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Report

UFC 33 "Victory in Vegas" 2001年9月28日(金)
米国・ネバダ州ラスベガス マンダレイベイ・イベントセンター

「アメリカ総合格闘技の“インディペンデンス・デイ”」

Text by : Shu HIRATA(シュウ・ヒラタ/ニューヨーク在住フリーライター)
Pics by : Sherdog.com(シャードッグ/米国の総合格闘技ニュースサイト)

(編集部注:この原稿は11月2日のUFC 34より以前に書かれたものです。あらかじめご了承下さい)


プロローグ:「嫌な予感」

にこの時がやってきた。

ラスベガス。アメリカ格闘スポーツの最高峰、正真正銘のトップ・ステージだ。総合格闘技にとっては禁断の地とも言えるこのラスベガスにUFCが進出する。しかも、 スポーツチャンネルのESPN2あたりで深夜オンエアされているキックボクシングやプロ空手とはケタが違う。出場する選手のレベルもそうだが、何たって興行としてのショーアップのレベルが違い過ぎる。まぎれもないビッグ・イベントだ。世間一般に認知されるチャンス。アメリカの総合格闘技ファンは、みなそう思い、この日を心待ちにしていた。

高地にあり空気が薄いので喘息が治るという逸話があるマイル・ハイ・シティー、コロラド州のデンバーでスタートしたUFCも、8年目にしてやっとここまできた。ホイス・グレイシーが二連覇しようが、シャムロック、スバーン、コールマンらアメリカン・レスラーが勝ち始めようが、80年代最高のキック・ボクサー、モーリス・スミスがタイトルを獲ろうが、オリンピック・メダリストのケビン・ジャクソンが数秒でフランク・シャムロックにタップを奪われようが、どのスポーツ・ニュースや地方新聞もUFCに触れてくれることは絶対になかった。そう、アメリカの一般メディアは、93年の開催当初からこの総合格闘技というジャンルを文字通り「無視」し続けてきたのだ。あんなものは街の喧嘩と変わらない、スポーツじゃない。メディアも政治家もスポーツ関係者も、プロモーターや視聴者の大半も、意見はみな同じだった。

今回のUFC 33も一般メディアには無視されるに違いない。それこそ、ホリフィールド対ボウの再戦の時のように、パラシュートにぶら下がったどこかの輩が試合中にオクタゴンにでも突っ込んでくれでもしな限り、普通のテレビで、いや、ケーブルのスポーツ専門チャンネルでさえも、オクタゴンの映像が見られる事はまずないだろう。

でも、ラスベガスでやるというのは凄いことなのだ。
リングサイドにドン・キングの白い立て髪が見えなくても、大手ケーブル局がペイ・パー・ビュー中継しなくても、ラスベガスで大きな格闘技の大会が開ける。要するに、アメリカのアスレチック・コミッションの中でも影響力・政治力が段トツにある、あのネバダ州のアスレチック・コミッションが総合格闘技を「スポーツ」として認めたという事だ。大袈裟と言われるかもしれないが、これは快挙だ。ネバダ・アスレチック・コミッションが承認したという事は、全米レベルで認められたと言っても過言ではない。アメリカの総合格闘技ファンは一気に盛り上がった。これまで、この国の格闘スポーツを独占してきたボクシングというスポーツと、やっとガップリ四つになれる。総合格闘技を支持し続けてきたファンにとっても重要な興行、これが UFC 33だった。

UFCを買収したズッファにとっては、今回の興行は「重要」という言葉では足りなさ過ぎと言えるほど大切なものだったに違いない。アスレチック・コミッションは認めてくれた、あとは観客にどうやって総合格闘技を認知させるかだ。会場に足を運んでくれた人、ペイ・パー・ビューをオーダーしてくれた人、全ての観客・視聴者に UFCそして総合格闘技の面白さを満喫してもらわなければ。UFCのドル箱スター、ライト・ヘビー級王者のティト・オーティズの防衛戦が今大会のメインだ。もちろんティトだけで試合は成り立たない。強くて素人受けしそうな闘い方をするチャレンジャーを連れてこないとダメだ。アメリカのスポーツ・ファンが手放しで「スゲェ!」と認めるほど強烈な選手でなくては...。

そこで白羽の矢がたったのがビクト−・ベウフォートという選手だった。
アメリカのスポーツ・ファンはボクシングを観る機会が多いので、パンチの優れた選手への評価がどうしても高くなってしまう。そんな彼らにとって、4年前に彗星のごとく現れたベウフォートのハンド・スピードはまさに驚異だった。トラ・テリグマンのような優れたレスリング技術を持った選手や、タンク・アボットやスコット・フェローゾのような巨大な喧嘩屋をもなぎ倒した、あのパンチ力とそのスピードにアメリカのファンは唸った。ヘビー級であれだけのスピードでパンチが繰り出せるのなら、ホリフィールドにも勝てるんじゃない? タイソンとやらせてみたいね、と。

だからこそ、UFCを「観る機会があったら観る」程度のスポーツ・ファンからも今回のメイン・イベントは大いに注目されていたのだ。イベントに花を添えるために契約したスポークス・ウーマンのカーマン・イレクトラだって所詮は二流タレント。UFC を観たことのないスポーツ・ファンに「これ観てごらん」と堂々と自信を持って薦められるのは、分かりやすくて強烈なベウフォートのハンド・スピードとパンチだ。

がそのベウフォートが怪我をして欠場となった。
しかも、ズッファがべウフォートの替りとして連れてきた挑戦者はウラジミール・マティシェンコ。アメリカの熱心な総合格闘技ファンの中でさえも馴染みの薄い選手だった。
こんなマッチメークで大丈夫なのだろうか? ライン・アップを見ると、確かにいい選手が揃っている。しかし、どのカードもファンの期待を膨らますほどのものではない。果たしてこのマッチメークで総合格闘技ファン以外の人がペイ・パー・ビューをオーダーしてくれるのだろうか? いくら面白い試合をしても世間が注目しなければ今回の大会にとって意味がない。
そんな不安を抱きながら、9月28日の夜を迎えたファンは多かったに違いない。

午後9時30分。UFC 33のペイ・パー・ビューが始まった。
待望のUFCベガス進出なのに、なぜだか嫌な予感がする。テレビで観る限り、会場にいるファンはかなり熱くなっているようだ。しかし、仕掛け花火とスクリーンに映し出されるオープニングの映像と、リング・アナウンサーの「ウエルカム・トゥ・ザ・アルティメット・ファイティング・チャーンピオンシップ!」で、ペイ・パー・ビュー中継が始まるぞ!と観客の声援を煽るのだから、これぐらいのお祭りムードは当たり前なのかもしれない。解説者のジェフ・ブラトニックとゲスト解説のフランク・シャムロックがブラウン管に映し出された。え!?今回の中継は5試合のみ?という事は日本の修斗から乗り込んできた中尾受太郎やPRIDEにも出場経験のあるファビアノ・イハの試合はオンエアされないのか。少しがっくりだ。でも、チャック・リデル、ジェンズ・パルバーとティト・オーティズはちゃんと観れるんだよね? まぁ、中尾もイハも試合順の上では前座だからしょうがないとしよう。でも、なぜか不吉な予感を拭い去ることができない。とはいえ僕がいくら心配したところでどうにもならない、とにかく楽しもう、それなりにいい選手が揃っているのだから好試合が期待できる筈だ...。
しかし、ペイ・パー・ビュー開始から約3時間後、私の嫌な予感は的中してしまった。[Next →]


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