時たまCSを観ていると、とんでもないC級珍品映画にでくわす事がある。過去にも「7人のドラゴンvs吸血鬼」なる誰も見向きしないような、ウェスタンホラーカンフー映画(そのまんまだね(笑))を発見して感涙した覚えがある私、矢作祐輔が、映画、音楽、演劇、テレビショッピングなどスカパーで楽しめるコンテンツの全てから、特に格闘技ファン向けに拾ってきたコネタをお届けしていくコラムであります。
今回御紹介しようという「サイレント・フルート」も、まさに70年代のカンフー映画ブームに乗ってうっかり作られてしまった腰砕けの逸品。アクションシーンもダサダサだし、アメリカ映画のくせにヌーベルバーグを意識したような芸術志向がの演出がことごとくツボを外していて、映画館で1700円払ってたら、まずスクリーンにライダーキックをカマしたくなるボケ作品。ま、その点、CSは他の名作を見れば十分元が取れるので、落ち着いて揚げ足とりに専念できるのがいいところ(笑)。
大抵このテのダメ映画というのは大ヒット映画の二番煎じ、三番煎じででっち上げられた低予算映画で、ビデオ化も期待できないような代物。ただお金はないなりにストーリーがちょいとヒネってあったり、大スターの無名時代の出演作だったりという発見があって、もう普通の作品では満足できない事情通には結構たまらない作品だったりすることがありまして、昔はこういうのは昼間のテレビ東京が独占状態だったんですが、300もチャンネルがあるというデジタル衛星時代に入って、ソフトが払底したのか、ちょこちょこスカパーの映画局でも顔を出し始めているんですなあ。
だが凡百の“マネっこドラゴン映画”とこの映画の違いは、実はこの映画が元祖ドラゴンのブルース・リーの脚本作品で、「燃えよドラゴン」でブレークする以前のリーが自らの格闘技哲学を映像化するためにノリノリで企画していた作品だったということなんですな。御存知の方も多いと思うが、ブルース・リーは自らもジー・クン・ドーというカンフーベースの武道の創始者でもあったわけで、ただのアクションスターというより「映画にも出る格闘家」というのが実際なのですな。丁度テレビドラマ「グリーンホーネット」で知名度も上がって、これから自分の理想の格闘技観を映画にしてやるぞという気負いが、作品にもムンムン充満しております。
山奥のいかにも少林寺を思わせる寺院で格闘技のトーナメントが開催され、その優勝者には伝説の天才格闘家が記した格闘技の秘伝書が与えられるというので、若き格闘家が血眼になって参戦してくる。この山奥の寺院という舞台設定といい、賞品が武道の奥義を記した秘伝書と言うのがもうアナクロでたまりません。当時格闘技と言えばイベントでもショーでもなくて、「道」の追及だった(別の言い方すれば“お金が欲しい”とか“人気者になりたい”とか言うチャラけた了見でやるもんじゃなかったんですな)というのがヒシヒシと伝わってきます。ところが主人公は反則負けであっさりトーナメント優勝を逃してしまうんですな。猛者同志がバシバシ闘っていくんだなという“BAKI”的世界観を期待したら、見事に裏切られます(笑)
ショボーンとなった主人公が山を下りていくと、なぜかそこで盲目の武術家が山賊(!)と闘っているのに出くわしてしまう(笑)もう脈絡なんか皆無ですが、この盲目の格闘家に惚れこんでしまった主人公はこの人に弟子入りするんですね。この師匠をこれまたカルトTVドラマ「燃えよカンフー」で、ガンマンとカンフーで闘い、コオロギに格闘哲学を問うてしまう(笑)賞金首の求道的武道家役で一世を風靡したデビッド・キャラダインが演じております。
そして、主人公が脱落したトーナメントの方はというと、なぜか優勝者が殺されてしまって、賞品の秘伝の書も盗まれてしまう。じゃあ格闘技強くても全然ダメじゃんって事になっちゃうんですが、そこら辺も一切フォローなしです(笑)後半このお宝武道書を取り返すのが主人公のミッションになるんですが、なんと主人公の邪魔をする悪玉グループの親分が、またデビッド・キャラダイン。正義と悪の二面性を表現したかったのか、ただ単に予算が無かったのかは知りませんが(笑)。
当初のプラン通りリー主演で映画化されていれば、もっとアクション満載の気の利いた映画になって居たんでしょうが、予算不足で頓挫してしまった物をリーの死後、カンフー人気にあやかろうとして無理やりでっち上げた作品だけに、リーが脚本に盛り込もうとした東洋的武道観を、ハリウッドの映画人が変にこねくり回した分、訳の判らん演出になった感じで。作中で語られる哲学や、秘伝書の正体なんかも、上手く映像化していれば、本当の意味でカルト的作品になりえる要素が沢山あっただけに残念。ずたずたの切り返しで見せ場のアクションシーンを台なしにしている編集ぶりを観ても、多分この監督、限りなくド素人に近い人だったんじゃないかなあとか思ったり。トリビア的興味で言えば、彼の吸血鬼俳優“怪人”クリストファー・リー先生が“リー繋がり”で登場しているのに御注目。秘伝書を守るいかにも“宗教系”の人で登場。“フー・マンチュー”的なインチキ東洋人ゴッコが一番インパクトあるかも(笑)。でもそれだった、ピーター・セラーズを呼んで欲しかったなあ…。