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pridePRIDE.13 2001年3月25日(日) 埼玉/さいたまスーパーアリーナ

第8試合  メインイベント
<桜庭×シウバ・感想掲示板:Your Imprssion>
× 桜庭和志
(日本/高田道場)
1R1分38秒

レフェリーストップ(ヒザ蹴り)
ヴァンダレイ・シウバ
(ブラジル/シュートボクセ)

「春爛漫、シウバの恐怖のヒザに桜散る」


 いつかこの日が訪れるのではないかという予感はあった。

 今や、グレイシー一族四連覇でミドル級の最高峰に祭り上げられる桜庭だが、このところの人気急上昇によって、メンタル面が不安視されていたのも事実だ。一般マスコミまで巻き込んだ形の桜庭フィーバーは、取材ラッシュと言う形で桜庭の練習時間を奪い、精神面でも落ち着かない日々を送らせていたからだ。

 格闘技の強さはよく“心技体”の三本柱によって支えられると言われるが、こうして人気者になった一方で、ジムで過ごす時間が減ったことは確実に桜庭の“心”と“体”をむしばんでいたのではないだろうか。しかし、Uインターやキングダムの崩壊を経験してきた桜庭は、人気商売である格闘技選手の宿命としてそれを受け止め、いかなる取材も断らずに受けてきた。ある意味で頂点に立つものの宿命とは言え、余りに過酷な環境に置かれていることは否めない。先月末、アメリカで行われたキング・オブ・ケージでの後輩今村のデビュー戦につきあって渡米した際にも、苦笑いで「全然練習できてないですね」と語った姿が記憶に新しい。まして大会直前には風邪をひき、昨夜は38度の熱があったともいう。それでもメインイベンターとして試合を休むことの出来ない立場、それが今の桜庭の最大の敵でもあるわけだ。

 一方、たいするシウバは挑戦者であるがゆえに、ただ練習を積み桜庭を倒すことに専念できる立場にいる。現在PRIDE参戦から6連勝中であり、グラウンドでの打撃攻撃の制限がなくなったこともシウバには有利に働いている。

 BoutReviewが行った読者による事前予想のアンケートでは、700以上の投票のうち桜庭の勝利を予想する人が7割弱と大半を占めている。しかし、実際、僕は桜庭の敗北を密かに予想していた。

 ゴングに合わせて前に出るシウバだが、桜庭は低い姿勢でタックルをうかがう様な動作を見せる。しかし、かまわずフットワークを使って前に出、左右の早いパンチを放ってくるシウバの勢いに押されてダッキングしながら後退せざるをえなくなる。ロープ際に詰められたところで、ローを放って、タックルを狙う。だが、シウバは懐に潜らせず、首を取って得意のヒザにつなぐ。ついで、素早いパンチで攻め込むシウバ。下がる一方の桜庭は、プレッシャーを押し返すべく大振りの左フックを一閃。打ちあいを受けて左右を振りながら突進したシウバだが、カウンターの右をもらってぐらつきかけ、タックルでごまかしてロープに押し込む。


 組むと今度はヒザとアッパーが飛んでくるのを嫌って、パンチで突き放す桜庭だが、勢い甘って前のめりになったときに魔の瞬間が訪れる。首を捕らえたシウバが右のヒザをヒットさせたのだ。遮二無二パンチを振るって首相撲から逃れようとする桜庭の顔面に、シウバのストレートがぶち込まれる。この一撃はもろにクリーンヒットし、ロープを背負って守勢一方の桜庭は苦し紛れにタックルに出る。しかし、これを受け止めたシウバは首を取って、四つんばいの桜庭の顔面に二発三発と凶暴なヒザを飛ばす。この攻撃は今回から採用された新ルールで、かねてよりシウバに有利とされていたものだ。必死に、立ち上がろうとする桜庭をコーナーに詰めてパンチのラッシュ、止めのヒザを放つシウバ。

 ぐらりとマットに倒れこんだ桜庭の顔面に容赦なくキックを放つシウバ。朦朧となりながら、その足を捕らえに行こうとする桜庭だが、スタンド状態で見下ろすシウバはその頭部をサッカーボールに見立てたかように、非情な蹴りを走らせる。すでにこの段階で桜庭にはかなりダメージがあるようにも見え、レフェリーはストップを掛けてもいいように思えた。ただ、桜庭にはかつて97年12月のUFC-J のコナン戦で見せた“死んだふり”の攻撃パターンがあり、なまじそうした背景を知っている島田レフェリーゆえのためらいがあったのかもしれない。まるでゴキブリにょうにマットに這いながらシウバの足を求めて行く桜庭。だが、アドレナリン全開になっているシウバの攻撃は止まらない。上半身を起こした桜庭の顔面にためらい無くハイを放とうとする闘争本能は、まさに過酷なブラジリアンヴァーリトゥードで生き残ってきた強豪のそれだ。そのわずかな隙にも足を捕らえに行く桜庭だが、シウバの攻撃はさらに容赦が無い。いざる桜庭の背中を片手で押さえながら、頭部に標的を定めて蹴りを放つ非情なテクニックに、その越えてきた修羅場の数を感じさせる。押さえ込んだ頭に二発三発と身体ごと飛び込むような的確なヒザが入る。動きの止まった桜庭はかろうじて仰向けに逃れようとするが、その顔面に止めのローが吸いこまた瞬間、レフェリーはようやくストップを宣告した。これで桜庭は昨年のGP以来の三連勝でストップ。

 試合後のリングでシウバは桜庭手製の“SAKUベルト”を巻いて「今日勝てたのはみんなのおかげ」と喜びのマイクアピール。続いてマイクを取った桜庭は「すいません今日はやられちゃいました。僕的には余り効いてなくて止めるの早かったかな思ったんですけど、もう一回シウバ選手と試合したいと思いますのでよろしくおねがいします」と悔しさのにじんだコメントを残した。

 結局、自分の最も得意とするスタイルに持ち込んで、桜庭にIQレスリングをやらせなかったシウバのラッシュファイターぶりが光った試合であった。顔面を血まみれにされた桜庭は試合後ノーコメントで会場を後にした。一方、一夜にして世界の格闘技界を震撼させるシンデレラボーイとなったシウバは「スタンドファイトになったのはお客さんの目を意識して(桜庭が)いい試合をしようとしたからではないか」と冷静に勝利を分析、「いつでも再戦はうける」と余裕を見せるいっぽうで、ちゃっかり今後も日本でのファイトを熱望するコメントを残している。
 また、DSEの森下社長はコメントを残さなかった桜庭にかわって、控室での様子を「今回負けたことで、気楽になった、勝負事なんで負けることもあるといっていました。さばさばと割り切った様子でした」と伝え、この敗北を受けて先行き不透明になった“ヒクソンVS桜庭戦”については、「まずはシウバとの再戦をクリアすることが先決。ヒクソンの方も負けた桜庭と試合をしたがるかどうか判りませんから」と分析して見せた。

 果たしてこのまま桜庭はメインイベンターという重責に破れていってしまうのか、それとも再びヒクソン追撃のトップランナーに躍り出ることが出来るのだろうか。

<桜庭×シウバ・感想掲示板:Your Imprssion>

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レポート井田英登  写真:飯島美奈子

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