「優勝? ロイド、ロイド、ロイドだよ、ガッハッハッ(笑)」

Interview : 山口龍
Camera : 井田英登

 老人は面白い。
 年齢とともに肉体が衰え、生々しい欲望が抜け落ちてくると人間というのはかくも面白いことを考え、語るようになるものなのか、といつも思ってしまう。時にスピリチュアルであり、時に滑稽であり、時にほのぼのとしている。そこに、微妙な自意識の拡大がバイアスを掛けるのか、馬鹿げた若い日の経験を語るときにも、他人事のようにフリーズドライされたフィルターがかかり(別名ホラともいうが(笑))事実かどうかはともかく、楽しいストーリーの語り手になってくれる。

 まして、生涯格闘技に関りながら老境を迎えた人々は、我々にとって非常に興味深い。やはり人と戦うという非日常の世界に生きてきただけあって、感覚も常人とは違うし、人気商売でもあるので、人を楽しませてナンボという感覚もある。そのうえ、後半生を指導者として生きてきた人も多いので、育てた選手の意外なエピソードなどの宝庫でもある。

 そこで、「BoutReview XX」では、こうしたオモロイ格闘老人達(といってもまだまだ50代あたりの壮年の方がほとんどなのだが)との楽しい茶飲み話を、皆さまに紹介していくコーナーを企画してみた。あくまで、機会があればと言う形でお話をうかがう事になるので、毎号掲載というわけには行かないかもしれないが、取材の折々で触れた、格闘技の、そして人生の達人達の貴重なお言葉をおつたえしよう。

 さて第1回は、20世紀最後の暴君ピーター・アーツを、そして伝説の拳ブランコ・シカティックを育て、世界有数の名伯楽として知られるオランダキック界の巨匠ドージョー・チャクリキのトム・ハーリック氏に登場頂いた。
 現在は、チャクリキジムの経営権も他人に譲り、単にコーチ兼マネージャーとして気軽な立場で選手育成に関るトム翁だが、まだまだこの領域では現役そのもの。かつて育て上げた名選手たちが手元を離れても、そのライバルを次々に育てあげ、隙あらば叩き潰してやるという野心に燃えている。というとまるで、星一徹のような鬼コーチを想像しがちだが、この人非常に気さくで、なじみやすい方でもある。いつもにこやかで、ダンディ。いい意味で肩の力が抜けていて、威張り散らすようなところがまるでない。若干、ルーズで、調子のいいところもあるようだが、一緒にいて絶対楽しい人物であることは間違いない。日本からひょこっとやってきたノブのような若者を、ひょいと懐にいれて温かく迎えてしまう面倒見のよさをみても、この人に多くの若者が付き従うのがわかる気がする。
 どこのコーチでもそうだろうが、弟子を溺愛する事に欠けてはこの人に勝る人もまた居ないだろう。今回のインタビュウで、何回、ノブとロイド(ヴァン・ダム)の名前が連呼されたことだろう。自分の育てた選手は必ず世界の頂点に立つのだと信じてやまない、この強い信念がまたこの人の魅力である。

 テレビの中継で観られる、あの大声を上げてマットを叩き、対戦相手を選手以上の強力な視線でにらみ付ける怖そうなオジサンの奥には、こんな愛すべき人格が隠れていることを知っていただきたい。(井田英登)


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TABLE OF CONTENTS
1. ファイターに必要なのは、何よりもハート
2. 翁、アーツ&シカティックを語る
3. ノブは負けたけど今日はハッピーさ!


 

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