マーク・コールマン インタビュウ

『僕にはワイフと二人の娘がいる』

 NHB戦士としてのマーク・コールマンのキャリアは、今、ある種の曲がり角を迎えつつある。これまでも挫折多き人生を歩んできた苦労人のコールマンが、今心に思うものは何だろう。
 かつて彼は将来を嘱望されたオリンピック代表レスラーだった。しかし金メダルにも手が届くと言われた92年のバルセロナでメダルを逃してしまい、失意の日々を送った彼はいつしかアルコール漬けの人生に足を踏み入れる。
 自己再生を期してアルティメット参戦。ぶっちぎりのパワーファイトで一機に頂点に駆けのぼり、アマレスラー最強説を追い風にチャンピオンに君臨したのもつかの間、その野望をキックボクサー、モーリス・スミスに蹴り砕かれた。ベルトを失って以来、彼の戦いはどこか精彩を欠いた物となりつつある。爆発的なタックルの威力は今も健在だが、直線的で応用の効かないファイトスタイルは、そのまま彼の人生の軌跡を象徴しているようにも感じられる。
 怪我も多く、今やトップファイターとしては盛りを過ぎた感のあるコールマン。昨今は、プロレス転向の誘いも多いと聞く。それも人生の選択かもしれない。彼は今、アスリートとしてのプライドと生活人としての安定の間で、不安定な天秤のようにゆらゆらと揺れている。

 同じアマレス出身とは言え、彼はダン・スバーンのように威厳を漂わすこともなければ、ドン・フライのようにスマートに人生の舵を切る器用さも持ち合わせていない。かといって、マーク・ケァーのカリスマともまた違う。どこか不器用で、人間的な弱さを持ち合わせた心優しきファミリーマンであるがゆえに、多くの迷いや弱さが彼を苦しめる。超人になりきれない男の苦悩。
 彼の放浪と迷いは、そのままNHB界に生きるファイターの一つのひな形でもある。過酷なファイトと、決して高いとは言えない収入、そして一つの勝利一つの敗北で、天国と地獄を遍歴する移り気な世評、そんな条件のなかで命を削って戦うしか生きるすべを持たない男達。彼等は求められるがままに国境を越え、日々鉄柵のなかで、そしてリングの上で殴り合い、血を流し、関節をきしませて生きている。そして、心は幾重にもねじ曲げられ捻り潰される。

 この日、バックステージで倒れたケビン・ランデルマンも彼を慕い、彼の歩んだ道を辿った結果、この場所にたどり着いた男の一人である。天使のように無邪気であり、悪魔のように単純な男。彼もまたコールマンとは違う意味で、どこか場違いなNHB戦士なのかもしれない。そんなケビンとの交流を、苦笑い交じりに語るコールマンの表情は限りなく人間的な魅力に溢れたものであった。例えファイターとしての存在が徐々に軽視さるようになった今でも、それは変わることが無い。そんな心優しきファイティングボヘミアンの心情と日常に肉薄してみた。[→GO]

(INTERVIEW/藤間敦子 TEXT/矢作祐輔 CAMERA/井田英登)


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