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パンクラス 99.9.18 東京ベイNKホール
"1999 BREAKTHROUGH TOUR KING OF PANCRASE TITLE MATCH"
メインイベント(20分1本勝負 KING OF PANCRASE TITLE MATCH) 
横浜・王者
近藤有己
 
0'34"
レフェリーストップ
横浜
國奥麒樹真
 
×
 

凝縮された一瞬


 黒い縁取りの白いガウンで入場する國奥。黒いガウンの左肩に、KOPの大きなベルトを掛けて入場する近藤。コミッショナーのタイトルマッチ宣言に続く国家吹奏を、ガウンを脱いでじっと聴く近藤。その斜め後ろでシャドーをする國奥。この両者、過去の対戦は1勝1敗2分けで全くの5分。特に今年三月の試合は『ハイブリッドレスリングの完成型』と言われた名勝負。次世代を担うリーダー争いでもあるこのカードは、正に『パンクラス版名勝負数え歌』なのだ。

 レフェリー・チェックを受ける間、二人は互いに視線を避け合った。國奥は宙を見上げ、近藤はレフェリーとマットを交互に見ていた。コーナーに戻った二人は、ゴングを待ちながら初めて視線を合わせた。力みのない、澄んだ表情の二人。どちらともなく軽いフットワークを踏み始め、どちらともなくコーナーを離れる。そして運命のゴングは、二人をリングの中央に引き寄せた。

  右リードで右フック主体のコンビネーションを出す近藤。左リードでストレートにアッパーを混ぜる國奥。手が触れれば互いに連打を流れるように打ち出す。最初に打つのは常に近藤だが、國奥もカウンターで的確に当てる。近藤の左ハイキック、返す國奥は右のロー。合せ鏡のような打撃戦。國奥が低く潜り込んでのアッパーを決めて下がる。ふっと寄る両者・・・しかし、ここで近藤が飛んだっ!左の膝が國奥のアゴを真下から突き上げるっ!國奥の頭はガクンの真後ろに飛ばされ、その直後身体は真下に崩れ落ちた。近藤は『決まった』と確信していた。しかしすぐに國奥が四つん這いになったのを見ると、まだ立たない國奥にもう一度左膝を合わせ、そのままマウントし、ロープ際でも構わず掌底の雨を降らせた。攻撃個所がロープの外に出るのはアウトサイド。レフェリーが止めに入る。


  レフェリーはブレイクを告げると即座にタイムストップを要請。國奥の口から血が出ている。それをチェックするつもりだったのだろう。だがレフェリーが國奥の腕を取りロープ際へと誘うと、國奥はそのまま体重をレフェリーに預け・・・レフェリーは慌てて本部席に試合の終了を告げ、ゴングが乱打される。國奥を抱いたレフェリーはそのまま國奥に押し倒されてしまう・・・そのとき会場には、高らかに試合結果がコールされていた。

 まさに凝縮された一瞬と呼ぶべきであろう。あまりにも突然で、衝撃的なタイトルマッチの幕切れだった。6年前パンクラスが旗揚げした当初、衝撃的な秒殺オンパレ−ドでその存在を強くアピ−ルした事を彷彿とさせる結果でもある。当時の秒殺は選手の実力レベルの格差が生んだあだ花でしかなかったが、6年経った今、純粋培養されたパンクラシスト二人のせめぎ合いは、居合抜きのように瞬間の反をを争うミクロの闘いとして展開された。見事な進化と言う他無い。船木が己のファイタ−としての我欲を捨ててまで実現したかった闘いはこういうものであったのか・・・・。


  この近藤の勝利は、一点の曇りもない快勝であった。それは最大の賛辞をもって評されるべきだろう。ただ一つ問題があるとすれば、レフェリングだ。近藤は飛び膝蹴りで崩れていく國奥の様子を見ていた。『決まった』思うのも無理はない崩れ方だった。レフェリーも一度は両手を振った。しかし國奥が四つん這いになろうとしているのを見て、続行を促した。しかしそれは誤りである。実際アウトサイドブレイクの後、國奥は立っていられない状態だと判明した。展開次第では、もっと危険な場面になっていたかもしれない。近藤は試合後『あそこで止めて欲しかった』と語った。


 選手は少しでも動ければ闘い続けようとするものである。それが危険な行為かどうかを判断するのは、レフェリーの役割である。あの倒れ方はたとえ意識があろうと、戦闘意欲があろうと、止めなければいけない倒れ方だ。残念だが岡本レフェリーのこのようなトラブルは、初めてではない。現在のパンクラスはダウンカウントを廃止しているため、打撃によるダメージで倒れた選手の扱いには、今後いっそうの注意が必要だろう。逆に言えばこの試合は、続行とKOの境界線を見る絶好のケースとなった。この試合での経験を無駄にすることがないよう、審判団には今後より的確なレフェリングを望みたい。



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レポート:誉田徹也・井田英登 カメラ:井田英登