「佐竹に足りないものを安田は持っていた」
レポート:井田英登 写真:飯島美奈子
元新日本プロレス所属のプロレスラー安田忠夫が、昨年末大阪ドームの小川直也とのプロレスマッチを経由してPRIDEに参戦することになった。ギャンブルによる多額の借金や家族離散といったサイドストーリーばかりが強調されるが、そもそも前身は大相撲小結の孝乃富士。その腰の重さ、突進力には定評がある。その安田のPRIDEデビュー戦が、同じく昨年「PRIDE-11」でその小川に苦杯を飲まされた元K-1戦士の佐竹雅明の復帰戦の相手に選ばれたのは偶然ではない。現在、安田がわらじをあずけるプロレス団体「ZERO-ONE」の道場主・橋本真也をも含めた小川を巡るライバル物語として、この二人の対戦は彩られているわけだ。その背後にはこの一戦をプロデュースしたアントニオ猪木の構想する“格闘芸術路線”の世界観が見え隠れする。
しかし、リングの上で展開されたのは愚直なまでの“相撲VS空手”の異種格闘技戦だった。ファーストアタックでパンチをヒットさせたい佐竹に対して、安田はまったく付きあう気配もない。下がりながらパンチを当てていく佐竹を、猪突猛進でコーナーポストまで運び、四つに組みながらひたすらテイクダウンを狙う展開。しかし、佐竹も組んでからの腰の強さには定評がある。
結局、コーナー際で大男が四つに組んだまま動かない“我慢合戦”に終始する展開が続く。レフェリーがたまらずブレイクしても、結局安田がコーナーに運んで同じ状態を再現するので、大きな展開は全くみられない。佐竹も何発かいいパンチを顔面に当て、コーナーでも細かいパンチやヒザをとばしていくのだが、安田の肉体は全てそれを吸収してこらえる。一方、安田も組み技格闘技出身者としての引きだしを見せ、2R終了直前に、コーナーに詰めた佐竹を引き釣りだし腰でテイクダウンすることに成功している。このポイントと、試合開始早々ロープをつかんだ事で与えられた警告が響き、佐竹は判定負けを喫してしまった。
勝利した安田はリング上で号泣。やはりこの試合に賭ける気迫の点で、背水の陣を引くしかなかった安田が佐竹に勝ったということなのだろう。
「負けた気がしない、立ってただけだから」という佐竹の試合後のコメントももっともだが、突進しか知らないブルファイター安田に対して、それを仕留める武器を持たなかったのも事実であり、安田という物差しを経てリベンジを狙わねばならない小川との力量の差を見せ付けられてしまったのは、問題点であろう。PRIDE参戦以来、これといった戦績が残せない佐竹にとって「このリングで何を勝ち取るために戦うべきか」というモチベーションが見いだせないことは、やはり大きな問題点なのではないだろうか。それが定まらない限り、ファンの支持も、また具体的な戦いのスタイルも見えてこないはずだ。
「負けない」事だけでは答えは出ないのだ。
「何が欲しくて」リングに上がり、「何を得たくて」戦うのか?それを見直す時期に入っているのではないだろうか。それは単に抽象的な勝利への希求ではない。もっと形ある具体的なものでなければならないだろう。
借金で離散した家族を取り戻したいという安田の動機はドメスティックすぎて、都会人である佐竹には鼻白んでしまうような泥臭いものかもしれない。しかし、人の人生とは時にそうした泥臭さを引き受け、その汚濁を全身に被りながらも遮二無二進むことで前に進んでいくものである。現にカッコよさも、意地も全て捨てた形で試合に臨み、安田は判定を勝ち取ったではないか。
いっそ結婚して家族を持ってみるのも、今の佐竹にはいい転機になるかもしれない、そんなおせっかいなことまで考えさせられた試合だった。
また、この試合後、リングに上がったプロデューサー・アントニオ猪木は、昨年夏西武球場でのPRIDE.10で破れて以来動向が注目されていた石沢常光を呼び上げ、マイクを手渡す。ケンドー・カシンのマスクを脱ぎ捨てた石沢は「猪木さん、リベンジさせてください!」と半年ぶりにハイアン・グレイシーへの再戦要求をぶち上げた。一方、兄ヘンゾのセコンドとして来日していたハイアンも、同時にリングに呼ばれ「また日本のリングで戦いたい。よろしくお願いします」と事情がいまいち掴めていない様子ながら、マイクアピールしたため、これをもって「どうやら再戦が決まったようです」との猪木裁定が下された。早ければ、次回5月14日横浜アリーナで開催予定のPRIDE.14の目玉カードの一つとして投入されそうな勢いとなってきた。
<安田×佐竹
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