(レポ&写真) [Dynamite!!] 12.31 大阪:KID、魔裟斗に痛恨の一撃
FEG "FieLDS K-1 PREMIUM 2004 Dynamite!!" 2004年12月31日(金) 大阪・大阪ドーム
レポート:井田英登 写真:矢野成治 コメント収録:仲村直 【→カード紹介記事】 【→掲示板スレッド】
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第6試合 K-1ルール 3分3R(延長1R) ○魔裟斗(日本/シルバーウルフ) ×山本“KID”徳郁(日本/PUREBRED東京) 判定3-0(御座岡28-26.5,黒住28-27.5,大成28-27)
魔裟斗の左ローがKIDの股間に食い込んだ瞬間、五万三千人の観衆を飲み込んだ大阪ドームは歓声を失った。マットに這い苦悶するKID。ここまで繰り広げられた好勝負が、たった一発のミスショットで台無しになってしまうのか。不穏で不吉な空気が、ドーム全体を埋め尽くした。
今回「Dynamite!!」のチケット初動は6000枚近かったという。 その段階で確定していたカードは「魔裟斗vsKID」のみ。大阪ドームのほぼ十分の一を埋める観客が、この一試合だけを目当てにチケットを購入したことになる。不景気のご時世に、この現象が如何に異常な事かは言うまでもないだろう。
魔裟斗のカリスマもさることながら、K-1参戦以降たった4試合でMAXの頂点に立つ男に挑戦状を叩き付けた、KIDの“時の勢い”をファンが敏感に嗅ぎ取った結果では無いだろうか。順当にいけば、キック二戦目のルーキーがK-1世界王者と対等に闘う事などあり得ない。だが、自らを「格闘技の神の子」と呼び、王者の威厳を強調する魔裟斗相手に一歩も引かない舌戦を繰り広げた、KIDの“人間力”には、確かに奇跡の可能性を信じたくなるような“色気”が感じられた。だからこそ、K-1首脳陣も、異例の早さでこの一戦の実現に動いたのであろう。
そして大晦日のこの日、リングの上では確かに、その“奇跡”が起ころうとしていた。
序盤から、素晴らしいスピードのパンチを繰り出していたKIDの一撃が、戦前「そんなもん一発も当たらないっすよ」と豪語していた、魔裟斗の顔面を射抜いたのだった。KIDの得意の右フックを躱した直後、ブラインドから飛び込んで来た、左のアッパー気味のショートフックだった。たまらず、マットに腰を落とす魔裟斗。そこにさらに追い討ちをかけるようにもう一発パンチをお見舞いしようとするKID。空を切ったからよかったようなものの、ダウンした相手への追撃はK-1では明らかな反則。それでもとどめを刺しに行かずにはいれなかったKIDの動物的な殺戮本能。この男の強さは、そうした刹那のためらいの無さに裏打ちされたものだ。
カウントは5。すぐ立ち上がり、「マズったなー」と言わんばかりの苦笑いを見せる魔裟斗。だが、なぜかその笑みがこわばって見える。直後のフットワークを見る限り動きは落ちていない、ダメージもさほど無いはずだ。だが、心理的なダメージはどうだろう。
「俺はお前になんか少しもビビってないぜ」そう言わんがばかりに、遮二無二振ったハイ。そして微妙に踏み込みの深い右ローが続く。
そのローが、KIDの股間に入ったのだ。
もちろん故意ではないだろう。だが、本来股の内側を射抜くはずの一発が、股間に入った背景には、魔裟斗の異様に力んだ前のめりな攻めがあったのではないか?
ずっとKIDを格下視し「楽な試合だから受けた」「俺には何のメリットもない試合」と言い続ける魔裟斗を、僕らは今日まで二ヶ月間いやというほど見て来た。
だが、そこに本当に恐れはなかっただろうか。 追われる者は、同時に自分が失うものを計算し続ける者でもある。技量からいっても、キャリアから言っても、今のところ魔裟斗にKIDを恐れる要素はほとんどない。だが、彼にはその「楽勝であるべき相手」との戦いを、世論が望む。プロとして逃げる訳にはいかない状況だが、万が一負けた場合の、リスクが大きくのしかかっていたのだと思う。魔裟斗は、この二ヶ月間ずっとそのプレッシャーを振り切るため、言葉を武器に孤独な闘いを続けていたのではないだろうか?
