BoutReview
記事検索 by Google

[File 0008] 前田吉朗 & 稲垣克臣「稲垣組の鉄砲玉、PRIDE初見参」

INTERVIEW & PHOTO 井田英登(2005/4/28 P's LAB大阪にて)



大阪の街は不思議だ。

一国の首都を気取るには気さくで庶民的。一方で、その首都である東京には強烈な対抗意識を燃やしていて、絶対にどんな競争でも負けたくない。

大阪人が阪神タイガースの応援に入れ込む熱意の大半は、東京=巨人という“権威”に対する反感から出来ているのではあるまいか。そのルサンチマンが強いばかりに、“東京なんかと比べてくれるな”とばかりに、“日本一”を飛び越して、いきなり“世界一”を目指すフライング野郎が出たりもする。

前田吉朗も、きっとそんな一人だ。

大阪を根城とする P's LAB大阪に一ジム生として加入。最軽量級でのプロデビュー。華やかな話題性とは最も遠い場所でのスタートではあったが、順調に新人王決定戦であるNeo Blood Tournamentを制覇。二年半の間に着実に白星を重ね、気がつくと、積み重ねられたその戦績は13戦無敗というとんでもない物となっていた。

小さな体格にはとても見合わない爆発的な試合ぶりと、傍若無人な語り口で、既にパンクラス大阪大会のメインイベンターとして定着。今や、吉朗なしの大阪大会はあり得ない、といった状況にある。

そして今、吉朗は、世界のトップファイターが集うPRIDEという大舞台からの召喚状を受け取る事になった。まさに“飛び級出世”の典型。「大阪から世界へ」を地で行く快進撃である。

だが、一方で“格闘技の中央”は、今のところ吉朗のそんな突出ぶりを冷ややかな目で見つめている。“パンクラス内部のお山の大将”ではないのか? という、やっかみ半分の視線だ。同じ軽量級でも、修斗のトップランカーと対戦すれば、前田は通用しないと、鬼の首を取ったように語るファンも少なくない。

そんな“アウェイ”の風を、ひしひしと感じつつ吉朗は、この週末PRIDEのリングに立つ。マッチメイクも決して、歓迎されたヒーローを迎える物ではない。第一試合で10キロ近く体重の違う“クレイジーホース”ベネットとのカードは、前述のような格闘技“中央”の投げかける、物見高い視線が感じられてならない。

だがこの“稲垣組の鉄砲玉”なら、澄ましかえった“中央シーン”にでっかい風穴を開けてくれるのではないか? 大阪人の僕などは、そんな過度な期待を彼に抱いている。

果たして中央の権威に屈して“ビッグマウス男”で終わってしまうのか? あるいは逆境をはね飛ばして、大阪人の熱狂を煽るヒーローとなるのか? 

PRIDE史上、恐らく最も熱い第一試合の幕が、間もなく上がる。



「稲垣組オフィシャルTシャツ」販売開始
※ネット販売は「ばうれびショップ」だけ!特典として選手直筆サインも入れられます。
「稲垣組オフィシャル☆Tシャツ」4/10パンクラス大阪大会でもセコンド陣が着用。選手別に5パターン。場内の注目を集めたポップなデザインが光る。→GO
【緊急入荷!】 PRIDE武士道出場記念の最新作「44:Rock'n Roll(ヨシロック)」(当日着用予定)も登場!→GO

 



 
■稲垣組の看板を賭けて:「背負ってるもんが大きいほど…楽しそうじゃないですか」

-- 今回は武士道参戦ということで、まず感想から聞きたいんですけど
前田「感想は…“やっと来た”って感じですね」

-- ということは、PRIDE参戦というのは前から頭にあったと?
前田「というか、久しぶりの大きいチャンスが、って感じですかね。最近、パンクラスの中でもだんだん相手が限られてきたじゃないですか。試合したくても、相手が居ないって感じになってきたんで」

-- 確かに一巡した感じではありますね。
前田「あと何人かはいますけどね…志田、山本とか」

--このところ前田選手の連勝っていうのは海外でもニュースになってるんで、特にブラジルの選手なんかで“前田とやりたい”って名前を挙げる人は多いみたいですよ。
前田「そんなら来てくれたらいいんですけどね(笑)」

-- さしずめPRIDE出撃は、来ないなら、こっちから行くぞぐらいの感じですね(笑
前田「まあ、話があったから行くんですけど(笑)前から出たいなっていうのはあったんでね。でっかい舞台って、どうしてもPRIDEとかK-1になるじゃないですか。でも自分の出れる舞台って限られますからね。そのころは実績もないし。そうこうしてる間に、武士道が出来て。武士道なら自分が出ても“闘える”って感じがあったんで」

