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 [第10試合 日・タイ国際戦ウェルター級5回戦」
武田幸三 vs パヤックレック・ユッタキット
月に越谷で行われた興行で、ともに豪快なKO勝利をおさめた両者。武田選手の、鍛造されたかのような強烈な肉体は、既に多くのファンの知るところだろう。しかし、相対するパヤクレック選手も、尋常な体躯ではない。視覚的な破壊力という点では、両者互角といったところだろう。
 武田選手は、この試合で今年7戦目。疲労やダメージも蓄積されている頃ではないだろうか。しかし、武田選手にとって今年最後の締めくくりの試合だけに、強敵相手に、今年獲得した力の全てをぶつけて欲しい。
 一方、パヤクレック選手については、前回の試合が、まさに一発で決まってしまっただけに、その実力は把握しきれていない。しかし、280戦を超える戦績。元ラジャダムナンJrウェルター級王者の肩書。これだけ見ても、半端な選手であるはずがない。武田選手といえども、苦戦は必死か。
 両者の攻撃力を考えると、一発のパンチで決することも考えられる。一瞬も目が離せない試合となるのではないだろうか。



ラウンド1 田選手の右ローから始まると、パヤクレック選手はジャブを返し、それに武田選手がローを返す。両者、見合った状態から単発でローをかわす展開。パヤクレック選手がパンチからコーナーに武田選手を追い込むと、踏み込んで強烈なロー、サイドキックを蹴り込む。終盤まで、両者一定の距離を保って相手の射程範囲に飛び込まず。パヤクレック選手は、ローにヒザや前蹴りを織り交ぜるが、武田選手は小さな手のフェイントをかけながら、専らローで反撃。

ラウンド2 ヤクレック選手の右ローと武田選手の左ジャブから始まると、しばし見合って、パヤクレック選手がローを誘う。それに武田選手が応じて、右ローを打つが、パヤクレック選手はこのローをキャッチしてストレートを思い切りよくふり抜く。これはかろうじてヘッドスリップでよけた武田選手だが、再びローをキャッチされ、右ストレートの脅威にさらされる。パヤクレック選手は左フックから右ストレート、右ローといった攻め手も見せる。武田選手は、やや手詰まりで、ジリジリと後ろに下がってしまう。


パヤックレック必殺の右スト
レートを危うくかわす武田


今度は左ストレート

ラウンド3 ヤクレック選手は、コツコツとヒザ関節を狙って足を出す。武田選手は、勢いよく右ストレート。パヤクレック選手の関節蹴りで、前に出られない武田選手は遠い間合いからジャブやローを打つ。パヤクレック選手は、武田選手のローに合わせて組みつくと、胴に手を回して組み倒す。さらにパヤクレック選手は武田選手のジャブにテンカオを合わせ、再び前蹴りから一気に組みついてヒザを回す。そして、組みつくと浴びせ倒したり投げ捨て、体力を奪う。武田選手も前には出るが、すぐ捕まってしまう。


武田も得意の右ローを出すが・・


パヤックレックのテンカオ

ラウンド4 ャブから右ストレート、左フックから右ストレートと、パンチを狙う武田選手に、パヤクレック選手はミドルを返し、腕を差して組み倒す。武田選手のローに対しても、単発でローを返すが、すぐに胴に組みついてヒザを回す。パヤクレック選手のミドルと武田選手のローを交換すると、にわかにパンチの打ち合いに。ジャブから右ストレート、右ローと力強く打ち込んだパヤクレック選手が、武田選手をロープに押し込んでヒザを突き上げる。武田選手もこれを逃げるとローを放つが、再びパヤクレック選手が左ジャブから組みついて押し倒す。終盤は、パヤクレック選手が前に出てパンチからミドル、近づくと組み倒すという感じで武田選手の有効打を封じ込む。

 
ラウンド5 ロー、左フックと続ける武田選手だが、すぐに組みつかれて連打に繋がらない。武田選手も投げようと試みるが、腰の重いパヤクレック選手に組み伏され、逆に組み倒されたり投げられると下になり、体力のロスが激しそう。パヤクレック選手は、機を見てはミドルの連打、ハイキックと抜かりがない。左手を大きく突き出して前に出ると腕をすぐ脇に差し込み、押し倒し、投げ捨て、ヒザを回す。武田選手も、前に出ようとするがすく組みつかれ、首相撲をいやがってか、逆に今度は下がってしまう。ゴングまで、パヤクレック選手が組みついてのヒザや押し倒し、また距離があくとミドルやハイを執拗に狙い、武田選手の攻撃の芽を摘んで、終了。


組んでは倒すパヤックレック


最後にはバックブローも
見せたパヤックレック


剛腕、不発。
 武田選手にとっては、痛い一敗になってしまった。殴り合って負けたわけでもなく、封じ込まれて自分の距離に入れず、入っても維持できないもどかしさ。闘う本人のストレスは、見ている我々のそれとは比べようもなかったことだろう。
 パヤックレック選手は前回の試合の豪快さや、その重厚な肉体とは裏腹に、さすがに百戦錬磨の巧さを兼ね備えた、まさにムエタイの選手だった。前半は、ローやパンチで前に出て、後半はややバテたか組みついては倒し、体力を奪いながら武田選手の攻撃を封じ込める巧さ。さらに、要所々々でミドルやハイを狙ってポイントを押さえる老獪さ。完全に武田選手を丸め込んでしまった。
 武田選手は、もう少しパンチの打ち合いになることを予想していたのかも知れないが、5ラウンド通じて、自らの攻め手を巧く修正することが出来ずに完封されてしまった。終盤まで積極的に前に出ようとする意思はうかがえたが、真っ直ぐ出ては捕まってしまうという展開に終始した感は否めない。老練なパヤクレック選手相手には、今少し出入りや崩しに工夫が必要だったのかも知れない。
 とはいえ、この試合を含め、今年の武田選手の頑張りは、十分評価に値するものであると思う。こなした試合数、試合ごとに成長するスタイル、アグレッシブな試合態度・・・。結果的に有終は飾れなかったが、ウェルター級に武田アリ、という印象は、ファンの心の中に刻まれたはずだ。
 来年もさらなる成長を遂げて、ムエタイ越えのみならず、欧米を視野に入れた真のトップクラスを目指して邁進して欲しい。

文 片岡

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