヤ(和術慧舟會トイカツ道場/修斗世界ライト級10位)
△山本 篤(KILLER BEE)
判定0-0 (松本=ドロー/和田=ドロー/磯野=ドロー)


 この日、最も伯仲したのがこの試合だろう。

 強力なフックとスピードのあるタックル、そして何よりも無尽蔵のスタミナを武器にする山本が、序盤からエンジン全開で積極的に攻め込む。一方、曲者の戸井田は、ノーガードやカンフー風の奇妙な構えでテンポを狂わせながら、山本の前のめりな攻めを受け流す。組んでも、山本がヒザをぶち込めば、戸井田は巴投げで突き放すと言った具合。再三テイクダウンを奪われても戸井田マジックは続く。バックを奪われれば、クラッチされたままバク転で抜け出し、また下になればオープンガードですばやくオモプラッタか、三角を匂わせる仕掛けに移る。対する山本も、そんな変幻自在の戸井田を釘付けにすべく、頭を金網の底部に運んでマット・ヒューズ風の首折り体勢を作り、パウンドで攻め込む。

 ラウンドが進んでも、両者の目眩のするような攻防は続く。

 早いタックルで山本がテイクダウンを狙うと、トイカツは一旦は倒れながら立ち様に中腰の山本の顔面を蹴り上げようとする。殺意に溢れた一発だ。躱した山本は再度タックルでテイクダウン。首を抱えて尻餅をついたトイカツは、そこからスライディング風に腰を沈め、魔法のように三角を仕掛ける。両者ともスピードのある動きで譲らず、オクタゴンに「剛と柔の回転体」とも言うべき光景が現出する。

 結局、一進一退の攻防にジャッジも優劣をつけ難かったらしく、三者合意のようなドロー判定が出そろう。金網という新しい舞台が、両者のモチベーションに与えた影響も大きかったのだろう。お互いの持ち味が存分に発揮されたドロー戦となった。名勝負数え歌ではないが、再度この舞台での再戦を見たい。

第1試合 -63kg契約 5分3R
○大沢ケンジ(和術慧舟會A-3)
×築城 実(パンクラスP'sLAB東京)
3R 0'22" KO (膝蹴り)


 本誌インタビューでも「金網の王」になりたいという名台詞を吐き、最もこの舞台への関心を剥き出しにしていた大沢。大会直前に対戦予定であった志田の怪我欠場で「正直テンションが落ちた」というが、大会最初にオクタゴンに足を踏み入れる人間の重責を意識してか、試合ぶりは期待通りアグレッシブそのもの。

 前四つ状態からの足払いでテイクダウンすると、オクタゴンの定石であるフェンス底部で首折り状態を作り、パウンドを浴びせる大沢。しかし、築城もオープンガードや、左右への逃げで決定的局面を作らせまいとする。その粘りに焦れたか、大沢は頭部への肘を放って注意を受けてしまう。

 攻勢を期した2R、築城はミドルで攻め込む。大沢が蹴り足をキャッチすると、フロントチョークに取ってしがみつく。首を抜いて落とした所で、再び大沢が首折りパウンド地獄へ持ち込む。築城は鼻血をだすなど、相当ダメージの蓄積が見られたが、下から三角を狙うなど勝負を捨てない。

 勝負は最終ラウンドに持ち込まれる。

 組み付いた状態で首相撲となったところ、大沢が左右のヒザを浴びせると、これまでの粘りが嘘のように、がっくり崩れ落ちる築城。フォローのパンチを浴びせた大沢を、レフェリーが止めて試合終了となった。

 マイクを握った大沢は「今日は手こずってしまいましたが、修斗の世界ランカーである大石選手と勝村選手。どこの場所でもいいんで、僕と勝負しませんか?」といきなりK'zの二人を名指しで指名。

 バックヤードでの記者会見でも「修斗の世界ランカーの人とは、修斗でまずやりたいと思います。でもどこでも組まれたら、盛り上がる人とやりたい。せっかくDOGって所があって、まあ自分の団体ではあるんですけど、どこの選手も上がれる舞台なんで。今回(パンクラスの)志田選手とやれるのも、僕はすごく楽しみにしてたんで。出来ないなら、次誰がいいかなと思って大石選手を挙げたんですけど。いきなり前田(吉朗)選手とやったりすると、世間的には全然格が違うだろうって思われると思うんで、盛り上がるようにちょっとずつ僕も上がって行きたいなと思います」と同階級での、現段階では実行不可能とも見える、団体を越えた最強決定戦をぶちあげた。

 やはりこの特異な舞台を活性化させて行くのは、この男なのかもしれない。

Last Update : 03/13 13:54

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