-- “外”の舞台と言えばDEEPとかへも出場経験はありますが、やっぱりそれとは違いますか。
前田「そうすね…PRIDE、K-1クラスになると緊張するというか、“俺も大きい舞台に出るんやな”って感じがしますねえ」

-- 結構、いつもは何があっても動じないって感じの前田選手の口から「緊張する」って言葉を聞くのは意外な感じもするんですけどね(笑)
前田「んー、普段はそうなんですけど、意識せざるを得んってかんじですよね(笑)。こうやって取材も増えるわけじゃないですか。そうなったら“ああ、でかいんやな”って実感も湧きますからね」

-- パンクラスであり、稲垣組って看板を背負う事になりますけど、そのプレッシャーとかもあるんじゃないですか?
前田「まあ、多少ありますけど、それは名乗る以上仕方ないってトコありますよね。自分で自分に掛けたプレッシャーみたいなもんで(笑)」

-- 対PRIDEっていう意味では、このところパンクラスからは高橋選手、近藤選手が出て、連敗してますけど、その辺は意識しますか?
前田「そうですね。結果だけ見たら“パンクラスは通用せんのかな?”って見られますよね。悲しいですけどね。仕方が無いですよね。結果は結果やし。近藤さんや高橋さんがやられたからって、僕がボブチャンチンとやってどうにかなるかっていったら、どうにもできないですからね(笑)」

-- 確かに(笑)
前田「ただ、せめて自分は…少なくとも自分のせいでパンクラスに迷惑をかけたくないっていうのはありますよね」

-- 確かに大阪大会が終わった後のインタビュウでも前田「パンクラスを舐められたくない」って言葉は出てましたもんね。
前田「そうっすね。“舐められたくない”ですね。そういうのは“個人やから”ってことで、関係ないって思う人は関係ないやろうし、稲垣組は稲垣組っていうのあるんですけど、僕個人はパンクラスの事が好きやし、何より無くなったら困るっていうのがありますから(笑)。なにより恩を感じる部分ってありますからね」

-- そういういろんな看板を背負って出て行くって、“重たい”ですか? それとも“よっしゃ背負ったる”って感じですか?
前田「両方…ですよね。プレッシャーになってても、いざ闘いだしたら関係なくなってたりしますし。背負ってるもんが大きいほど…楽しそうじゃないですか(爆笑)」

-- 結構、そういうのって好きなんですね(笑)
前田「好きですねえ(笑)自分の中でドラマチックになって(笑)」

-- じゃあ対外試合にぴったりの体質だ(笑)
前田「どうなんすかねえ? その日になったらビビってたりして(笑)」

-- でも、プロでやってきて連勝街道突っ走ってくると、どっかでもっと早くビビるタイミングってあると思うんですけど。
前田「あります、あります」

-- それで結果が出せてるっていうのは、やっぱりプレッシャーに強い部分がないと無理じゃないかなとも思うんですが。特にソッカとか名前のある選手とやるときなんか、無茶苦茶プレッシャーあったんじゃないですか?
前田「いやあ、あれはねえ…勝てると思ったんですよぉ(笑)。負ける気がしなかったというか。なんでか、わかんないですけど、なんかコイツに負ける事は絶対ないなと」

■無差別上等!:「ヘビー級の人間でも思いっきりシバいたら、失神さすことは出来ると思ってます」

-- じゃ、今回のベネットなんかは、戦前の印象ってどんな感じですか?
前田「んー、勝負は五分五分じゃないですかねえ」

-- おっと、一転謙虚ですね(笑)
前田「いや、お互いそんな感じやないですか? シバきあいしたら、先当たった方が勝ち、みたいな」

-- あー、そういう展開になるかもっていうのはありますねぇ。彼の試合とかは映像とか見ました?
前田「前に武士道の会場で見ましたね。…なんか格闘家らしからぬファイターというか」

-- 喧嘩屋、みたいな?
前田「いや、ショーマンシップとか、そう言う部分もあるんやろうなと」

-- あー、実際向こうでやってる試合なんかでは、ショーマンなのかどうかはわかんないですけど、金網に登っちゃったりして、かなりヤバめのキャラではあるみたいですね。
前田「まあ、僕にしたら“どうぞ登ってください”ぐらいの感じですけどね(笑)」

