UFC 33 "Victory in Vegas"
2001年9月28日（金）
米国・ネバダ州ラスベガス　マンダレイベイ・イベントセンター

「幕開けは“いい試合”。しかし、“魅せる試合”だろうか？？」

この初代ミドル級王者決定戦が、ペイ・パー・ビュー中継の第一試合だ。総合格闘技では１６戦無敗を誇るギル・キャスティロだが、ローカル大会を主戦場にしていたため、アメリカのファンの間での認知度は低い。しかも、UFCデビュー戦が王者決定戦というのはUFCミドル級の層の薄さを象徴しているといえよう。いきなりタイトル戦というのは興行的にはサービス精神に溢れていて悪くないと思うが、「デビュー戦がタイトル・マッチ？何だいい加減だな」と初めてUFCを観る人たち、総合格闘技に否定的なスポーツ関係者たちに言われてもしょうがないマッチメークとも言える。

対するメネーも総合格闘技３４勝３敗１引き分け。両雄とも数字では申し分ない。しかし、世界が認めるミドル級の猛者たちに勝ってきた二人と言えるのだろうか？　実質の面で一抹の不安が残るのだが．．．。

試合は第１ラウンドからヒート・アップした。メネーは試合開始とともにローキックを放つが、キャスティロに距離を詰められてすぐにフェンス脇で差し合い状態となる。キャスティロは肘打ちを３発ほど繰り出すとメネーの足を掴みグラウンドに倒す。だが、メネーは一瞬の隙を逃さずフロント・チョークでキャスティロを捕らええる。しかし、キャスティロは、これを巧く外しサイド・マウントへ移行。一進一退の攻防のまま１ラウンドが終了した。コーナーに戻ったメネーのある仕草をカメラが捉えた。何だかかゆそうな感じで眼をいじっている。コンタクト・レンズを外しているようだ。
第２ラウンドでも同じような展開が続いた。キックを紙一重でかわしグラウンドに持っていくキャスティロ。すかさずフロント・チョークで対抗するメネー。巧く捻るように体をまわしてエスケープするキャスティロ。素晴らしいテクニックの応酬だ。

ターニング・ポイントは第３ラウンドにやってきた。差し合いから足をスイープしようとするメネーに、脇腹へのひざ蹴りで対抗するキャスティロ。その時、メネーの右フックがキャスティロを捕えた。足を取ろうとするメネーの攻撃を防御することに集中していたキャスティロの頭部にねじ込んだ渾身の一撃だった。大きく横に飛んだキャスティロだが、何とか持ちこたえメネーの追撃をかわし再びグラウンドへもつれ込む。が、メネーは自分より背丈の低い相手を殴れるスタンディングの方が有利だと察知したのか、すぐに立ち上がりグラウンドにはつき合わない。このあたりから、試合の主導権を握っているのは明らかにメネーだった。

第４ラウンドでもメネーの強烈な打撃がキャスティロを襲った。特にフェンス脇の差し合い状態から出したひざ蹴り２連発はキャスティロの顔面を砕いた。テレビで観ていてもキャスティロの顔からかなりの血が流れているのがわかる。途中、グラウンドでキャスティロをフロント・チョークに決めてひざ蹴りを放ったメネーに減点１が与えられたが、それ以外はどこからどう見てもメネー優勢のまま最終ラウンドを迎えた。

第５ラウンドも同じような闘いが続いた。スタンディングでひざ蹴りをモロに喰らいながらも、何とかメネーをフェンスまで押し込みグラウンドへ持っていくキャスティロ。だが、メネーはすぐにスタンディングに戻り、容赦のないパンチ、ひざ蹴りを連発する。やっとの思いでメネーを掴んだキャスティロの腫れ上がった顔面がアップで写し出された。ノックアウトだけはされない。そんなキャスティロの強靱な精神力だけが感じられる。ここで試合は終了した。

判定は文句無しの３−０。初代UFCミドル級王者デイブ・メネーが誕生した。両者ともに技術と力を出し尽くしたいい試合だった。

でも、何かが物足りない。寝技なら任せろ、打撃なら俺がベストだ、と思わせる説得力のある攻撃や、観客の予想を大きく覆すドラマチックな動きというのが無かったせいと思われる。そう、トータルバランスという点では優れているが、闘いの中にテーマが見当たらないのだ。「これはスポーツだ。プロレスではない。勝つことが美学だ」という格闘技マニアの意見が聞こえてきそうだが、プロ・スポーツから「魅せる」という要素を完全に排除することはできない。１０年近くに渡りボクシングのヘビー級を独占したラリー・ホームズが何故あそこまで不人気だったのか？　ただ単に試合に勝つだけでは駄目なのか？　UFCミドル級の最大のテーマはここにあるのかもしれない。