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98・12・13
K1グランプリ'98 決勝戦
東京ドーム

第3試合(3分3RK1ルール)K1 GP2回戦

サム・グレコ
R2終了
ドクターストップTKO
× アーネスト・ホースト
188センチ/105.7キロ 195センチ/89.4キロ
オーストラリア・正道会館 オランダ・ヨハンボスジム

 

「クールvsヒート」Text by 高田敏洋

 

 「精密機械」という表現は色々な意味でアーネスト・ホーストいう選手の特徴をうまく捉えていると思う。技術のみならず試合全体を通じての戦略、そしてその間の精神 状態のコントロールという点でも、ホーストほどクールな選手は居ない。

  一方のサム・グレコ。TVでの日常を撮したシーンやパーティ会場での実際の彼を見る限り、普段は人当たりの良いナイス・ガイの印象が強いが、少なくとも試合中の彼に は「拳獣」の代名詞が冠されている。

 対照的な両者の対決はベルナルドvsフィリョ戦と共に、第二回戦に於ける目玉試合と呼べるものであった。


 9 月末の大阪でのK-1一回戦での体重98.2kg、この日の体重89.4kg。ホーストは明ら かに万全の体調とは言い難かった。元々ホーストはアレルギー体質があって、2〜3週前に手足が化膿して40度近い発熱があったのだそうだ。「でも今日のコンディション が悪かったとは自分では思わない。コンビネーションも出てたし。」しかし試合後の コメントよりもその試合内容が彼のコンディションをより雄弁に物語っていた。

 一方のグレコは仕上がりの良さをアピールするようにアグレッシブにガンガン撃って 出る。コンビネーションの回転力といい一発一発の破壊力といい、いつも通り、いや いつも以上の迫力だ。大阪でのマット・スケルトン戦でグレコは勝ちへの拘り、K- 1タイトルへの執念を見せつけた。あの時の彼の情熱はまだ続いている。


(グレコ-ホースト:10-10、10-10、10-9)

  貫型パワーファイターはそれほど得意としていないと言われるホーストだが、大阪 では今日のグレコ同様ガンガン前に出てくるタイプのトスカ・ザ・キング・オブ・スティング相手に、まるで設計図でも引いてあったかのような計算されつくした試合展 開で4RKO勝ちを納めている。その印象があるだけに、R1では下がりながらカウン ター狙うような形になりながらも、ホーストの頭の中では綿密なシナリオが準備され ていっているに違いないと思っていた。実際このラウンド後半に入るに連れ、ホーストのカウンターに対するプレッシャーからかグレコのラッシュは少しずつ影を潜め、 以前の彼がしばしば陥ってしまう「お見合い」の展開が増えてきたように思えた。


 かしここからがグレコの変化の証。ラウンド終盤になって、再び猛然とホーストに 襲いかかっていったのだ。これは間違いなくスケルトン戦で彼が手に入れた精神的な 武器だろう。あのスケルトンにおそらく生涯初の「パワー負け」を味あわされながら グレコはそれに打ち勝ち、執念のこもったコンビネーションのラッシュでスケルトン を沈めた。ホーストが試合前に語っていたグレコ対策で、最も懸念されたのがこの点 だった。「グレコは最初わーっと来るけど、それを凌ぐとスタミナ切れしてパワーが 落ちる。そこを狙っていくつもりだ。」スタイルを一貫し地道なトレーニングを繰り 返すことこそ肝要と考えるホーストにとっては、たった一試合を契機に選手に染みつ いたスタイルが変化するというような話はマンガチックに思えるのかも知れない。し かしもしグレコのスケルトン戦での変化が単なる一過性のものでなく、彼の弛まぬ努 力の成果が試合に現れた結果であるなら、「精密機械」は精密過ぎるがゆえの軋みを 起こすことになる。要するにこの試合の帰趨は、グレコの変化が本物であるかどうか にかかっていたと言って良いだろう。そしてグレコは撃って出た。

 結局このグレコの最後のラッシュで左目の上をカットしたホーストは、ラウンド終了 後セコンドのストップによるTKOでこの試合を落とすことになったのだった。

(グレコ-ホースト:10-9、10-9、10-9)


 ットの原因はグレコのパンチによるもので、バッティング等イリーガルな理由によ るものではなさそうだから、この点ではグレコの攻撃によってホーストが戦闘不能状 態に追い込まれた、という事実に間違いはない。さらにR2終了時の両者のポイント は20-19、20-19、20-18といずれのジャッジもグレコのリードを認めていたから、R3に入っても今日のホーストがこの不利な採点をひっくり返すような動きが出来たか どうかは微妙である。

 試合後の選手達へのインタビューでも、最もクールな印象を受けたのはやはりホーストであった。試合を途中で止められたことに対しても「こういうことはあり得ること だし。それにト−ナメントの途中で怪我を負ってしまった以上、例えこの試合に勝て ても次、そのまた次とやっていくのは難しかっただろう。」連覇に失敗したことにつ いても「勿論がっかりしてる。だがK-1は世界中のベスト・ファイターの集まった 大会だから仕方ない。」

 ホースト自身は否定しても、こうした言動から今回彼が充分なモチベーションを保て るようなコンディションで無かったことが伺える。インタビュー当初に調整失敗を指 摘されたときは否定していたが、会話が進むに連れ、ここ最近の体調がかなり悪い状 態にあったことを伺わせるような発言も洩れていた。そして、そうした状態がメンタ ルな部分に影響を与えていたことも。


 体調が戻ったら、ホーストには是非ともグレコと再戦して貰いたいと思う。万全に機 能する「精密機械」と精神的なタフネスを身に付けた新生「拳獣」のケレンのない闘 いをもう一度見てみたいものだ。

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取材:高田敏洋・薮本直美 カメラ:大場和正


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