-- 確かに登ったところで、対戦相手は痛くもかゆくもないですからねえ(笑)ただ、体重差が十キロ近くあるっていうのはどうですか? 
前田「それもねえ…なんとかなるんじゃないかと思うんですよ。僕、ヘビー級の人間でも思いっきりシバいたら、失神さすことは出来ると思ってますからね。要は、そこにたどり着くまでの過程が大変だってことだけで…当たりゃあ、って(笑)でもそこがある意味今回の課題かもしれないですね。その発想がどこまで通用するか。これまで、無差別っていっても五キロぐらいしか変わらん奴で、とりわけ強いってわけでもなかったですから。そこそこ有名所っていうか、技術もちゃんとある奴相手の、体重差をどこまで克服していけるかと」

-- 体重差も体重差ですけど、ベネットはスピードもある選手で、五味選手もそれに手を焼いた印象があるんですが
前田「いや、スピードに関しては僕の方が上です(きっぱり)。それは問題じゃないです。僕今まででも、練習とかで“コイツ早いな”とか思った事が無いんですよ。早くても、全然付いて行ける範囲の早さしか味わったことがないんで」

-- 逆にビビらせてくれよと
前田「そうスね。でも早さでビビって、とか…どうなんすかね?(笑)それが愉しみでもありますねぇ」

-- パワー差とかはどうですか?
前田「外人なんでパワーはあるでしょうね。それはしゃあないですよ」

-- これまでバレットソッカパイシャオンと三人の外人とやって来てますけど、特にパイシャオンとか相当タフな試合だったと思うんですけど。
前田「でもパイシャオンにね、特に何をされたってことはないんですよね。ただアイツが打たれ強いだけで。打たれ強い、粘り強い(笑)でも別に、僕の方は奴に何を攻撃されたとかないですからね。アイツが勝手に暴れて、勝手に自分で疲れてただけですもん(笑)」

-- そうかぁ。あれだけ前田選手が攻め込んでも仕留めきれなかった選手だったので、印象が強かったってだけかもしれないですね
前田「まあ、判定の試合は全部仕留められなかった試合ですからね(笑)」

-- じゃあ、やっぱりベネット戦はどう出て来るかが愉しみ、みたいな?
前田「7:3ですね」

-- どっちがどうで7:3でしょう?
前田「ワクワク3の、どうなるんやろ? みたいな武者震い的な物が7ですね。好奇心とか含めて。すごい期待感はありますよね」

■前田吉朗のプロ意識:「ビデオでも見てて、早送りされない試合、早送りされない選手がプロやろ」

-- あと、ちょっと先になりますけど、もう九月のパンクラス大阪大会が決まってますよね。それに関して、四月のリングの上でも「生きて帰って来れたら、また九月ここで会いましょう」みたいなアピールがあって。ああいう台詞の持って行き方とかを聞いてて、前田選手、凄くプロ意識高くなってきたなあと感じたんですけど。
前田「んー、色気出てました?(笑)」

-- ばっちり、スケベ根性が覗いてました(笑)…というか、ああいうお客さんの気持ちを掴むみたいな部分でも、プロっぽく決めるとこは決めるようになったなと。ああいうのは最近意識しだしたのかなあと思ったりしたんですが。
前田「いや、結構前から、思う部分はありましたけど、それを言える段階になかったというか…練習とかだけじゃなくて、そう言う部分も備えて行かなアカンなと思うようにはなってきましたね」

-- なるほど。今回武士道に来るファンというのは、パンクラスをずっと見てる人だけじゃないですか。そんな新しいファンにも、プロとして存在をアピールしていかなきゃいけないんですが、彼らに対して、前田吉朗の何を見に来て欲しいですか?
前田「何を見に来いって言うより、その日在る“そのまま”を見に来てくれたらエエとは思いますけどね」

-- いや、もちろんその通りなんですけど、何を聞きたいかが曖昧でしたね。えーと…言い方を変えると、プロの格闘技って、リアルな強さを魅せると同時に…あんまり好きな言葉ではないんですけど、一番出回ってる言い方でいうと“幻想”ってあるじゃないですか。その人の「オーラ」みたいなものかな。単に強かった、弱かった、以外の部分でファンが受け取る物で。
前田「はいはいはい」

-- 今、前田選手で言うと、ずっとパンクラスとDEEPで「デビュー以来無敗」っていう記録があって。じゃあ、その前田選手が修斗のトップランカーとやったら? とか、デモリションで活躍してるあの選手とやったら、みたいな部分でファンの気持ちを滅茶苦茶“くすぐる”存在になってると思うんですね。今回、武士道に出るって言う事は、その「幻想とリアルの距離感」を量られる場所に出て行く事になるのかな、と。
前田「あー、そうですね。その意味では、その“幻想”を持たせたまんま、相手を倒せたら、それがベストかなと思いますね。“コイツにこういう勝ち方できるなら、アイツも行けるんちゃうか?”って思わせたら、僕の勝ちなんで。それを膨らませて行けるのが、ちゃんとしたプロなんかなって」

