全ての闘い終わるとき エンセン井上インタビュー

Interview & Photo : 井田英登

 けた格闘家に、その試合の話を聞く作業と言うのは結構肩が凝る作業である。
 特に負けが込んでいる選手となると、そこから言葉を引きだすのは至難の技となる。
 一つの勝利、一つの敗北で、評価が天国と地獄の間を行き来する商売だけに、その反応はシビアだ。特に格闘技マスコミが飽和状態に達しつつある昨今は、過剰な毀誉褒貶が誌面にも横行しており、本来鷹揚だったはずの格闘家も、マスコミの質問には神経をとがらせるようになってきた御時世である。
 エンセン井上というのは、そうした神経質さとは全く無縁な男である。
 元々ハワイというオープンな土地柄に育った関係もあるだろうが、基本的に勝っていようと負けていようと、自分の闘いを言葉にする事にためらいが無い。ためらいが無いと言うことは、それだけ確固たる確信の上に立って行動しているという意味でもある。
 
 今回の特集のテーマを考えた時に、最初に頭に浮かんだのはエンセンだった。
 大和魂という言葉を軸にエンセンが語る、格闘技観は常に魅力的だ。
 だが、今年に入ってエンセンの戦績は2戦2敗。
 テーマの関係上インタビュウのタイミングとしてはどうしてもその敗戦に触れて行かざるを得ない。ボブチャンチン戦後、某誌に掲載された対談では「世界一になりたいとは思っていない」という発言もあり、最近のエンセンは2連敗の影響から弱気になっているのでは、という懸念もある。ただ、エンセンならその敗戦経験から、自分なりの格闘技哲学を言葉にしてくれるにちがいない。そう考えて、あえて、今回のテーマをストレートにぶつけ、PRIDEに闘いの場を移して以来の一年半を総括してもらった。ケァー戦、ボブチャンチン戦の2連敗からエンセンが得たもの、そして、前述の「世界一にはなりたくない」という問題発言の真意、あるいは古巣である修斗との関係、そして視野に入ってきたという引退への道のり、そして今後の闘いの展開まで、現在のエンセンが考える闘いの全てがぶち込まれた、密度の濃いインタビュウとなった。

「私の心の中に、修斗は始まったところだから。どういうことがあっても忘れられない事だからね、出来れば最後にシューティングに戻りたい」

 この、最後の引退の舞台のビジョンを示唆したこの発言は、ファンにとっては衝撃的だろうと思う。だが、エンセンとていつまでも現役で居るわけにはいかない。今日明日というスパンではないにしろ、彼もこれから自らのキャリアの集大成である収穫期に入ろうとしているのは事実である。自分の格闘家としての人生の着地点をどう迎えるか、そういうことを考える時期に入ったということだ。
 
 果たしてエンセンの心には今どんな思いが去来しているのか、そして、格闘家としての最終コーナーをどういう形で走りきり、そしてどう完結させようとしているのか。じっくりとその言葉に耳を傾けていただきたい。


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TABLE OF CONTENTS
1)ボブチャンチン戦の傷跡
2)世界一にはなりたくないヨ
3)引退試合はシューティングでやりたい
4)自分の命より大事なもの
5)今ぐらいの有名さ、もう嫌ネ
6)勝つのが一番の目的じゃない


 

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