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パンクラス 99.9.18 東京ベイNKホール
"1999 BREAKTHROUGH TOUR KING OF PANCRASE TITLE MATCH"
第2試合(ランキング戦 15分1本勝負) 
オランダ
セーム・シュルト
 
15'00"
判定3-0
横浜
美濃輪育久
 
×
 

巨人の国のガリバー


  リング上はさながら『ガリバー旅行記』に迷い込んだような光景であった。はたしてこの試合の主役は巨人の国に行ってしまった美濃輪なのか?それとも小人の国に迷い込んだシュルトなのか? ネオブラッドを制して一機にランカ−を目指す美濃輪と、次々に日本人選手を降して、今やベルトの再短距離にいるシュルト、いずれも旬といえる二人の主人公争いがくりひろげられる事になった。

 さすがに勢いのある選手同士のことであり、これだけの身長差がありながらリングにはぴんと緊張感がみなぎっている。互いに距離を探り合う動き。シュルトはいつもどおり長身の利を活かしてプレッシャーを掛け、距離を詰めにかかる。しかし、この瞬間、美濃輪の見せた動きはこの試合最大の見どころであった。

   なんと美濃輪はその場で前転して、距離を一機に詰め、シュルトの左足にタックルを仕掛けたのである!リ−チの長いシュルトのファ−ストアタックを躱すために、考え抜かれた奇襲攻撃。普通にいけば、シュルトの圧倒的有利は動かないであろうこのカ−ドであったが、いきなり美濃輪がダビデとゴリアテの奇跡を呼び込むかもしれないという予感か、会場が一機にどよめいた。


  はたして奇襲はみごとに的を射抜いた。

 美濃輪は無傷でシュルトを寝かすことに成功する。美濃輪はそのままシュルトの巨体をコントロールしてサイドポジションをゲット。腰を浮かせてニー・イン・ザ・ベリーから、腕十字!これを凌がれた後も三角締めを試みたが、美濃輪ペースは長くは続かなかった。シュルトはインサイドガードからのボディパンチ。普通なら嫌がらせ程度のこの攻撃も、シュルトがやると普通の選手の膝蹴りがクリーンヒットしたくらいの威力があるに違いない。顔面への掌底も織り交ぜながら、今度はシュルトがサイドポジションをゲットする。

 小さな隙間を見つけては、シュルトのポジションから逃げる美濃輪。だがグラウンド技術も習得しつつあるシュルトは美濃輪の動きについていく。そして有利なポジションから顔面への掌底、ボディーへのナックル、ギロチンチョークや肩固め・・・美濃輪の表情が徐々に曇っていく。マウントから肩固めが決まりかけたときは、美濃輪の右手はシュルトの脇腹をタップする寸前だった。だがネオブラッドを勝ち抜いた美濃輪は、精神的にも大きく成長していた。その手の平を握り返し、シュルトの脇の下にねじ込んで肩固めを解除。だがなおもシュルトのマウントは続き、掌底、肩固め・・・これを嫌って半身に起きた美濃輪に、シュルトはチョーク狙い。これを凌いで美濃輪はようやくインサイドガードながら、再びシュルトの上になる。そして後ろに倒れこみ、足関節を狙う。亡くなった長谷川選手の勇姿が、見る者の脳裏をよぎる・・・


  だが残念ながら、シュルトもあの日のままではない。あっさりと美濃輪の上になって、これを凌いでしまう。そしてまた掌底、ボディーへのナックル、肩固め・・・決め手に欠けると見るや自ら立ってブレイクに。試合時間10分。スタミナの切れかかった美濃輪に、スタンドでとどめを刺すつもりなのだ。強烈なローキックが美濃輪の左足を襲う。だが崩れるように見えて、美濃輪はそのままシュルトの蹴り足をすくいにいく。上にはなれなかったが、なんとか倒したシュルトにガードポジションを取る美濃輪。でも思うように技を仕掛けることが出来ない。一度ブレイクはあったものの、似たような展開にもう一度なり、最終的にはシュルトがマウントする形で試合終了のゴングを聞いた。


  結果は3者共30−27で、シュルトの判定勝利。だがここで注目すべきは結果ではない。シュルトはタイトルに最も近い選手であり、このところは渋谷に極め勝ち、稲垣にKO勝ち。これまで船木も鈴木もメッツァーも倒してきた選手である。現KOPの近藤でさえ、時間切れ判定勝利がやっとの選手である。それをランキング戦初挑戦で、KOもタップも奪われずにノー・ランカーの美濃輪は凌いだのだ。

   この試合の主役は、巨人の国のガリバー・・・美濃輪育久であったと、言っても過言ではあるまい。



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レポート:誉田徹也・井田英登 カメラ:井田英登