成功を掴み、頂点に立ってしまった時、彼の敵はその成功自体に変わる。 魔裟斗はKIDの姿を借りた、自分自身の成功の大きさと闘っていたのだ。
ダウンによって顕在化した、その「恐怖」を振り切るために、あえて余分に踏み込んでしまった半歩。それがローブローを呼んだのだと、僕は思った。それは決して「故意」ではないが、「偶然」でもない。
スローモーションで見てみると、魔裟斗は問題の一撃を放つ瞬間の前に、瞬間猫だまし風に左の拳を上に薙(な)いでフェイントに使っている。細かく出入りするKIDの前進を牽制するための動きだろう。だが、その余分なワンモーションが、その次に来るローの精度を下げたのではないか。その無駄なモーションの分、標的は内股から股間にずれたのだ。
ダメージ回復のための五分のインターバルが告げられる。 だが、「手足が震えた」とKIDが後述するほどダメージは大きかった。 あのまま試合を止めてしまう気はなかったかと聞くと、KIDはじっと僕の目を見て言った。「そんなの、絶対止めない。でもこれがもしスポーツじゃなきゃ、多分殺られてたから」と。
数分後に彼が何事もなかったように回復し、五分の休憩を自らの意志で四分に縮めて、魔裟斗との戦いに戻って行ったのは、その野獣のような「常在戦場」の感覚があったからに他ならない。
その後試合は、「あの一発で目が覚めた」と語る魔裟斗が、執拗な膝攻撃と前蹴りでポイントを重ね、判定勝利をもぎ取った。それ自体、内容としては十分素晴らしいものだったが、正直なところ、この試合の生んだ感動においては付け足しでしかない。
KIDが立って試合を続行してくれた事、この試合はそれに尽きる。彼があの時、試合を放棄していたら、会場を埋め尽くしたファンはもちろん、自らのストイックな精神に押しつぶされかけていた魔裟斗自身も、誰もが不幸な想いを抱いたまま、新年を迎える事になっただろう。KIDは壊滅的な金的のアクシデントを克服してくれた事によって、第二の奇跡をこのリングに呼んだと思う。興行全体への波及度を考えれば、「救世主光臨」と言っても大げさではないはずだ。
試合後、魔裟斗に聞いた。今でもこの試合を消化試合だったと思うか、と。
「消化試合では…なかったですね。それは強がって言ってるだけで、僕の中で消化試合は一個もないです。全て全力でやってますから」
そう言ってしまってから、“反逆の貴公子”は少し自分の言葉の素直さに照れたように笑った。ニヶ月間彼が繰り広げて来た孤独な戦いが、ようやく終わった瞬間だった。
KIDの勇気が生んだ三つ目の奇跡を、魔裟斗のこの笑顔に見たように思った。
(井田英登)
メインイベント 総合ルール(判定無し) 10分2R ×曙(日本/チーム・ヨコヅナ) ○ホイス・グレイシー(ブラジル/チーム・ホイス・グレイシー柔術) 1R 2'13" リストロック
スライディングキックで自ら寝そべり、曙をグラウンド状態に引き込んだホイス。曙の重量をモノともせずエビでリング中央に体を運び、曙の脇をすり抜けてバックに回り込もうとするが、これは失敗してスタンドへ。ふたたびスライディングキックでグラウンドに引き込み、オモプラッタ状態から上下を入れ替える代わり、裏十字風に腕を極めたホイスが、タップを奪取。
異種格闘技戦に慣れたグレイシーの秘策に、なす術も無く敗れた曙。 またもや「このままでは辞めるに辞められない。勝つまでやりたい」とあくまで格闘技挑戦を表明。格闘技界のハルウララ的存在となっても、あくまでリングでの存在証明を目指すようだ。
谷川Pも大会後「僕も思い入れがあるので、あくまでK-1と総合両方で勝つまで応援したい」とバックアップを約束。来年もこの二人三脚体制で、正当派のファンからのブーイングに徹底抗戦を挑むようだ。
第8試合 K-1&総合MIXルール(1,3R 3分K-1ルール、2,4R 5分MMAルール) △ボブ・サップ(アメリカ/チーム・ビースト) △ジェロム・レ・バンナ(フランス/エクストリーム・チーム・レ・バンナ) 4R終了(規定によりドロー)
1R目のK-1ルールラウンドで、散々バンナのパンチを浴びたサップは、コーナーに追い込まれ、頭を抱えるしかない一方的防戦体制に追い込まれる。早々にフック連打を浴びて最初のダウンを喫する。それでもなんとか2Rまでこぎ着けたサップは、弾丸タックルでバンナをテイクダウン。マウントを奪取して、今度は一方的にパウンドの雨を降らせるのかと思いきや、すっかりガス欠でパンチも滞る失態を見せてしまう。
