「恩讐の王子」
レポート:井田英登 写真:飯島美奈子
かつてカーウソン・グレイシーの養子にとまで言われ、将来を嘱望された“流浪の王子”ビクトー・ベウフォート。本来なら世界トップクラスのファイターとして数えられているはずのこの男が、なぜ第一試合という屈辱的なポジションに甘んじているのだろうか。
全てのきっかけは、おととしPRIDE-5での桜庭戦だったと言えるだろう。新制PRIDEシリーズの第一段となったこの興業で、縦横無尽の戦いぶりを見せた桜庭和志はそのままPRIDEシリーズのエースへの道をたどり、一方のビクトーはこの試合で負った怪我が原因で一年間の沈黙を余儀なくされたのであった。いわば、グレイシーハンターとして名前を上げていった桜庭の、その最初の標的、プロトタイプ#0として狩られてしまったのがビクトーだったと言うことも出来るだろう。それでもグレイシー姓を与えられた男達はその一族の威光で、逆襲のチャンスを与えられることもあるだろう。しかし、それさえもたないビクトーにとって、己の汚名は己でぬぐうしか、復権への道はない。
かくて桜庭を仇敵とつけねらう、ビクトーの恩讐の旅が始まった。
今や世界中のミドル選手の標的となった観のある桜庭の対戦リストに名を連ねるのは並大抵のことではない。まして一度敗北のらく印を押された相手ならなおさらのことである。とにかく戦績を残して、その位置まではい上がるしかない。
ビクトーの戦いがかつての華麗なマシンガンパンチ主体のものから、押さえ込みを中心とした判定狙いの地味な戦いに転じたのは、その思いとは無関係ではあるまい。リングス無差別級王者として鳴り物入りでPRIDE初参戦を果たした、ギルバート・アイブルの対戦相手としてPRIDE9ではメインイベントに抜てきされたものの、その扱いはあくまでアイブルを光らせるわき役扱いのものでしかないことも、落魄した王子は十分知っていたことだろう。だからこそ、それは落とせない試合となったわけである。臥薪嘗胆の思いでひたすら押さえ込みに徹したこの戦いは、判定で勝利を拾ったものの、ビクトーの評価を上げるには至らなかった。続くPRIDE-10では桜庭の後輩、松井大二郎を血祭りに上げ、桜庭との再戦をアピールをしたが、その後、その名前は桜庭の対戦相手にあげられるどころか、むしろ忘れ去られたようにさえなってしまった。
今回の参戦は前回から八カ月経過した後、ようやく訪れたものだった。そのうえ、その扱いは第一試合。
果たして、かつてオクタゴンに君臨した男の心中はいかばかりか?
まして今夜メインを勤める桜庭のヴァンダレイ・シウヴァは、かつて彼が母国ブラジルで自分が完膚なきまでにたたきのめした、格下の相手だったというのに。
今夜のビクトーの対戦相手のソースワースは、最近IFCなどで名をあげはじめたキック出身の選手で、ハウフ・グレイシー門下で柔術を習う傍ら、フランク・シャムロックのスパーリングパートナーも勤めるという男。けっして侮れる相手ではない。
共に距離を測りあうスタンドファイターらしい展開ではじまったこの試合だが、先に胴タックルで背中に付こうとしたのはソースワースだった。素早く身を翻したビクトーがロープに押し込み、反動でテイクダウンに成功する。パスガードを狙うビクトーの隙をついて、素早く立ち上がるソースワース。対応の早さ、体の返しの上手さを見ても、実力はなかなかありそうだ。だがビクトーは粘って、抱きつき再度テイクダウン。この辺りはキャリアが物を言う。パンチを落としていきながら、じわじわクロスガードを崩していき、一気に横投げにガードしていたソースワースの足を放り出すと、そのままバックを取ってそのままスリーパーで締め上げフィニッシュ。
仕掛けの早さ、上手さで、天才児と呼ばれた頃の片りんをのぞかせたものの、本来の実力はまだまだこんなものではないはずだ。仇敵と付け狙う桜庭との再戦を果たすのはいつの日か? 流浪の王子の戦いはまだまだ続く。
<ビクトー×ソースワース
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