-- そうですね。悪い言い方で言うと“勝ち逃げ”なんですけど(笑)もちろんただ勝つだけでももちろん難しいんだけど、それだけなら競技の中での勝ちでしかないし、それなら大きい舞台で、何万人の前でやらんでもエエんちゃうかと、思ったりするんですよ。大きい舞台行って、何したいの? があんまり問われてないなあって思って…そういう意味では、今って、凄く“プロ格闘家”って仕事が成り立ちにくい状況やと思うんですよ。
前田「あー、プロが増えた分、プロが減ってますよね。…パッと見て“俄(にわか)プロ”って判るじゃないですか。試合に出てるだけ。勝っても判定、みたいな。別に判定が悪いとは言わないですけど…何も伝える物のない勝ちって、僕嫌いなんですよ。技術を見せるか、そうでなかったら心意気…言うたら変ですけど、何か見せるモンがないとアカンなと。最低でもビデオでも見てて、早送りされない試合、早送りされない選手がプロやろ、と(笑)」

-- 確かに早送り、よくするなあ(笑)じゃ、前田選手から見て、早送りできない選手って、例えば誰になります?
前田「やっぱ、桜庭選手かなあ…。なんて言うんですかね。試合自体もあるんですけど、その人の持ってる雰囲気とか、さっき言うてたオーラすか? 見逃されへんなあって所がね」

-- うんうん。じゃ、今、前田選手はどれぐらいのオーラ出てますかね(笑)
前田「オーラかあ…無いんじゃないすかねえ(爆笑)」

-- (笑)それは大丈夫やと思いますよ。マイクアピールでも、さっきも言いましたけど、ちゃんと客掴んでるなあ、って思いますもん。
前田「いやー、マイクアピールとか、ダメだしされるんですよぉ、稲垣さんたちに…“もっとはっきり言わなきゃダメ”とか(笑)」

-- そこでも厳しいすね(笑)
前田「いや、見とる友達にすら言われるんですよ。“マイク、持たん方がエエんちゃうん?”って(笑)」

-- やっぱオーラ無いかもしれないすね(笑)でも、こないだの「生き残ってこれたら、九月会いましょう」っていう言葉なんかは、ただ顔見せに行って来ますではない、覚悟がちゃんと出てていいアピールやったなあって思うんですよ。
前田「やっぱ、生き残らなあかんですからね。近藤さんでも今回は勝てなかったって言うのはあるんだけど、一発目出た時はインパクト残してますからね。一番最初の、ファーストインパクトって大事やと思うんですよ。もちろん、毎回大事なんですけど」

■意地と欲望の武士道進出:「噛み付かれたら、黙ってられないですよ」

-- あと、もう一個印象に残ったといえば、これはバックステージの言葉なんですけど、「パンクラスでしか通用しないって言われてるのを、そうじゃないって証明したい」っていうのが残ってますね。そう言う外野の雑音を封じるための出撃でもあるのかなと。
前田「結構、ちょこちょこ言われてるらしいですからね。そりゃそんな事言われても仕方が無い相手の試合とかもあるんですけど。認めて欲しいとかは思わないですけど、そういうの聞いたらやっぱりムカつきますからね。少なくともお前より強いよって(笑)やっぱ、「舐められたくない」って一言ですよね」

-- それは勝てば勝つほど言われますよね。やっかみとか、あわよくば上がった奴を引きずり降ろしてやろうとか。どこの世界にもある話ではあるんだけど。
前田「噛み付かれたら、黙ってられないですよ。僕も攻撃的なんで、どうしても噛まれっ放しで居るっちゅうのがイヤなんで。バッシング的なこと言われたら、俺のとこ来て言え、って思いますよね。実際、そいつのとこ行ってシバき倒せたらベストなんですけど、捕まりますからね(笑)別のやり方で見せつけなあかんでしょ。そうなると、誰もが強いって認めとる奴を倒すしかないじゃないですか。試合の内容でもね」

-- その辺は意地ですよね。もちろん、勝って、人気とか、お金とか現世的に得られるものも大きいはずですけど。
前田「一試合勝ったからって、なんか変わるとも思わないんで。一年ぐらいは継続してやってみないとわかんないでしょうね。下手したら、一試合やって。勝っても、しょうもない試合して、PRIDEサイドから“要らん”って言われるかもしれないですしね」

