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PRIDE 99.11.21 「PRIDE.8」有明コロシアム

第7試合(10分2R) 
×
 
アレクサンダー大塚
183cm,92kg
判定
0-5
 
ヘンゾ・グレイシー
178cm,81kg

“プロレスラー”アレク、負け方もプロレスラー


 までのPRIDEを支えて来た最大のモチーフは、先に述べたグレーシー一族の神話であり、そこに挑戦するプロレスラーという対決の図式であった。U系プロレスの出身であり、新日との接触もあった桜庭。インディーの経験がある小路。バトラーツ常連のカール・マレンコ。プロレスと格闘技の間をいったり来たりしている小川。そして言わずとしれた高田延彦。
 だが、なんといっても、もっとも「プロレスラーらしさ」を感じさせてくれる選手と言えば、アレクを置いて他にはいない。

 藤原組、という出自はあるにせよ、今のバトラーツは、誰がどう見ようと完全なプロレス、Uの色も殆ど残っていないインディペンデント団体である。ルチャあり、男女混在マッチあり。その中で、アレクは、流血し、タッグで合体攻撃を披露しながら、シリーズを闘い抜いている。そんな最中に、PRIDEの試合を引き受けるという参戦のあり方。体を張っての「プロレスラーらしさ」の表現である。


 だが、何より、アレクの「プロレスラー」としての拘りが感じられるのは、その試合に対する考え方だ。普通、プロレスラーとは言っても、VTに出場するのであれば、「勝負論」を全面に出してくる。ところが、アレクは、少し違っている。VTであろうと「試合を魅せる」ことに常に頭がいっている。かつてリングスで坂田と闘い、レスリング技術で圧倒して判定勝ちをもぎとった際にも、前田代表にその大会最高の試合だったと評価されたにも関わらず、アレクはうかない顔をしていた。押さえ込みからのグラウンドでの取り合いに終始したことにどうしても満足できなかったのだ。「ヘイズマン戦でやったような思い切った掌底をやりたかったんですけどね」。ちなみに、同じくリングスで行われた対クリストファー・ヘイズマン戦では、スタンドでぶんぶんフック気味の掌底を振り回してヘイズマンを圧倒。見事な勝利を収めている(ヘイズマンは、アレクの掌底で、内耳を負傷。終盤まともに動けなくなっていた)。
 こうしたアレクの発想には賛否両論がついて回る。とりわけ、先の高田戦のように、いわゆる「プロレス技」を披露することに終始した挙げ句、負けを喫した場合などには。だが、コアなプロレス・ファンにとっては、アレクのあり方はたまらないものだろう。プロレス技を使って勝ってこそ、「プロレスこそが最強」という、かつての見果てぬ夢に近づくことができるのだから。



 Oコーナーから、が鳴り響く。

 明らかに会場のテンションが上がっていく。スポット・ライトの中にアレクの姿が浮かび上がる。巻き起こるアレク・コール。プロレス会場以上にプロレス会場らしい風景。
 アレクが歩みを進める先には、既に、「希代のヒール」グレーシー一族のヘンゾが、道着姿で、待ち受けている。プロレス、それも異種格闘技戦のビッグマッチが行われるかのような盛り上がりだ。

 だが、事前の盛り上がりの通りにいかないのが、異種格闘技戦の常でもある。ましてここはPRIDEの会場。
 結果からいえば、アレクは、ヘンゾの下からの巧みなコントロールに封じこめられた。開始早々のタックルでは、そのままパスしてサイドを奪ったものの、ヘンゾが落ち着いてハーフからガードへと戻し、アレクが戦前に語っていたチョップ乱れ打ちの展開は見られなかった。その後も、スタンドでは、タックルからのテイクダウンを着実に取るものの、下からの攻めが得意なヘンゾに取っては、ガード・ポジションは寧ろ望むところ。1ラウンドでは、まず、三角絞めを、2ラウンド序盤では、腕十字をくらってしまう。二つとも何とか脱出するが、劣勢は否めない。おまけに三角からの離れ際には、見事に下からの蹴りをくらってしまい、鼻血が流れ出す。

 腕十字を切った後、逆に上を取られてしまうアレク。サイド、マウントとポジションを移行しながらチャンスを狙うヘンゾ。ニー・イン・ザ・ベリーの体勢から、今度は、上からの腕十字。しかしここもアレク逃げ、スタンドの攻防になる。
 組み付くアレク。ところがヘンゾがバックに回る。
 そして、なんと、バックドロップ。
 実際には柔道の投げであり、ヘンゾにとって「特別なこと」をしたわけではないだろうが、プロレス「でも」よく見られる技を逆にかけられてしまったアレク。立場が逆転してしまった。だが、それでもバックに回ったヘンゾの左腕を手繰り、アームロックの体勢にいこうとする。
 しかし、極めるだけの体力は既に残っておらず、ラウンド終了のゴングを聞いた。



 
 定とは言え、アレクは、ヘンゾに危ないと感じさせる場面を一つも作れなかった。VTの物差しでは、一本こそ取られなかったものの、完敗に近い。
 しかし、「プロレス」ということで言えば、評価は多少違ってくる。何度もヘンゾの関節を逃げだし、今まで何人ものバーリ・トゥーダーをKOして来た下からのキックを顔面で受け止め、おまけにバックドロップで投げられまでする。このやられっぷりは、ある意味、「見事」だ。同じ判定試合といっても、よくある下からしがみついて膠着しっぱなし、というディフェンシヴなものではない。
 ヘンゾの「強さ」を引き出してみせた、ということでは、アレクは、きちんと仕事をしていったと言ってもいいかもしれない。そして試合後、アレクは、「この試合のためだけに減量をし、甘いものが食べられなかった」とヘンゾに話かけ、チョコレートを貰う約束までしている(アレクは、通常の93kgから85kgにまで減量)。
 転んでもただでは起きない。
 アレクは立派なプロレスラーである。


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レポート:山名尚志 カメラ:井田英登

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