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Text:薮本直美
Interview:薮本直美・新小田哲
Camera:薮本直美
格闘技は「非日常」である。人間相手に肉体的なダメージを与えることで「勝敗」というシンプルな結果を導き出す。その方法も結果も、日常生活で得られないものだからこそ、観客は格闘技に引きつけられる。そして、その中で「勝ち続ける」事は尋常ではない。だが、チャンピオンと呼ばれる存在は、ただ「強い」だけでは勤まらない。
その世界の頂点に立ち、その競技を象徴する存在として君臨する「非日常」の主でなければならないのだ。その戦いには一つの世界観が凝縮されており、挑戦者も、また観客もその頂点を見上げながら、競技のパースペクティブを描く。この民主主義のフラットな現代社会のなかで、集団を睥睨し腕力によってのみ集団を統率する”不可侵の頂点”それが「チャンピオン」という存在である。
逆に言えば、その王者が強い引力を放っていなければ、その競技には格闘技としての魅力がない、ということにもなる。腰のベルトはその象徴であり、引力の中心でなければならないのだ。
ここにデビュー以来一度も敗れることなく頂点に上り詰めた男がいる。
彼はチャンピオンとしての資格を十二分に有し、事実ベルトを腰に勝ち続けた。
しかし、その存在は奇妙に静かで、王者としての光を放つものとは言い難いものであった。そして今、その男が無敗のままリングを去る。
誰にも追い落とされるでもなく、ただ自分の意志で彼は現役にピリオドを打った。チャンピオンでありながら、まるで、無名の三回戦選手のようにひっそりとした去り際ではないか。ファンもその特異な光景に疑問を抱くこともなく、ただ看過するのみ。
「王」という名で呼ばれながら、その非日常の力を一度も振るうことなくその座から歩み去った男、西村鋼太。
まるで”王者”という存在の陰影(ネガ)のような選手生活を送った西村の、その生き様を通して、チャンピオンという存在が解体されつつあるキック界の現状を追ってみた。 [>ENTER]
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