-- じゃ、前田選手サイドから言えば、PRIDEは連続参戦していきたい?
前田「一番理想的なのは、“フリーパス”ですよ。どこの団体でも上がれるフリーパス。多少何かあっても“アイツならしゃあない、出しとけ“みたいなね(笑)K-1もUFCも、どこでも出れるのが」

-- 世界一の通行手形ですね(笑)
前田「三つあるから、世界三ですけどね(笑)」

-- (笑)まあヒクソンぐらいでしょうねえ、それ持ってるのは
前田「今、コイツが一番強いってのが無いですからね。みんなが普通っていうか、誰か一人倒して一番とかとちゃいますからね。飛び抜けて誰って居なくて。今一番って言われてるヒョードルでも、一人一人倒して行って、今のとこ他が無いってトコで一番ですもんね」

■俺の首に値札をつけてくれ:「修斗の選手の誰とかを意識して言うんとちゃうんですけど…勝てると思います」

-- 現実問題、前田選手のクラスで、コイツを倒すことで証明になるなって標的はあります? 
前田「パッとは浮かばないですけど…居ますかね?」

-- 今見える中では、例えば修斗のバンタムの選手とかになってくるんじゃないですかね? マモル選手とか
前田「ああ、パンチパーマ? あ、アフロの(笑)でも、僕、修斗の選手の誰とかを意識して言うんとちゃうんですけど…どうなんすかね? 勝てると思うんですけどね」

-- 言い切りましたね。もちろんそれを聞きたかったんですけど(笑)実際、この間の大阪大会でも村田選手のセコンドについてた大沢選手と、なんか言葉かわしてたのを見て、「あっ」て思ったんですけど、アレもやろうよって話じゃなかったですか? 
前田「ええ、“今度やろか”みたいな感じで。向こうが前になんか僕の名前挙げてたみたいなんで。でも、僕とやるんやったら、志田を倒すなり、何なりせえよと言うのはありますよ」

-- それ、直接あの場で?
前田「いや「じゃ、またやりましょうか」みたいな感じでしたね。僕も人の名前挙げて言うのはありますけど、基本的に悪気があって言うんじゃないでしょうしね。その場の勢いであったり、取材陣に言わされたりとかがあるでしょ(笑)」

-- すみません、今現に言わせてます(笑)
前田「へへへっ(笑)でも実際悪い人間はあんまおらんと思いますよ。格闘技しよる奴にね。とりあえず、僕の方は目の前に出てくる相手を一人一人撃破して行くだけで」

-- 特に標的は無いかぁ…でも、決着が付いてない今成選手との再戦とかは引っかかってたりしません?
前田「今成は…別にひっかかっては無いですね。ベストなのは、今成も武士道に出てるんで、お互い何人か倒してから当たれればベストでしょうね」

-- この間の対戦での感触はどうでした?
前田「自分ではもっとやれた気もするんですけどね。向こうも向こうでもっとやれた気はしますけど。でもアレがあの日の精一杯だったんじゃないですかね。“これ以上行ったら相当危険やな”っていうのがあって、人間一回そういうの考えたら行けないじゃないですか。それを考えた時点で、向こうの作戦にハマってしまったのかもしれないし…」

-- 今まではそれにハマらずに、むしろ踏みにじって来たのが前田選手の戦い方でしたからね。一つ壁に当たっちゃったのかな、みたいにも思ったんですが
前田「最初は凄く今成が良かったんですよ。“今成凄いな”って1Rは思ってたんですけど、だんだん僕は調子が上がって来て、向こうは落ちて来たんですね。だから…次当たったら、4R目から始まって、僕の勝ちですね(笑)」

-- (笑)まあ長編小説の序章だけ読まされて、終わっちゃったかなあ、って言う感じはありましたね。何かあるな、何かあるんじゃないか? っていう緊張感はすごく持続してた試合だとおもうんで
前田「次あるのか無いのかはわからないですし、強いてやりたいというのもないんですけど…もちろん、特別やりたくない、というのでもないんですけどね。ただ前みたいに、自分が行かないんであれば、やる必要は無いですね。お客さんに二回あれを見せたら、“前田っておもろないな“って言われるでしょ。まだ一回目なんで、緊張感があったとか言ってもらえたと思うんで。アレを二回繰り返したら、“お前ら何の茶番や?”って言われると思います(笑)二回目やるんであれば、完全決着つけなアカンですね」

