田村に与えた衝撃は想像に難くない。

　
　雪辱の機会はなかなか訪れなかった。

　オランダの試合で、ギルバート・アイブルが、オーフレイムを破壊してしまったのだ。前田のリングス・ラスト・マッチ興行で組まれていた雪辱戦は、予定も立たないまま、流れてしまう。

　そして今日。

　田村は、戦前、オーフレイムを意識していないと語った。しかも、オーフレイムは、欠場明けである。

　しかし、それでも、期待せざるを得ない。

　
　猫のように首をすくめた独特の構えでプレッシャーをかけるオーフレイム。

　切れ味の鋭い右ロー、ハイ。田村も意地で蹴り返す。

　だが、次の瞬間・・・

　すっと伸びたオーフレイムの右掌底が、田村の顎を打ち抜く。ふらふらっと崩折れていく田村の体。オーフレイム、健在である。

　
　今度はタックルを仕掛けるオーフレイム。そのままテイクダウンし、サイドに回っていきなりの膝十字。先に田村をしとめた技だ。緊迫感が走る。

　田村も何とか切り返し、マウントを奪取する。だが、それも簡単にひっくり返してしまうオーフレイム。底なしだ。しかしこれで終わってしまっては昨年の悪夢が再来してしまう。

　ガードから三角、そして腕十字へと展開する田村。見事にファースト・エスケープを奪取した。完封されたあの時とは違う田村がそこにいた。

　
　こうなれば田村のペースである。

　グラウンドで、お得意の激しいフェイントを見せ始める田村。オーフレイムもそこについていくが、イニシアティヴを奪いかえすまでにはいたらない。お返しといわんばかりに膝十字を極める田村。

　オーフレイムも牙を失ったわけではない。スタンドで再開すると、黒人らしいしなやかでバネの効いたハイキックが、短い間合いから田村を襲う。そしてコーナーに押し詰めて膝げり。田村、２ダウン。新ルールでは、もう、後がない。

　とはいえ、打撃で押し込まれても、心理的なプレッシャーは少ない。逆にラッシュ仕返す田村。オーフレイムは、それにつきあわず、敢えてテイクダウンを取る。「打撃で勝つのは当たり前。グラウンドで勝ってこそ」というオーフレイムの自負が見えてくる。足をとってハーフ・ボストン・クラブ。だが、極まらない。

　
　完全に勝負を決めに来た田村。オーフレイムの足を取り返し、立ち上がって、リング中央にひきずる。そしてマウントから、両腕をロックした後ぶちきり、がっちりと腕ひしぎ十字固め。見事に雪辱を果たした。

　「僕は、僕のスタイル、Ｕのスタイル、リングスのスタイルを守り続けます」。前田引退に向けての鮮烈な後継者宣言である。

　
　しかし、これからの田村の行く道は、決して平坦ではない。

　頑なにＵＷＦのスタイルを守り続けたい田村。ゴング格闘技のインタビューでは、周囲を、進化しすぎると評し、自分はプロフェッショナル・レスリングをやり続けたいと宣言した。まさに「赤いパンツの頑固者」である。

　だが、バーリ・トゥードへの対応は、避けようと思っても避けられるものではない。

　田村はどうするのか。

　何をもってして前田の後を継いでいこうとしているのだろうか。

（山名尚志）

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取材：山名尚志　薮本直美　カメラ：井田英登　薮本直美
HTML編集：井原芳徳