3R再びK-1ルールに戻る直前のインターバルで、すっかり涙目になったサップは、セコンドに試合放棄を訴えるが、聞き入れられずセコンド総出でグローブを付け替えられてしまう。
万事窮すかと思われたK-1ラウンド。ボディパンチにローを重ね、順調に攻めていたはずのバンナだが、このラウンドも倒しきる事はできず。
最終ラウンドは両者バテバテとなったものの、バンナがサップのタックルをこらえ、4点ポイントからの膝を頭部にぶち込み、最後にはマウントまで奪うなど意外な適応を垣間見せる。ただそこから攻めきる事は無かった。ラスト30秒でサイドポジションからのアームロックを狙ったサップだが、流血もひどく、結局時間切れ。
両者とも畑違いの領域でなんとか闘う姿勢を見せた試合だけに、凡戦と簡単に切って捨てる事もしたくないが、結果的には大味で技術的に乏しい試合となってしまった。
第7試合 総合ルール 5分3R ○藤田和之(日本/猪木事務所) ×カラム・イブラヒム(エジプト/フリー) 1R 1'07" K.O.(右フック)
総合初挑戦とは思えない思い切ったパンチ連打で、序盤からカラムが前に前に出てくる。パンチで迎撃した藤田だが、カラムのパンチの勢いに一瞬吹き飛ばされそうになるシーンも。パンチの早さ、プレッシャーの掛け方、いずれも身体能力の高さを伺わせたカラムだが、不用意に放ったローを、藤田の右フックで迎撃されダウン。大の字になったところにフォローの鉄槌を浴びて、手足を痙攣させるほどのダメージを負ったため、レフェリーが試合をストップ。
現役メダリストの総合デビューは、あまりに苦いものとなった。
第5試合 K-1ルール 3分3R(延長1R) ○武蔵(日本/正道会館) ×ショーン・オヘア(アメリカ/UPWシャークタンクジム) 2R 0'44" K.O.
ハワイのランブル・オン・ザ・ロックではパンチで大山峻護を圧倒したオヘア。その活きの良さを買われてK-1デビューとなった形だが、1R大振りなパンチを打たせるだけ打たせて、見切った武蔵。1R終わりの2'49"にはハイをヒットさせて、最初のダウンを奪取。続く2Rには左フックからロー、そして前蹴りで再びダウン奪取。そして仕上げは再び得意の左ハイをぶち込んでフィニッシュ。
第4試合 K-1ルール 3分3R(延長1R) ○レイ・セフォー(ニュージーランド/レイ・セフォー・ファイトアカデミー) ×ゲーリー・グッドリッジ(トリニダード・トバコ/フリー) 1R 0'33" T.K.O.
飛び出しの勢いだけは良かったグッドリッジだが、セフォーの左右パンチ連打を浴びていきなりのダウン。立ち上がった直後も畳み掛けるセフォーに、アッパーでガードを破られ、左フックを被せられると、あっという間の2D目を喫して試合終了。
試合後、セフォーは「東京ドームと全く同じジャッジ三人だったんで嫌な感じだったけど、今度はちゃんと倒したんで大丈夫」とチクリとGPでのミスジャッジ疑惑に皮肉を飛ばしてみせた。
第3試合 総合ルール 5分3R ×ドン・フライ(アメリカ/フリー) ○中尾芳広(日本/フリー) 判定3-0
昨年のROMANEXの流血ノーコンテストという因縁を引っ張っての再戦だが、試合内容自体は中尾が高速タックルでテイクダウンを重ね、ひたすらパウンドを落とす展開に終始する。試合中前回とは逆の左眉上を切ってまたもや流血に見舞われたフライだが、今回はストップには至らず。
第2試合 総合ルール(寝技30秒以内) 71kg契約 3分3R ○宇野 薫(日本/和術慧舟會東京本部) ×チャンデット・ソー・パァンタレー(タイ/谷山ジム) 2R 0'19" チョークスリーパー
寝技30秒ルールという「異種格闘技戦」の括りに苦戦が予想された宇野。事実、チャンデットは、テイクダウンされるとフロントチョーク気味にしがみついてはブレイクを勝ち取る。単発のローを内股にもらう以外、宇野に危険な局面はないが、攻めあぐねた印象で1Rが終わる。
しかし、2Rになると「昨日思いついて、急遽練習した」という宇野の秘策が炸裂する。スタンドでの抱き付きから、チャンデットの背中に回り込んだ宇野は、そのままスリーパーで締め上げる。これならば30秒ルールに縛られる事なく攻めが完結する。案の定、チャンデットはこれを外す事が出来ずタップアウト。