-- 逆に再戦があるのかな、無いのかな。武士道でかな?パンクラスでかな?もう一回DEEPかな? みたいな部分が、さっき言ってた幻想の部分なのかもしれないですね。
前田「そういう幻想持ってもらえるうちは、逆にまだエエかなと(笑)」

-- そう来るか(笑)“前田吉朗幻想”なかなか奥深いですね。
前田「まあ、今回、“前田吉朗がなんぼのもんじゃい”とかも、思われてるでしょうし。みんなで一回品定めしてくださいって思いますね」



「稲垣組オフィシャルTシャツ」販売開始
※ネット販売は「ばうれびショップ」だけ!特典として選手直筆サインも入れられます。
「稲垣組オフィシャル☆Tシャツ」4/10パンクラス大阪大会でもセコンド陣が着用。選手別に5パターン。場内の注目を集めたポップなデザインが光る。→GO
【緊急入荷!】 PRIDE武士道出場記念の最新作「44:Rock'n Roll(ヨシロック)」(当日着用予定)も登場!→GO

 




さて第二部である。

四年前、P's LAB大阪の開設に伴い、単身大阪に乗り込んで来た初代パンクラシスト稲垣克臣。以前、僕は彼の現役引退に伴い、「生涯一パンクラシスト」というささやかな記事を捧げた事がある。決して派手な現役生活ではなかったが、実直に一つの道だけを歩み続けた、彼の愚直なまでの生き様は、格闘技選手のあり方として、もっと称揚されてもいいのではないか、そんな気持ちから書いた原稿だった。

それから二年。すっかり専任コーチとしての風情が強くなった稲垣だが、彼が手塩にかけて育てた選手たちは、ご存知「稲垣組」を名乗り、めきめきと頭角を現し始めている。

前田はもちろんのこと、武重、藤原、藤本ら「稲垣組」メンバーの急成長の秘密は、一体どこにあるのか? 「密やかに、目立たず」を望む静かなる闘将の、心に今も燃える“パンクラシスト魂”に、ひっそり迫ってみた。


■船木→稲垣→前田:パンクラシストの戦いはまだ終わっていない

-- 今、前田選手がずっと連勝で来て、武士道にもあがるということで、非常に注目を浴びていると思うんですが、「稲垣組」っていう看板もあって、前田選手を育て上げた稲垣さんの手腕もクローズアップされてきてると思うんですが。
稲垣「いや、それはもう選手の力ですよ。僕がコーチだからとか、そういうのは関係ないと思います」

-- まあ選手よりコーチが目立ってしまうのはどうかと思いますけど(笑)ただ稲垣さんといえば、現役時代、パンクラスでデビューして、パンクラスで引退してっていう非常にストレートな経歴で終わった選手だったわけで、今はパンクラスのために選手育成をしているという、その一途さが一つ選手のための力なんじゃないかなと思ったりもするんですが、どうでしょう?
稲垣「結果的にパンクラスのためになってくれればいいなあっていうのはありますけど、やっぱり選手たちが何をやりたいかが大事なので、彼らがやりたい事を伸ばしてあげたいだけですね」

-- なるほど。ちなみにコーチ生活は何年目になります?
稲垣「四年ですね。丸四年。引退して専業になってからは二年弱です」

-- それだけの短期間で選手が頭角を現して来たっていうのは、自分の指導法が正しかったっていう感じですかね?
稲垣「んー、どうですかね? まだわからない感じですね。正しかったか、間違ってたのかはまだ結論はでないですけど、出来る事は全部やってるって感じで。やることはやってるっていう自信みたいなものはありますね」

-- パンクラスの初期って、先輩は居ても、コーチングのプロみたいな人も無いところから始まってる訳で、今稲垣さんがやっておられる事って、ある意味パンクラス十年の総決算なのかなあ、とかも思ったりするんですが。
稲垣「まあ、今はいろんな所で技術が学べますし、試合の映像も見れるんで、パンクラスだけの、っていうのは無いと思うんですけどね。ただ常にいろんな物には目を配るようにしてますし、自分でも動いてみるようにはしてますね。自分でやってみないと、実際わからないんで。スパーリングも続けるようにしてますね」

-- それは現役時代と変わらない感じで?
稲垣「まあ、やっぱりブレーキをかけながらっていうのはありますけどね。こうやって動きたいんだけど、これ以上動くと壊れちゃうなって思う所はブレーキ掛けて。現役だと、それでは勝てないんで」

-- 逆に東京の道場でも指導してる選手たちがいるわけですけど、顕著に大阪のP'sLABから選手が伸びて来てるっていう現状はどう思われます?
稲垣「人に恵まれてるって言うのは、確かにありますね。選手、生徒に恵まれてるというのが、大きいんじゃないですかね。素質もそうですけど、みんな非常に素直なので」

