キャッチ・レスリングが置き忘れた物
バトラーツのカール・マレンコ。その名の示す通り、マレンコ仕込みのプロフェッショナル・レスリング、つまりはUWFの源流となったキャッチの流れを引く技術を身につけた選手である。
キャッチ・アズ・キャッチ・キャンとは、現在のフリー・スタイル・レスリングの旧名である。19世紀、ヨーロッパ各国の伝統格闘技がぶつかりあう中で生まれてきたレスリングの二つの統一ルール、グレコ・ローマンとフリー・スタイル。キャッチはそのうちのフリーの源流であり、オリンピックで正式種目化された当初は、そのままキャッチの名前が使われていた。そうして、また、キャッチは、当時勃興しつつあったプロ・レスリンングの基盤でもあった。
競技としての純化と、プロの技術としての、とりわけ関節技や絞め技に重点を置いた展開。ビリー・ライレー・ジムやマレンコ道場のキャッチとマーク・ケアーやトム・エリクソンのフリー・スタイルは、この一世紀の間に平行進化してきた兄弟に当たる。
フリースタイル・レスリングは、言うまでもなく、バーリ・トゥードの世界において抜群の有効性を実証してきた。では、キャッチはどうか。Uの、振り返ってみれば、新日本プロレスリングの「ストロング」スタイルの基盤はVTに通用するのか。
勿論、こんな命題をカール・マレンコ一人に背負わせるのは余りにも酷な話だ。まして、対戦相手は、いまやカーウソン・グレーシー軍団のトップといっても過言ではない若手実力者、アラン・ゴエス。
だが、グレーシー程ではないにせよ、マレンコという名前も一つの神話を背負っている。おまけに、UFCを中心に、サブミッション・レスラーの地位は復興しつつある。関節、絞め技という同種の武器を磨いてきた同士がどう組み合うのか。これはこれなりに興味をそそる展開ではある。
しかし、試合自体はあっけないものとなった。
開始早々、綺麗なタックルでマレンコをこかすゴエス。しかも、その後、マレンコのオープン・ガードをなんなくパスしてしまう。サイドを取って袈裟に固め、それが無理だと見るとニー・インザ・ベリーからマウントを奪取する。そして腕十字に。
これは何とかついていき、体を回転させて上にのるマレンコだが、ゴエスは手首を離さず、そのまま下から十字狙いにいく。どうにかしのいでインサイド・ガードの体勢になるマレンコ。だが攻められずに、突き放され、スタンドに戻る。
そしてまたもやゴエスのタックル。あっというまにサイドからマウントを取り、肩固めの体勢に。マレンコ、タップ。
マレンコ道場仕込みのサブミッションは、その片鱗をすら、見せることができなかった。スタンド・レスリング、そして、押さえ込みの技術で圧倒されてしまい、先に進めなかったのだ。
そもそもはキャッチにもあったはずのフリー・スタイル的要素。
それは、歴史の何処に置き忘れられてしまったのか。
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