第9試合(ヘビー級3回戦)
トーナメント・オブ・Jの時、菊田は本当に格好よかった。 自分よりはるかに体重が上回る慧舟会の選手をいとも簡単に転がし、あっという 間にタップを奪ってしまう。レモン・イエローの広告を縫い取った菊田の柔道着は、いかにも新しいヒーローの出現を思わせるものだった。その実績を受け、リングスに登場した時も、あまりに慎重になりすぎたきらいはあったものの、実力差を見せつけてバトラーツの田中稔を一蹴している。 だが、念願のバーリ・トゥード戦では、今まで勝ち星に恵まれていない。ヘンゾ 相手には、殆ど上を制していたにも関わらず、50分の長丁場の末に敗北。キャリア 的には下のはずの高田道場の松井俊介に対しても、まさかの引き分け劇。 修斗公式戦への初挑戦で、果たして、どこまでの闘いを見せられるか。相手は、 エリック・パーソンを、修斗初戦で簡単に撃破したポール・ジョーンズ。強敵である。 試合はコーナーでの相撲状態に終始した。 すぐに組み付き、パワーでテイクダウンしてしまおうとするジョーンズ。とはいっても、柔道で鍛えた菊田は、簡単に倒されたりはしない。だが、逆にテイクダウンに持っていく程の思いきりの良さがあるわけでもない。結果は、コーナーで延々 と続く押し合いと、差し手争いである。 コーナーに押しつけながら、腿への蹴りやボディ・パンチを見せるジョーンズ。 右手を何とか巻き返して有利な体勢をとろうとする菊田。時折膝蹴りも見せるが、完全に単発でダメージは与えられない。ジョーンズの息もだんだんと上がっていく が、菊田もかなりの汗をかき、スタミナが消耗していく。二回ほど体を入れ替えることに成功するが、1〜2分で、また、戻される。 そして、3ラウンドとも、ゴング間際に菊田が根負けして倒されてしまう。パン チにいくジョーンズだが、ポジショニングをきっちり取っていないため菊田が足をつっぱり、なかなか有効打が入らない。一方の菊田も、やみくもに守っているだけ で、下から有効に攻めようという形にはならない。 そして、試合終了のゴング。 道着を脱いだ時の菊田の動きは固い。 慎重過ぎるというか、攻めに入る際の思いきりがない。この殻を破らなければ、 トーナメント・オブ・Jの時の勇姿は戻ってこないだろう。 (山名尚志) HTML編集:井原芳徳 |