-- 今回その中から飛び出すというか、まあこれまでも先頭を切って走って来た前田選手が、いよいよ武士道進出ということで、全国区に飛び出して行くんですけど、それに関して師匠としてはどうみられてます?
稲垣「これまでは大阪っていう限定された場所で闘って来て、彼の魅力って言うのもある程度伝わってきたと思うんですね。もっと広い場所で、その魅力が伝わるのかな?どうなのかな?っていうのはやっぱり考えますね。でもそれを伝えられる人間がスターになって行くのかなとも思いますね.。それを試される場になるでしょうね」

-- 今回、体重差のあるマッチメイクということもあって、本来の前田選手の魅力が出るんだろうかっていう懸念もあったりしますが
稲垣「昔、自分が現役でやってた頃って、体重差なんかあって普通で。そういうの気にしないでやってましたから。基本は無差別、みたいなのが自分の中ではずっとあったんですよ。逆に体重差があるのは不利だな。そこで選手を守らなきゃみたいに思うようになって来てた自分も居たんで、それは良くないなと。そんな気はしますけどね」

-- その辺、気持ちの根っこで競技スポーツより武道って感じなのかもしれないですね。僕、稲垣さんが引退した時のコメントで今も憶えてるんですけど、稲垣「やり残した事があるとしたら、船木さんがヒクソンに負けて、その敵を討ちたいって気持ちが今もある」っていう台詞なんですよ。その辺、無差別が基本っていう考え方と合わせて、武道志向だなあというのが感じられたんですけどね
稲垣「ああ、なんだろうなあ? 船木さんが負けた時はそんなにも思わなかったですけどね。なんか、結構最近もそんな事を思ってますよ。なぜか(笑)悔しいのかな…なんか引っかかってるものはありますね」

-- なんかその引っかかり具合が伝わるせいか、僕も憶えてるんですよね。前田選手がPRIDEに行って闘うって言うのも、その船木選手がヒクソンに負けてっていう歴史の延長線上に捉えてたりするんですよね。彼自身「舐められたくない」って言う言い方で、自分たちのベースを守るというか、やって来た事の証明として外に出て行くんだ、っていう考えを言ってますしね。ああ、これはつながってるんだ、みたいなのが、僕には感じられたりするんで、そこには“稲垣イズム”じゃないけど、師匠から受け渡されたものがあるのかなあと。
稲垣「それは、自分のなかでもちょっとありますね。選手としては引退はしたんだけど、“戦いはまだ続いているんだ”みたいな感じって。実際にリングに上がって試合をするのは僕ではないんですけど、そう言う意味では“一緒に闘ってる”って感じてて。今そういう風に言われてみて、“なんで俺はそんな風に思ってるんだろう?”っていう疑問があったんですけど、理由がなんでか判った気がしますね」

-- その“一緒に闘ってる”って言うのを感じる部分、なんか判りますね。変な話になっちゃうかもしれないんですけど、僕、稲垣さんのセコンドぶりみてて、凄く独特だなあって思ってたんですよ。感情的にがんばれがんばれで応援してるんでもないし、冷静に時間とか相手の動きとかのデータを知らせてるんでもない感じで。凄く短い言葉で、今選手にどう動くかの指示だけを言うじゃないですか。「鉄人28号」のリモコンじゃないですけど、“こう闘え”みたいな指示だけを投げてるなあと。
稲垣「それもあるんですけど、結局闘ってるのは選手個人じゃないですか。だから、“俺だったらこう闘う“っていうのは言うけど、それが自分の中で違うって思うなら、自由に動けばいいんですよ」

-- えっとね、リモコンと言うから冷たい命令みたいに聞こえるかもしれないんですけど、そのまま全部聞いて闘えって言うんじゃないですよね…その意味で言うと「鉄人28号」じゃなくて、「マジンガーZ」かもしれない(笑)選手と合体して一緒に闘ってるっていうんですかね。なんか乗り移ってる感じなんですよ。
稲垣「ああ、選手と一緒に闘うって言う感覚はありますね。凄い緊張もするし。一時期、引退して、やっと勝負の世界から抜けられるなって思ってたんですけどね。ちょっとホッとしたいなっていうのもあったんですけど、結局変わらないなと(笑)」

-- 全然、引退してないですね(笑)今回特に大きな舞台に出て行くって事で前田選手以上に緊張とかもしちゃうんじゃないですか?
稲垣「まあ、最近はちょっと開き直ってもいるんですけどね(笑)練習でやることはやったんだから、あとはもうなるようになる、みたいな。そこまでやり切らないと、そうは思えないんですけど」