宇野は試合後「リングサイドに船木(誠勝)さんがいらっしゃって、うれしくて挨拶もしたんですけども。これからも可能ならば、MAXに出てる選手と、今回流れてしまった武田選手なんかと、かつて船木さん達がやったような異種格闘技戦の“格闘ロード”をやっていきたいです。今回それをすごく意識したんで。それで“新格闘王”を名乗れればいいな、とか勝手に自分で思ってるんですけど(笑)」とUマニアらしい構想を語ってみせた。一方で「UFCと修斗でも引き続きベルトを狙って行きたい。特にUFCにはこだわり、じゃないですけど、またオクタゴンにあがるために、今いろんなことをやって行きたいと思ってます」と、通常の総合でのキャリア継続も宣言している。
第1試合 総合ルール(各Rエスケープ1回可能) 5分3R ○秋山成勲(日本/フリー) ×フランソワ・ボタ(南アフリカ/スティーブスジム) 1R 1'54" 腕ひしぎ逆十字固め
この日がプロデビュー戦となる秋山だが、私生活で交遊のあるというプロ野球巨人軍の清原に背中を押されて、グレイシートレイン風の入場シーンを演出。掴みからきっちりフォトジェニックなシーンを作り出すあたりは、噂にたがわずプロ向きの気質を感じさせる。吉田秀彦同様、道着を着用したままでリングイン。あくまで「柔道家」としてのアイデンティティを背負って闘う覚悟だ。
開始早々、片足タックルでテイクダウンを狙う秋山。試合前には三回しか総合の練習をしていないというボタだが、なんとかフロントネックロックで受け止める。首を抜かれてもハーフガードを作り、秋山の片手を脇でロックするなど、そこそこ様になった動きを見せる。
自由な右手でパンチを落としてくる秋山を、一回は蹴り離したボタだが、素早くサイドポジションに回り込んだ秋山は、そのままマウントを奪取。中腰で呼吸を計ってから、素早く腕十字に移行するあたり、さすがは世界クラスの柔道家と思わせる動きを披露。プロデビューを見事に一本勝ちで飾った。
第0試合 総合ルール 3分3R ×シリル・アビディ(フランス/ブリゾンジム) ○ボビー・オロゴン(ナイジェリア/さんまのからくりTV・ファニエスト外語学院) 判定3-0
“史上最強の素人”という煽り文句で、散々格闘技初心者であることを強調されたボビー・オロゴン。しかし、バラエティ番組内の企画であるとは言え、ホイス・グレイシーをはじめ世界有数の格闘家とのスパーや練習に費やした時間は既に10ヶ月。まして基礎体力においては抜群のものを持つだけに、彼を「単なるコメディアン」と斬って捨ててしまうのは、逆にTVのイメージ付けに操られている事になる。
対するアビディは歴戦のK-1ファイターであるとはいえ、総合ルールは二戦目。キャリアで言えばほぼ“初心者”といっていい。事実、序盤から試合のペースを握っていたのは、“素人”のボビーの方だった。
アビディのパンチを浴びる前に、素早く組み付き押し倒して、再三マウントポジションを奪う。ただ“素人”の悲しさ、そこから試合をフィニッシュさせる技術が無い。必死に抱きついてくる“初心者”を振り切ることもできず、時折パウンドを落としながらも決定的なシーンは作れないまま、試合は最終ラウンドまでもつれこんだ。
ゴングとともにこれまで通り組み付きにいったボビーだが、スカされてしまい自ら前に倒れ込んでしまう。そこにパンチを浴びせるアビディ。ボビーにダウンが宣告されてカウントが入る。この試合初めて均衡が破れたといっていいシーンだ。
ただこのシーンは限りなくスリップダウンに近いため、試合は当然続行。アビディの放った渾身のパンチは空を切り、再び組み合った両者はグラウンドへ。しかし、すぐボビーが立ったためにアリ猪木状態となる。ここで、アビディは下から踵を跳ね上げ、ボビーの顔面へキックを放つ。一方、負けじとボビーも寝そべったアビディの頭部にサッカーボールキックを返すが、今回のルールではいずれもこれは反則行為。
マウントを取ったボビーがパウンドを落とすと、アビディはブリッジで抜け出し、ボビーの腹を蹴り上げる。さらに押さえ込みに来たボビーを下からフェースロックに捉えるなど、若干正当な総合格闘の技術とは文脈が違うものの、路上で培ったとおぼしき対応力を見せる。
切り口としては“素人”と“初心者”の青葉マーク対決だったが、意外にも“見れる”試合となった。判定は、上のポジションで試合をリードした“素人”ボビーに軍配を上げる。初試合、初勝利の“素人”は、ようやく緊張から解き放たれたこともあって、マイクを渡されても感極まって泣くばかりだった。
オープニングファイト 総合ルール ○ザ・プレデター(アメリカ/UPW) ×クリストフ・ミドゥ(フランス/エクストリーム・チーム・レ・バンナ) 1R 1'11" ネックロック
Last Update : 01/06 04:24
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