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98・12・13
K1グランプリ'98 決勝戦
東京ドーム

第7試合(3分3RK1ルール)K1 GP決勝

× アンディ・フグ
1R1:10
KO
ピーター・アーツ
180センチ/96.0キロ

186センチ/105.5キロ

スイス・正道会館 オランダ・フリー 

 

「第二次黄金時代の到来」Text by 高田敏洋

 

 クシングではおそらく世界一名前の知られた名リングアナ、マイケル・バッファー の "Let's get ready to rumble !" の掛け声と共に始まった優勝戦。その結果は既に 皆さん御存知の通りである。この日のアーツの強さを証明する左ハイによる一撃KO。 これでアーツはこの日の3試合全てをR1でのKO勝利で飾った。今大会は全7戦中6戦 がKO勝利と非常に分かり易い内容であったが、6つのKOの内R1でのKO決着は半分の3試合、つまり全てアーツによるものだ。


 「グレコ戦を見ていたセコンドから、フグは右のガードが下がり気味だから左ハイを狙っていけ、というアドバイスを貰っていた。良いセコンドに恵まれたよ。」

 どちらかというと右の蹴りを得意としていたアーツがその右臑を痛めたとき、これを契機に左の蹴りに磨きを掛けろとアドバイスしたのは他ならぬ石井館長であったという。「また強くなっちゃいましたね。」笑い事じゃありません。これでますます日本人選手の超えなければならない壁は大きく分厚くなってしまった。


 ローVTRを見る限り、フグはアーツの左の蹴りが出た瞬間ガードを下げてわざわざ ハイを貰いに行ってしまったようにも見えるが、「ミドルと読み間違えた?」という 質問に試合直後のフグは答えることが出来なかった。「見えていたつもりですが、詳しいことはVTRを見直してみなければ...。」

 アーツはキックボクサーであるが、彼が 基本的な技術を身に付けたオランダチャクリキジムの技術母胎は極真空手にあり、アーツのハイキックはキックボクサー的な膝がインサイドに入ってくるタイプでなく、 大外から回り込んでくる空手の「上段回し蹴り」により近い。この手の上段蹴りが接近戦からいきなり飛び出すと対戦相手にとっては死角から入ってくるので軌道を読み にくくなる。決してホーストのような柔軟性に富むとは思えないアーツにハイキックによるKO勝利が多い理由の一つとしてそうしたことも考えられるだろう。


 「トーナメントを勝ち上がるまでに使った労力の差が大きすぎましたね。」佐竹やベルナルドと違って、フグはアーツの力が前回対戦時と比べて格別変わったとは感じな かったと言う。一つにはそういう感覚を感じる前に試合が終わってしまったという面もあったかもしれない(実際試合後の彼の表情は比較的サバサバしたもので、かつて のフグのように自責と自戒でがんじがらめになったような表情を少なくとも記者達に対して見せることは無かった。)しかしそれ以上にこうした面で「鉄人」はなかなか 頑固であり、その頑固さが彼の不屈の精神力を下支えしているのも確かである。

 果的には、世界のトップ中のトップ、粋を極めた集団の中でアーツは圧倒的に抜け出た力を誇示した。

「今日は自分でも自分が強いっていうのを実感できた。」

「'94 年、'95年の頃は、勝つのはそんなに難しいことじゃなかった。だけどここ数年みんな努力して僕と力が接近してきたから、じゃあもっと練習して強くならなきゃ、と思ってね」

 何とまあ簡単に言ってのけることか。別に殊更大きく出ているわけでもなく 、ごくごく正直な気持ちを自然児アーツは吐露しているだけなのだ。


「今のオランダ目白ジムの環境は凄く良いんで、これからもこの仲間と練習を続けていくつもりだ。」

 どうやらアーツは優勝後も今のストイックな練習スタイルを続けるつもりでいるらしい。「ここ1〜2年体調を崩したお陰で、強さを長くキープするためには良いライフスタイルを保ち続けることが大事だってことがよく判ったからね。」

 怪童の復活、と言いたいところだがここまで大人の境地に到達した彼には最早「童」の文字は似つかわしくないだろう。アーツの言葉に偽りがなければ、おそらくこれ から対戦相手にとってアーツの力は増すことはあっても落ちることを期待するのは無理、えらいことになったものだ。

 ンディング・フィナーレ、優勝者を讃えるベートーベンの第九が、一皮むけた怪物 の新たな黄金時代の幕開けを高らかに謳い上げた。

 

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取材:高田敏洋・薮本直美 カメラ:大場和正


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