-- その意味では前田選手はきちんと言った通りをやり切ってくれるから安心ではあるんじゃないですか?
稲垣「でも俺がやらせてるって言うんではダメですね。自分からやっていって、足りない所は俺が言うんですけど…ただ指導してて思ったのは、最初は“言わなくても判るだろうな”って思ってやってたんですけど、それはあり得ないなと(笑)…なんて言うんだろう? 言って、言うからには自分もやってみせて、説得力を持たせないとダメなんですね」

■ギタギタのシゴキで、純度百%のパンクラスism注入!

-- 前田選手の場合、あのやんちゃな性格でしょ? 言っても聞かない、みたいな部分はなかったですか?(笑)
稲垣「いや、そんなことはないですよ。はじめは…あの…(含み笑い)俺、やっつけましたからね(笑)」

-- (笑)いわゆる新弟子流にギタギタにやっちゃったと(笑)ジム生全員にそれをやったら、みんな逃げちゃうでしょうけどね…
稲垣「まあ、選手でやりたいって言うんで、それならって感じですね。…でも何かんだ言って、自分より強くて、練習も一杯やってる人に言われれば、ハイって素直にやるもんですよ。それはもう俺も船木さんからそう教わりましたからね。強いし、練習も率先してずーっとやるし。どう考えても、言われたら素直にハイって聞きますよね」

-- そこは半端なくパンクラスイズム注入、って感じですね(笑)普通のスポーツジムなんかではあり得ないものですけど、それがあるからさっきの“受け渡す”っていう感覚も伝わるのかもしれない
稲垣「それはもう当人が何を求めるかっていうのもありますけどね。俺の場合、それが必要だと思ったんで、やりましたね」

-- ちなみにそれは何時頃の段階ですか?
稲垣「いや、もう入ってすぐぐらいですよ。ここで諦めるならそれぐらいだなと思ったんで。スパーリングで思い切りやって、あと補強もやらせて」

-- ホントにそれはもう新弟子の入門と同じだったんですね
稲垣「そうですね。彼の場合、それは絶対やっといた方がいいと思いましたね」

-- 今、稲垣組と言われてる選手はみんなそんな感じですか?
稲垣「そうですねぇ…メッタメタまではいかないですけど、スパーリングで一通りみんなやって。それはありますね」

-- それはいわゆるP'sLABの一般のジム生との線引きみたいなのをして、特にプロ志向の選手だけを、特にってかんじですか?
稲垣「えーとね。昔はホントお客さんみたいなのもあったんですよ、俺の中で。今はお客さんみたいな感覚はもう無いですね(笑)ここに来てる人間はみんな仲間って感じで、選手だろうが、一般のジム生で来てる人であろうが、できるだけその人の一人一人が目指してる物に応えていけばいいんだって感じで。でもプロで試合に出てやって行きたいのであれば、ジムでみんなでやってる事だけでは足りないんで。そこをもっとやらせるって感じですね」

-- そうか。なんか稲垣組の秘密がちょっと見えた感じがしますね。今時の格闘技ジムだと、やっぱり経営とかもあるし、選手もいまどきのコなんで、あまり“アレやれ、これやれ”ってしごいたらすぐ辞めちゃう、みたいなことをよく聞くんですけど。ところが、稲垣組っていうのは、原パンクラスの初期のイズムみたいなのを、そのまま受け継いでる部分があって。
稲垣「まあ、僕が責任もってみてあげてられている選手に関しては、そうありたいっていうのもありますね。一生に一度だし、限られた期間しか出来ない事でもあるんで。ここで出来る事は全部教えたいし、やれることは全部やってあげたいんですよね」

-- またそこまで献身的にやってもらえてるからこそ、親分として選手も担いでくれるんでしょうね。実際、そうやって担がれる側の気分ってどうですか?
稲垣「単純にうれしいっていうのもあるんですけど…できれば俺は、影の方でひっそりとっつうか、目立たない所で置いといてもらいたいってのもあって(笑)なんかその両方に引き裂かれちゃってますね(笑)」

Last Update : 05/20 00:41

[ Back (前の画面に戻る)]



TOPPAGE | REPORT | CALENDAR | REVIEW | XX | EXpress | BBS | POLL | TOP10 | SHOP | STAFF

Copyright(c) 1997-2005 MuscleBrain's. All right reserved
BoutReviewに掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
著作権はマッスルブレインズに属します。