マーシオ・フェイトーザの伝説は、ホイラー・グレイシー撃破に始まる。パウンド・フォー・パウンドでは最も強いのではないかと言われたホイラーを柔術マッチで敗った男。たちまち日本でも名前を知られるようになったフェイトーザは、その後、別ルールでではあるが、シューター達とも出会いを果たす。
アブダビ・コンバットで宇野に、カナディアン柔術の大会でルミナにそれぞれ完封勝ち。
そのフェイトーザが遂に修斗の、つまりは、「打撃あり」のＮＨＢのリングに立つ。
迎え撃つのは関西シューターの雄、三島である。
どこか人を食ったようなところがある。本人も、セコンドも、である。何せ、「いけ、毒蛇（コブラ）固めや！」と声がかかるのである。三角や十字を狙え、というのなら話は分かる。しかし、「秘密兵器」コブラ固めというのだから恐れ入る。だが、肝心の試合展開には、ナチュラルな力強さがあり、決して際物ではない。
おまけに、先の大阪大会では、ついに秘密兵器コブラ固めで相手選手を秒殺してしまった。はったりどころか、大まじめだったわけだ。
伝説の強豪に対峙する三島。実は、対オーソドックス用の戦法を考えていたところにサウスポーで構えられてしまったため、この時点で既にパニクって「頭真っ白」になっていたという。しかし、そんな動揺は全く外にはでていない。逆に、フェイトーザの方が、打撃ありのルールのせいだろうが、緊張が目立つ。
試合開始。
組み付き、差してフェイトーザを振り回し、そのままテイクダウンしてしまう三島。あっ・・・という展開である。あのフェイトーザを簡単に下にしてしまうとは。
もちろん、フェイトーザも、じっくりハーフからガードに戻し、がっちりと体勢を作る。三島も、無理にパスに行こうとはせず、パンチのチャンスを狙う。だが、フェイトーザが下から密着し、打たせない。
１Ｒ残り30秒、パンチに行こうと上体を起こし、スタンドに戻すフェイトーザ。
だが、すぐに三島がまたテイクダウンしてしまう。力強い、というか、頼もしい。
とはいえ、フェイトーザも流石にこれで終わるような選手ではない。
次第に修斗の闘い方に慣れて来たらしいフェイトーザ。２ラウンドに入ると、組んで来た三島の首をがぶり、極めにいこうとする。足をかけて倒しにいく三島。バックを取って上になろうとするフェイトーザ。それをさらにひっくり返し、インサイド・ガードになって首を抜く三島。
またしても三島が上を制する。
宇野やルミナが簡単にテイクダウンされたフェイトーザ相手に、ここまで一切上を許していない。
しかし、２Ｒ終盤、遂にフェイトーザが主導権を奪いに来る。上体を三島が起こしたところで下から脱出。三島が組みに来たところを、崩しながらバックを取り、それを嫌がって正面に向いた三島をガードに押し込めた。ここはすぐゴングとなったが、フェイトーザが本調子を出してきた感じなのに対し、三島は、逆に、馬力が切れてきたような印象。
この差は最終ラウンドにますます広がっていく。
不安げな表情を時折見せるようになった三島に対し、フェイトーザの汗でびっしょりの顔には不適な自信が漂い始める。タックルに来た三島を受け止めてそのままコーナーに押し詰めて簡単にテイクダウン。三島のガードをすぐに抜き、ハーフガードの状況からさらに残る足を抜きにいくフェイトーザ。残り３分半。簡単にパスされてしまえば、打撃、もしくはサブミッションで一本取られてしまうかもしれない。
粘る三島。
ハーフガードをどうにか守りたい。
足を抜きにいくフェイトーザ。その度に、足をまき直し、必死でしがみつく三島。１秒、１秒と残り時間が減っていく。そのスピードが余りにも遅く感じる。ようやっと２分を切る。１分台に入る。ここからが長い。
だが、まだパスされていない。
残り30秒、20秒、10秒、５、４、３、２、１・・・
ゴングが打ちならされる。
伝説は、やはり、伝説だった。
３Ｒに入ってから、その底知れぬ実力をいかんなく発揮し始めたフェイトーザ。
しかし、前半戦は明らかに三島のものだった。
判定はドロー。浪速のシューターが、柔術の伝説に、修斗リングは甘くないということを教えた瞬間だった。
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